雪山探索 1
実技試験でも良い結果を残し、主席となった僕は上機嫌で我が家へと帰って来た。
「あ、ドミニク様、お帰りなさい!」
「……何やってるの」
何故か召喚陣に戻した筈のルミネスが、僕の部屋でお菓子を食べながら寝転がっている。
「何でいるの!? 出てってよ」
「そんなぁ、ドミニク様ぁ……」
ルミネスを部屋から追い出し、合成室の本棚から取って来た魔獣の図鑑を読み漁る。
やっぱりリーシャにだけ召喚獣をプレゼントしたのは不味かったかな……カレンにも何かプレゼントしないとな。
図鑑のページをめくり、可愛い感じの魔獣を探す。変な話カレンも女の子だからなー、妖精っぽい魔獣が良いよね。これなんかどうだろう?
『雪の妖精・スノーフェアリー』、描かれている絵は雪景色に優しく漂う透明なクリオネだ。
うん、結構可愛いしロマンチックな感じだぞ……いやでも、ケルベロスを可愛いって言ってたくらいだ、頭は3つ付いてた方が良いのかな?
うーん、決まらない……
※
図鑑と召喚魔法の本を夜通し読み続け、気が付いたら部屋の窓から朝日が射し込んで来た。
ふぁーあ……もう朝か……ルミネスに召喚魔法について相談してみるか。
欠伸をしながらリビングの扉を開け、ソファーで寝ていたルミネスを揺すって起こす。
「起きてルミネス」
「むにゃむにゃ……にゃぁ」
メイド服がはだけたままのルミネスをソファーに座らせ、キッチンで朝ご飯用の乾麺にお湯を入れた。
「ふむふむ、それで『召喚契約刻印』を、あの地味娘のネックレスにも刻みたいと? 魔力が高すぎて暴発してしまいますよ」
「地味娘じゃなくてカレンね。もう少し魔力の吸収率が高い石じゃないとだめかー」
あれから召喚魔法について調べて見たけど、条件や制約が多い。
『召喚契約刻印』は魔獣に服従の契約を結び、使い魔とする魔法だ。一般的に、魔獣と魔法石にこの魔法陣を刻み『服従』『召喚』を行う。
しかしこの魔法は適正Bランク以上を必要とされる魔法だ。僕が魔法陣を刻んだ場合、魔力が高すぎてSランク以上の適正魔法となってしまうらしい。
それにより、魔法適正の低いカレンが魔力を込めても、魔法陣への魔力供給が不完全となり、行き場を失った魔力が暴発する可能性がある。
場合によっては、使用者となるカレンにも危険が及ぶ可能性があるらしい。
頭を抱える僕を見かねたルミネスが、不思議そうな顔をして尋ねて来た。
「私が魔法陣を刻めば良いんじゃないですか?」
「カレンの入学祝いも兼ねてるから僕がやらないと意味が無いんだ、何か良い方法は無いかな?」
ルミネスは事の本質を理解してくれたのか、すぐに頭を回転させ解決案を出してくれた。
「そうですね、エリシアス地帯の雪山にある『クリスタルの魔法石』はどうですか? クリスタルは供給された魔力に対して、外部に魔力を放出する事で暴発を防ぐ特性を備えています」
素材の楽園『エリシアス』
僕がレッドハーブを採取しに行く『火山』の他に『雪山』『草原』の3つの地域から成る冒険者ギルドの管理下にある場所だ。
素材の楽園と言われる通り、各種薬草から魔獣に古代の遺産と、貴重で価値のある素材の宝庫だ。
「クリスタルかー、エリシアス地帯までは行けるんだけど、雪山の洞窟へは冒険者ギルドの許可証が無いと入れないよ」
「面倒ですね、誰かギルドの職員に知り合いとか居ないんですか?」
「うーん」
ギルドの管理下にある危険な場所には、入場出来る冒険者ランクに制限がある。
エリシアスの雪山の洞窟に入るには、Aランクの冒険者カードか入場許可証が必要だ。
……いや待てよ、1人だけ許可証を書いてくれそうな人がいるじゃんか、僕の個人情報を漏らした罪を償ってもらおうかな!
「ルミネス! 今から冒険者ギルドまで行くよ!」
「はい! あてが見つかったのですね!」
空間転移を使い、家のリビングから冒険者ギルドへと向かう。
ルミネスの手を引き、転移の狭間から飛び出すと、見事にギルドの受付があるロビーにワープした。
ルミネスはクンクンと転移の狭間の匂いを嗅ぎ、指でつついていた。まるで猫だな……
「本当に転移した……信じられません、空間を魔力で強引に繋げているのですか?」
「まあそんな感じかな、ちょっと待っててね」
受付のカウンターに手をつき、奥の部屋に向けて叫ぶ。
「ユリア・コーネリアさーん! いませんかー? Eランク冒険者のドミニク・ハイヤードですよー」
バタバタと慌てた様子で、冒険者ギルド受付の女性職員、ユリアさんが『魔法投影機』を持って奥の部屋から飛び出して来た。
「待ってたのよドミニク君、 ちょっと失礼」
《パシャ!パシャ!》《カシャ!》
「ちょっと! なんで写真とるんですか! くっそルミネス気絶させて!」
「えっ気絶!? 良いんですか?」
「今までで何処にいたの!? とっておきのネタを逃してたまるぐえぇ!」
ルミネスの『衝撃の魔法』がユリアさんに直撃すると、だいぶ大人しくなったので部屋の奥へと運んでお茶を入れた。
「ふぅ、死ぬかと思った……そこの獣人メイドさんはドミニク君のお友達かな?」
「ふふ、私はドミニク様の漆黒の使い魔、魔界より舞い降りた堕天の一一一一」
得意げに病気を発症したルミネスは放置し、本題に戻る。
「それで本題なんですが、雪山の洞窟に入る許可証を書いて貰いたいんです」
ユリアさんはこちらの考えを見抜いたのか、苦い顔をして無言になった。
「嫌とは言わせませんよ、断ったらユリアさんが無許可で書いた僕の本の事を、ギルドのお偉いさんに告げ口します!」
「ぐぬぬ、それは困るわね! でも許可証ねぇ……それなら他のAランクパーティの荷物持ちとして、洞窟探索に参加するって言うのはどう?」
荷物持ちか……高ランク冒険者と一緒なら危険も回避できるし、クリスタルさえ手に入れば問題ないな。
「それで構いません、 僕の目的はクリスタル採取なので。出来れば適正者のいるパーティでお願いします」
「はいはい、洞窟探索のベテランで鉱石採取のランクが高いパーティを選別しとくわね。現地で許可証を出せば紹介して貰えるわ」
ユリアさんは深くため息をつき、重い腰を上げると、棚から許可証を取り出し偽造を始めた。
よくよく考えたら、僕もルミネスもクリスタル及び鉱石採取の適性が無かった。せっかくの素材を駄目にしちゃもったいないからね。
ギルドでは受付や案内のボードからでもパーティに参加出来る、利用しない手はない。
話も終わり受付で待っていると、不満そうに許可証をもったユリアさんがやって来た。
「これが許可証ですか? っていうか勝手に僕の事を記事にしないで下さいね」
「ごめんごめん! これで例の件は内密にーって、消えた! どこ行ったの!?」
隙を見て空間転移の狭間に入った。これ以上ユリアさんに絡んでいてもロクな事がない!
さて、現地のAランクパーティとやらに会いに行くとしますか。




