自己紹介
入学式は、クラス分け試験の時と同じ会場で行われていた。
僕が待機している壇上の舞台裏まで、拡声の魔法による司会進行の声が聞こえて来る、この声はカルナ先生かな。
式には新入生の保護者も参加してるけど、僕とカレンの両親の姿は無かった。
僕の両親は、知る人ぞ知る考古学者だ。自然界に残された古代遺跡の探索を行い、集めた遺産から古代に関する調査を進めているらしい。
カレンの父親は、忍びの国の出身だ。元々はあっちの国に引っ越す予定だったのを、当日になってカレンは嫌だと泣き喚き、見送りに行った僕にしがみ付いて離れなかった。
結局、無理を言ってこの街に残ったカレンは、両親とは少しだけ険悪な状態なのかも知れない。
《次は新入生代表の挨拶です!》
おっと、もう僕の番か! こういうの苦手なんだよなー。
舞台裏からカーテンを抜けて、大きな舞台に歩み出る。
シンッとした空気の中、壇上に立ち、深々と頭を下げると、みんなの視線が集まって来るのを感じた。
……真っ白になりそうな頭を落ち着かせ、深呼吸し、制服のポケットから用意してあったスピーチの紙を取り出した。
「えー、では! 天空を駆けるドラゴンの訪れと共に、僕達、普通の冒険者の卵は、無事に一般的な養成学校の平凡な1年として、迎えられる事と成りました、つきましては一一一一」
※
開始前に一悶着あったけど、なんとか入学式は無事に終わった。
自分のクラスに移動し、私語のない教室を1番後ろの席から見渡す。
Aクラス28名、見知った顔はカレン、リーシャ、レオル、見なかった事にしたいけどギーシュを入れて4名だ。
クラス分け試験の結果、上位からA、B、Cの3つのクラスに分けられ、ここは最も優秀な生徒が集まったAクラスだ。
他の生徒とは話すタイミングが無かったし、これから友達になれると良いなぁ。そして担任は、僕のサポートをしてくれると約束したあの先生だ。
「にん! 我が担任の追影でござる。これから1年よろしく頼むでござる! まずは全員の自己紹介からだ」
教壇に陽気な忍者が現れると、生徒達は不満げに机にうな垂れた。
「まじかよー、カルナ先生が良かったのにー」
「ハズレじゃんー、追影先生かよぉ」
「ドーリス先生? 誰それ?」
教員の1番人気は、男子のお色気票を集めたカルナ先生だった。ドーリス先生は忘れられてるな……
露骨な不満の声に、さすがの追影先生もショックを受けたのか、だらしなく額当てが傾いていた。
「は、早く自己紹介するでござる! まずは主席のドミニク殿!」
僕が1番最初か……第1印象は肝心だ、しっかり自己紹介しないと!
「初めまして、僕はドミニク・ハイヤード。趣味は調合で、一応ステータス称号は学者です。よろしくね」
何事も無かったかの様に、スマートに椅子に座り、全神経を研ぎ澄まして、僕への評判に聞き耳をたてる。
「首席のドミニク君だ。実技も筆記も1番だって、かっこいいよねー」
「学者で将来有望な上に、見た目も優しそうだしねー」
……中々、悪くない評判だ。同じく女子達の内緒話を聞いていた男子達が、ガタガタ!っと机を揺らして一斉に立ち上がった。
「待てよ! 女子ども騙されるな!」
「森にケルベロスを放ったのはあいつだぞ、中身は絶対ドSだ!」
よ、余計な事を……ある意味ド『S』なのは間違って無いけど!
自己紹介は続き、人見知りのカレンは硬い表情のまま、なんとか自己紹介を終え、みんなの声に耳を傾けていた。
次はリーシャの番か。
リーシャがスッと立ち上がっただけで、その美貌に男子生徒の注目が集まる。
「私はリーシャだよ、えっとー、特技は料理かな! よろしくねっ」
はにかみ、ニコッと笑うと、男子の雄叫びが上がった。
「うぉおおお! リーシャちゃぁん!!」
「可愛いよぉ! なんだあの天使は!」
「好きだぁぁぁ!! 料理食べてぇぇ」
リーシャの人気は半端なかった、ふわふわの金髪に星の様な青い眼、それに加え天使の笑顔、誰が見ても可愛いからね!
ギーシュはいつもの調子で自慢話で空回り、澄ましたレオルはガチガチに緊張していたのか、何言ってるのか全然聞き取れなかった。
やっと全員終わったな。追影先生は話が苦手な生徒をフォローしたりと、やっぱり気の利く忍者だった。
「今日はここまででござる! せっかく同じクラスの仲間になるんだ、しっかりと交流を深めるでござるよ。では、部活見学してから帰宅するでござるー」
顔合わせが終わり、生徒達が教室から出て行き始めると、一目散に、リーシャとレオルが僕の席へ向かって来た。
「よぉドミニク、部活見学に行こうぜ、道場破りだ!」
「ドミニク君! 料理部に興味は無いかなっ? ここの食堂ってすっごく美味しいらしいよっ!」
「わかったよレオル、リーシャ、痛いから離せって! 言っとくけど僕は薬草研究会に入るからね」
いつの間にか後ろに居たカレンが、哀れむ顔で僕を見ていた。
「薬草研究会、地味ね……」
「ほっとけ!」
部活見学に向かう生徒達の中、お坊っちゃま君が椅子の上に立ち、にやけた顔でパンパン! と手を叩き始めた。
「はいみんな注目ー! 僕は『占い部』に入るんだ。プラネックス家の次男である僕に、占って欲しい女の子!」
みんなギーシュの性格を察しているのか、誰も相手にする人はいな無かった。
「おい、誰か止めてやれよ」
「部室から2度と出てこないでね」
※
カレンはリーシャと一緒に料理部へ、僕はレオルに付き合って適当に部活見学に行く事にした。
騒がしい教室を後にし、階段を降りて校舎から出る。
「レオル、まずは広場の案内ボードを見に行こう」
「ああ。なぁドミニク、向こうから変な音がしないか?」
レオルの向いた先、校内にある部活用の工業地帯の方からカァン!と爽快な金属音が耳に入って来た。
「確かに、金属を叩く音が聞こえるね」
「多分、鍛冶部か何かだな。面白そうだし見に行くか!」
音のする方へ歩いて行くと、工業地帯にある鍛冶部らしき工場の入り口から、新入生の呼び込みをする上級生の姿が見えた。
「鍛治部だよ! 君も最強の剣を作って見ないか?」
「新入生歓迎です、見に来て下さーい、実際に武器を作る体験も出来ますよー」
実際に鍛冶を体験できるのか、最強の剣か……面白そうだし僕も作ってみようかな!




