実技試験 9
「ドミニク様! 何でもお申し付け下さい!」
ルミネスは凛とした姿勢で敬礼し、真っ直ぐな声を放って来る。怪しい奴だけど信頼出来そうだね。
「ルミネス、さっきのケルベロスって何体同時に召喚できる?」
「はい! ケルベロスでしたら30体程私に仕えております、召喚できるのは1体のみですが」
多いな、30体も召喚出来るなら十分だ。
ルミネスは黒いフサフサの猫耳を震わせ、やる気に満ち溢れている。
作戦は決まった!『地獄の番犬部隊』を作って森を一気に制圧する。
ケルベロスがどこまで戦えるか解らないけど、そっちの方が早いしね。
「今から召喚の魔法陣を30個同時に展開するから、ルミネスは僕の魔力を通じてケルベロスを全部召喚して」
「30体ですか? ふふふ、ご冗談を。ケルベロス1体でもかなりの魔力を消費しますので体が持ちませんよ」
「普通にいけそうだけど、まぁやってみるよ」
僕を制止するルミネスを無視して天空魔法陣を展開っと、こんなもんかな。
森の上空に複数の天空魔法陣が現れ、ゆらゆらと宙を漂い始めた。
魔力を送る為、ルミネスへと手を差し出すと、半信半疑の表情のまま小さな右手で握り返して来た。
小柄だな、魔神って言ってたけど見た目は普通の女の子だ。
「さあルミネス、僕の魔力を使ってさっきのケルベロスを召喚するんだ」
「な、この魔力量は!? ドミニク様は本当に人間なのですか? 魔神を遥かに凌駕するこの魔力、前に何処かで……」
そうなのかなー、さっきの犬くらいだったら何体でも行けそうだけど。
ルミネスの言葉が癇に障ったのか、すぐに反論するカレンとリーシャ。
「ドミニクは薬草が好きな普通の人間だよ!」
「だよだよっ!」
ルミネスは2人には全く興味が無いのか、反論に見向きもせず召喚魔法陣をせっせと描き始めた。
「漆黒の遠吠えに、闇夜のえーと、闇がゆれ? あれ……出でよ!『地獄の番犬』ドミニク様補助、30同時ver」
「普通に詠唱しなよ……」
意味不明な詠唱が終わると、少しだけ魔力が吸い取られる感覚があった。
「ドミニク様、大丈夫ですか?」
「ありがとう、問題ないよ」
召喚してからすぐに、森中に獣の遠吠えと生徒達の悲鳴がこだました。
《ガルルルルル!》
「ぎゃああぁ!」
どこかでケルベロスが戦ってるな! 剥がしたシールを掌の上に置いて状況を見守る。
凄いな、上手くいってるみたいだ! どんどんポイントが増えていく。
ケルベロスが生徒達を倒して行く度にシールの点数が加算されて行く。60、62、66。
※
森に現れた30体のケルベロスに、なす術なく生徒達は必死に逃げ回っていた。
「どうなってるんだ! 空からケルベロスが降って来る!」
「じ、地獄だ、地獄の森だ……ひいい!」
残った教員の追影とドーリスの2名も、まさかのケルベロス出現と言う異常事態に頭を抱えていた。
《追影先生、ケルベロスなんて一体誰が召喚したんですかね? しかも複数召喚とは驚いた》
「1人規格外の生徒が混じっている様でござるな。試験はここまでにしましょう、生徒達が怯えているので少し助太刀して来るでござる」
ドーリスとの通信を切り、足場にしていた木の上から一瞬でその姿が消えた。
常人の目には捉えられない程の高速で地を駆け、生徒達を襲うケルベロスの横っ腹に1撃、体長5mのケルベロスを軽々と吹き飛ばした。
「大丈夫か? 少し隠れているでござる。
現代魔法・『影縛り』」
「追影先生だ! 助けて下さい!」
吹き飛び、態勢を立て直していたケルベロスに、追影の足元から伸びた影が襲いかかる。
《グゥオォ!?》
一瞬で影に羽交い締めにされた獣の背部から、心臓へと刀を突き刺した。
《ギャルルゥゥ!!………》
戦いを見守っていた生徒達が追影の元へと駆け寄ってきた。
「すげーよ先生! 速すぎて何も見えなかったよ!」
「追影先生かっこいい! さっきの魔法ですか?」
「にん! さて試験はお終いでござる。シールの通信で全員に通達したら、再び校舎裏に集合でござるよ!」
一一一一一一一一一一一一
『名前』:薫・追影
『種族』:人間
『性別、年齢』:男 25歳
『身体能力』:接近戦闘 A
『魔法適正』:現代魔法 C
【古代魔法を簡易化させ、劣化させた現代の魔法】
『生産適正』:鍛治 B
【鍛治に関する知識の豊富】
『特殊スキル』:忍法 A
【忍びの血により発動される魔法、魔法陣を必要としない】
:隠密行動 F
【隠密に事を進める能力】
『ステータスカード称号』:教師 :忍者 :達人