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薬草研究会 1

「じゃあ僕は薬草研究会に行ってみるから、レオルは違う部活でも見て来なよ」


「そうだな、俺は戦闘系の部活が本命だし。またな、ドミニク!」


 フライパンを持ったレオルと広場で別れ、案内ボードから目当ての部活を探す事にした。


 どれどれ……あった! 薬草研究会だ。部室は実技試験を行なった校舎裏の近くか。


 ボードに書いてあった通りに校内を進むと、薬草を育てるビニール室と、その隣に小さな木製の建物があった。


 ボッロいなー、こんな所で本当に部活動してるのかな。


 長く放置された穴だらけのビニール室、隣の部室は物置小屋と見間違える程狭く、鍛冶部の半分のスペースも無かった。


 部室の扉を開けて中を覗くと、所々に穴の空いた床の上に、パンパンのゴミ袋が散乱していた。


「入部希望なんですけどー。うっわ、ここもゴミ袋だらけだ。鍛冶部と大差ないなー」


「ねえ! ちょっとそこの君!」


 ん? 誰かの声がしたな。


 部屋の奥を見てみると、脚付きの台に乗った美少女が、棚の上の方へ必死に手を伸ばしていた。


「君なにやってるの?」


「丁度良かった! あの瓶を取りたいんだけど、高くて届かなくて……」


 棚の上の瓶かな? 見た感じ、枯れた薬草が入ってるけど。


「危ないから1回降りて。はい、手をどうぞ」


 台の上の危なっかしい女の子に手を差し出す。


 しっとりとした雪色の髪、聡明な薄い紫色の眼、この娘も入部希望かな? 少し照れた様子で僕の手を握り返して来た。


「あ、ありがとう! ねえ、君どこかで会った事ある?」


「もしかして同じクラスじゃないかな? 少し待っててね。

 現代魔法・『ムーブ(移動)』&『グラビティ(重力)』」


 片手で魔法陣を2つ描き、棚の上の瓶を『移動』の魔法でズズズと移動させ、そのまま落下させる。

 落下して来た所に『重力』の魔法を発動させ、瓶を羽根の様に軽くし、両手で見事にキャッチした。


「すごーい、2連詠唱(ダブルキャスト)なんて初めて見たよ! もしかして君って天才?」

「うーん、普通でしょこのくらい」


 白い髪の女の子は興奮気味に僕の左腕を掴み、息が掛かるくらい顔を近づけて来る。


「って近いよ! あ、あんまりひっつかないで」


 僕の照れた反応を面白がり、ふざけて腰に腕を回して来た。


「なに照れてるの? 瓶のお礼だよ、ほらほら~」

「こ、こらっ、ふざけてないで瓶の中身を調べるよ」


 瓶の蓋を開け、中身を確認すると、やっぱり青い枯れた薬草が入っていた。


「それで、この枯れた薬草をどうするの?」

「わざわざ棚の上に置いてあるから、貴重な物かと思ったんだけど……枯れたブルーハーブかな?」


 腰に手を回したまま、今度は瓶を持った僕の腕に顎を乗せ、興味有りげに僕の顔を見てくる。


「だから近いってば!」

「良いじゃない、別に減る物じゃないしー」


 せっかくカレンから解放されたと思ったら、また新たな引っ付き虫に気に入られてしまった……カレンとは大分凹凸の差が激しいけど!


 枯れた薬草を瓶から取り出し、2人で観察していると、ガチャっと部室の扉が開いた。


 寝癖の付いた薄紅色の髪を掻き、だらしなく欠伸をする教員らしき人が部室に入って来た。


「こんにちは、貴方達もしかして見学かな? 私がここの顧問のルイスよ。とは言っても部員も部費も0の研究会なんだけどねー」


 返事も待たずに僕達の間を通り抜け、机に紙袋を置き、そのまま部室のソファーへと腰を下ろした。


 この人は確か、クラス分け試験の日に門の前で受付をやってた先生だな。とりあえず自己紹介しとこう。


「初めまして、ドミニク・ハイヤードです。一応ステータス称号は学者です、家で薬草の保管室を作って研究もしてます」

「初めまして、私はアイリス・ロウスです。私の家にも保管室があります、同じくステータス称号は学者です」


 僕につられて挨拶をする雪色の髪の女の子、名前はアイリスか。彼女も僕と同じ学者の称号持ちみたいだな。


「はいはい、敬語はいいわよ。気軽にルイスちゃんって呼んでねー、んん? 今もしかして学者って言った!?」


 ルイス先生は、取り出した生徒名簿をパラパラとめくり、名簿と僕達の顔を交互に見比べ始めた。


「貴方達Aクラスの主席と次席の天才コンビじゃないの! もっと他に良い部活があったでしょ、ぶっちゃけここ草むしってるだけよ?」


「むしってるだけってどういう事ですか? 研究は行ってないんですか?」


 どうなってるんだ? 先生のやる気のない言葉に一瞬耳を疑い、部室に放置されていたゴミ袋を急いで退けた。


「調合道具が見当たらない……何か変だよここ、本当に部室なんですか?」


 ルイス先生はアイリスの真剣な問い掛けに、何食わぬ顔で即答した。


「そりゃそうよ、1ヶ月以内に何か実績を残さないと廃部になるからねー。それに部員が居なくなってからは、研究会として私が趣味の範囲で部室を使ってるだけだし」


 えええ、いきなり廃部? ってかこの先生もうソファーでダラダラし始めちゃったぞ。


 アイリスが冷たい視線をルイス先生に向けて、言葉を続ける。


「廃部寸前にしても調合道具が無いなんて、研究会としてどうなんですか……」

「いやー、もう使わないと思ってビニール室に片付けちゃったのよ。昔はバイト感覚でポーションとか作って売ってたんだけどね、最近の生徒は調合に興味が無いし」


 確かに、薬草調合の技術はあまり冒険者に認められていない。怪我は魔法で回復できるし、ギルドで販売されているポーションもそんなに安い物じゃない。


 にしても困ったな、これじゃ部活にならないぞ。


「ねえドミニク君、とりあえず調合道具を探しにビニール室に行ってみようよ」

「そうだね、まだ使える物が残ってるかもしれないし」


 ※


 2人でビニール室に行き、ホコリにまみれた調合道具をなんとか回収した。


 部室に戻り、集めて来た材料でポーションを作ってみる事になった。


 調合に使う薬草を、机の上に並べて行く。


「各種赤、青、緑の薬草が5本と聖水が1瓶ね、少ないけど何とかなる?」

「保管室にあった物で使えそうなのはこれだけだし、とりあえず簡単な赤のレッドポーションを1本だけ作ってみるよ、道具の反応を確かめないとね」


「私はここで見てるから、2人でお願いねー」


 紙袋を漁って菓子パンを食べ始めたルイス先生は放置し、調合を開始した。


 調合道具は、薬草をすり潰す乳鉢と乳棒、聖水とすり潰した薬草を混ぜるガラスの容器だけだ。容器の目盛りは欠けて見えない上に、表面が白く濁った年季ものだった。


 薬草をすり潰して直感で分量を図り、聖水でグツグツと煮て混ぜる。


 良し、そろそろかなー。


 販売用の蓋付きの100ml容器に移すと、真っ赤な液体の「レッドポーション」が完成した。


 ステータスカードをかざして、薬品の質を確認してみよう。


 一一一一一一一一一


『名前』:ゾンビーポーション


『素材』:枯赤草、泥水


『品種』:ポイズン


『薬品ランク』E


『破壊力』:S


『薬品影響度』:500%

【薬品が体にもたらす悪影響】


『ステータスカード称号』:猛毒薬


 一一一一一一一一一


「何だこれゾンビー? 材料が腐ってたみたいだ、ごめんアイリス」

「ううんドミニク君のせいじゃ無いよ、もう一回やってみよう、ってあれ? 水が無いけど水道は?」


 水道を探す僕達に、ソファーからやる気の無い声が飛んで来る。


「へ? 薬草研究会に水道なんてあるわけないでしょ、水なら『妖精言語部』よ。部長兼、生徒会長のピクシーちゃんに頼んで貰って来なさいー」


 水道も無いのか!? 本当に大丈夫かこの部活……


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