雪山探索 3
冒険者ギルド受付奥の事務室で、ユリアの後輩が許可証の確認作業を行なっていた。
「ちょっとユリア先輩来て下さい、なんですかこの許可証!」
「どうしたのよー? 可愛い後輩ちゃん」
「どうしたのよ、じゃありませんよ!『黒剣の導』なんかにEランクの、しかも14歳の子供を紹介するなんて……」
バレないだろうとドミニクの補助要員としてのクエスト実績を書き換えたユリアだったが、早速、後輩に仕事の粗を指摘されてしまった。
「良いじゃないケチー! 荷物運び誰でも歓迎って募集内容にも書いてあったでしょ!」
「そこは良いんです、問題はこのリーダーの男ですよ。黒剣のグレア、別名、荒らしのグレア、有名な装備荒らしの泥棒って噂なんですよ」
「ええ!?」
ユリアの全身から、冷や汗がドバッと吹き出した。書類偽造に加え、犯罪者と14歳の少年を同じパーティにした事がバレたら重大な責任問題になる。
「聞いてないわよ!? どうしよぉぉぉ!」
「はぁ……私知りませんよ。ちゃんとギルドの要注意人物ファイルの確認して下さいね」
ギルドには過去に罪を犯した罪人を新人冒険者と一緒のパーティにしない様、配慮する決まりがあるが、ベテランの受付で合っても、噂の段階では大丈夫だろうと見逃す事の方が多い。
※
標高5000m、雪山の崖下に大きく開いた不気味な洞窟の穴があった。
雪が降り積もる洞窟の入口を前にして、黒剣の導リーダー、グレアさんの自慢話が始まっていた。
「それでだなー、俺がこの黒曜石の剣でレッドドラゴンの首、いや翼だったかな? まぁ良いや、サクッと切り落としちゃったわけよ! これがそのドラゴンが落とした爪だぞ、見てくれ!」
「レッドドラゴンを!? 凄いです、さすがグレア師匠!」
「zzzz」
目を輝かせ自慢話に聞き入るリリアン、その隣で立ったまま仮眠を取るシープさん。
レッドドラゴンの爪か……僕が前に火山で倒した奴と同じだな、どれどれー?
見せびらかしていた爪を覗いて見ると、そこには斑のある安っぽい緑色の爪が置かれていた。
あれ? 色も形もかなり違うぞ……僕が倒したレッドドラゴンの爪は、もっと宝石に似た輝きを放つ赤色だった。
あれは多分、グリーンリザードの爪だよね?
レッドドラゴンの爪と聞き、傭兵2人も興奮気味に食い付いた。
「聞いたかよ! レッドドラゴンを倒したのか!? すげーな」
「黒剣のグレアの名は伊達じゃないな!」
グレアさんは傭兵達の期待に応える様に黒剣を構え、剣の型を披露しながら言い放った。
「洞窟内のモンスターは俺が全部倒すからな! 荷物は全部台車に乗せるんだぞー、その為に荷物運びを雇ったんだ! なぁドミニク君」
「はい……でもそれってグリーンリザードの爪じゃ?」
僕の指摘に、顔を真っ赤にしたリリアンが詰め寄って来た。
「ふんっ、ランクEの荷物運びの癖にグレア師匠を疑うっていうの? 惨めね。レッドドラゴンなんて見た事すらない癖に!」
「そんなつもりじゃ無いよ、ごめん」
怖い怖い、いちいち相手にしてられないので退散する。ふぅ……いつまでここで自慢話してるんだろ、早く洞窟に入りたいんだけど。
肩に降り積もる雪をはたいていると、ルミネスが何かの異変に気付き耳打ちをして来た。
「どうしたの? ルミネス」
「ドミニク様、あのシープとかいう男の杖を見て下さい」
シープさんの腰に下げられた両手用の黒い杖、見た目は僕が実技試験で使っていた、大気竜の杖に似てるけど問題はそこじゃないな。
あれは呪いの魔導具だ。杖の先の白い宝玉から、呪いのオーラが出ている。
「かなり強力な『催眠』の魔法が込められてるね、シープさん自身も制御出来てないから、あんなに眠そうにしてるんだよ」
「さすがです、恐らく常人であれば4日は眠ったままになる呪いの魔法ですね。ドミニク様なら3秒位で起きれると思いますが、一応ご注意を」
『呪いの装備』は強力な魔法の力が自然に宿った装備だ。洞窟や自然界で入手でき、冒険者の間で高値で取引されている。
ルミネスがそうだった様に、魔獣が封印される事によって呪いの魔導具と化す事もあるみたいだ。
それにしても、なんで制御出来ない呪いの杖なんて持ってるんだ? 自慢話ばかりで急に胡散臭くなって来たなー。
2人とも本当にAランクの冒険者なのかな?




