表彰式
森に複数のケルベロス放ってから数分後。
シールの加点を眺めていたら、仕掛けられた通信魔法から追影先生の声が聞こえて来た。
《これにて実技試験終了だ! 生き残ってる生徒も校舎裏に集合するでござる》
ええ、もうお終い? 教員を倒したのは僕だけか。
ケルベロス召喚に気付いていない2人は、突然の試験終了の知らせに、何が起きたのか解らない様子で顔を見合わせていた。
「どゆこと……?」
「終わったみたいだね、どうなったのかなっ?」
カレンは僕と一緒にいたので無傷、リーシャは森で体力と魔力を使い果たし、シールが消耗し汚れていた。
空気を読み間違えたルミネスがちゃっかり僕の隣に立ち、一緒に退散しようと促して来る。
「では神々の戯れも終わった様なので、人間共を漆黒の闇の欠片へと貶めるといたしましょう」
「ルミネスは連れて行く訳にはいかないから、一旦魔法陣に戻ってね。『強制送還』っと」
「そ、そんなぁー、私も連れてって下さいよ!」
ルミネスの足下に現れた強制送還の魔法陣が、ズズズズと細い足を呑み込んで行く。
「にゃあ! 吸い込まれるぅぅ! ドミニク様! 漆黒の」
《スポッ》
「あ、吸い込まれちゃったね」
「まだ何か喋ってたよっ」
無事にルミネスもゲットホームしたので、学校裏の集合場所へと向かう。
楽しかったなー、杖は壊れちゃったけど興奮草のサンプルも手に入ったし、リーシャとも仲良くなれたしね!
森の傾斜を下り切ると、石畳で舗装された校舎裏が見えて来た。
もう生徒で溢れ返ってるな、あ! 忘れてた……どうしよう、壁に穴が空いたままだ。
カルナ先生はまだ戻ってないな、追影先生とドーリス先生がみんなを纏めていた。
「お疲れ様! みんな頑張ったな。整列しろー!」
カルナ先生の不在を不審に思った女生徒が、ドーリス先生へと話しかけた。
「ドーリス先生あのー、カルナ先生はどこに行ったんですか?」
ポリポリと頭を掻きながら、何故かドーリス先生は苦笑いだ。
「カルナ先生は心を病まれて保健室だ……後で慰めに行ってやれ。では上位3名を発表するぞ、名前と順位を呼ばれた生徒は前に出ろ!
『1位』ドミニク・ハイヤード 92点
『2位』ギーシュ・プラネックス 3点
『3位』レオル・アーガイル 3点
以上3名だ、1人点数がおかしいが気にするなよ、俺も困惑してる所だ。みんな拍手! ギーシュはどうした? あいつも保健室か、やれやれ」
圧倒的に離れた点差に、生徒達から次々と驚きの声が上がる。
「1位だけ92点っておかしいだろ!? カルナ先生を倒した奴か?」
「目を合わせるなって、打ち上げられるぞ!」
「打ち上げ!? 何だそれ」
何でこんなに点差が開いてるんだ? 真面目に試験やってたの僕だけって事!?
「凄いよドミニク君! おめでとうっ」
「さすがだねドミニク」
はしゃぐリーシャとカレンが僕の肩に飛び付いて来た。
「ありがとう2人とも、ちょっと前に出て来るね」
名前を呼ばれたので仕方なく列から離れ、前に出ると、一緒に前に出て来た銀髪の生徒が僕に詰め寄ってきた。
……怒ってるみたいだけど、誰だっけ?
背は僕とそう変わらない170cm位で、銀髪の細い髪、薄い青色の無鉄砲な眼、背中には鞘に収めた1m弱の剣を掛けていた。
「おい! よくも俺をぶん殴りやがったな!」
殴った? ああ! 壁に突っ込んで穴を開けた剣士だ!
「思い出した! レオル君ね。杖がたまたま当たっちゃったんだよ」
「ふざけんなよこら! 杖で殴る奴があるかよ、そもそもーーーー」
あーだこーだと文句を言われ、耳が痛くなって来た……『ここは戦場だぞ』とか言ってたわりに結構ヘタレだな!
荒ぶるレオルに手を差し出すと、コロッと態度を変え、手を握り返して来た。
「ちっ仕方ねーな、優勝良かったな! 次に勝つのは俺だからなドミニク! それとレオルで良い」
「え? ありがとう。よろしくね、レオル」
ツンデレなのか! 言葉とは裏腹にニッコニコのレオルに適当に相槌を打ってると、追影先生がやって来て耳元で囁いて来た。
「おめでとうドミニク殿、ぶっちぎりで首席合格でござるな、明後日の入学式の前に校長室に来るように」
「僕が本当に首席なんですか!? わ、解りました!」
まさかの首席だ、やったぞー!
明後日か、入学式のスピーチの練習しとかないと! ふふん~。
それから生徒のみんなにケルベロスの件で詰め寄られたけど、犬に好かれやすい体質という事で強引に乗り切った。
「ドミニク! またな、ちゃんと鍛えとけよ」
「今日はありがとねっ、同じクラスだと良いねー」
「だと良いんだけどね、またねレオル、リーシャ」
※
2人に別れの挨拶をし養成学校から出ると、灰色の塀に沿って商店街の方へ歩く。
背を向け不機嫌に前を歩くカレンの、怒ってますアピールが始まった……
「カレン何怒ってるのさ?」
「べーつにー……」
はぁ、リーシャにだけ召喚獣をあげちゃったせいかな、明日は休みだしカレンの機嫌取りしないとな。




