王宮調合室2
こんばんわ、厨二の冒険者です。
本日、本作の3巻の発売日になっています。
3巻の表紙は、イラストレーターさんのjimmyさんに可愛らしく書いて頂いたアイリスとレヴィアが目印となっております。
書籍でしか読めない書き下ろしなどあります。
ぜひぜひ、お手にとって頂ければ幸いですm(_ _)m
電子書籍も発売されていますので、よろしくお願いいたします!
「中に入ってみましょうか。長い間、誰も立ち入っていなかったのであまり期待しないでください」
「王宮の設備なのに使われてないのか」
レヴィアから建物の鍵をもらって入口の扉を開く。
ドアノブが錆びついていて、開くときに嫌な金属音が鳴る。
嫌な予感がするな……。
案の定、充満していたハーブ類独特の花粉と何かが腐った臭いが混じり、嫌な臭いがムワッと鼻に纏わりついてきた。
恐る恐る家の中を覗いて見る。
薄暗い部屋の中には光の灯っていないお洒落なランプが吊るされていて、窓からは外の池が見える。中も外観と同じように絵本風の造りだな
うーん、悪くはないけど……これって王宮の研究設備としてはどうなんだ? すごい研究をさせてもらえるかと思ってたら、特に真新しい点はないぞ。
鼻を摘んだレヴィアに続いて家の中に入る。
「難しい顔をしていますねドミニクさん。確かにこの研究室は長年、使用されていなかったため古くなってしまっています。でも、これを見たらきっと満足して頂けるかと!」
部屋の角っこにしゃがみ込み、床の辺りを調べている。
「ふふ! ありましたよ。開け地下施設!」
床に魔力が送り込まれると、部屋の中央の床がパカッと開き、地下へと続く階段が出現した。
「おお~隠し地下室じゃん! 面白そうだ」
「ふふ。降りてみましょう!」
地下への階段を下りると、自動でライトの魔法が発動し地下室を明るく照らす。
部屋中を囲むように棚が並んでおり、その全てにパンパンの資料が入っていた。
「あれらは全て、この王都で研究されたハーブの資料です。禁忌の薬品からまだ生成されていない神聖薬まで……王宮調合師の称号を与えられた者には、全てのレシピを知る権利があります」
「す、凄いよ! 僕の知らないレシピがたくさんありそうだ!」
棚から適当な資料を手に取って見てみる。
ふむふむ、遺伝子組み換え草に関する資料もあるな。
何通りも組み合わせのある遺伝子組み換えのパターンを把握し理解するには、実験した例があるのとないのとで大違いだ。
おっと……資料の隙間に、ビニールに入った乾燥ハーブがある。珍しいハーブも残っているみたいだ。偉大なる学者たちの手によって残されたハーブの研究資料か。まさに王宮の名に相応しい報酬だな。
一階に戻り、部屋にある備品などを調べてみる。
ランプは何とか光ったけど、備品はすっからかんだなー。
「誰もいないね。他の研究員はいないの?」
「基本的に王宮の施設には、称号を持つ者かその関係者しか入れませんので、ドミニクさんが研究員を募ってください。ですが、地下室のレシピは外部に漏れないよう、王宮調合師として厳密に管理してくださいね」
自分で研究員を雇ってもいいんだな。前にエドワード王子から聞いていた通り、アイリスを連れてきても問題なさそうだ。
本当なら彼女が王宮調合師に任命されていてもおかしくなかったわけだし。それにしても、彼女にレシピを見せてあげられるないのが悔やまれる。
「後は、申請さえすれば食事代から娯楽代まで全て国が負担してくれますよ」
「凄い待遇だね。研究だけしてれば遊んで暮らせるじゃん」
「ふふ、そういうわけではありませんよ」
何かをはぐらかすように笑ったレヴィアは、台所の下から雑巾を取りだすと穴の空いてそうなバケツに水を入れ始めた。
「さて、簡単に吹き掃除をしましょうか。『王宮』の称号に選ばれた研究者の最初の仕事は、この使われていない設備の掃除や雑用と決まっています。私もそうでした」
バケツの中の水も濁ってるじゃん。これじゃ綺麗にならないぞ……。
「わざわざ雑巾で拭かなくても、これくらいの汚れなら『浄化』の魔法で一瞬で綺麗になるよ」
「浄化は聖水を作る魔法ですよ? あぁ、字面だけみれば確かにそう見えなくはないですが……サボりたい気持ちも分かりますが、まずは地道に雑巾掛けから始めましょう」
ダメな弟を諭すような視線を浴びせられる。
聖水を作るときに使う『浄化』の魔法は、部屋の掃除にも使えるんだけど。まさか王宮魔法師のレヴィアがご存知ないなんてことはないよな?
「まぁ見ててよ、ホコリなんかも綺麗に取れるよ」
「ドミニクさんって意外と頑固なんですね~」
長年、放置されていた部屋が汚れる原因。それは、空気中のエレメンタルが汚れて『ホコリ』となり、部屋に落ちるからだ。
つまり、エレメンタルを浄化して汚れを落とせば、ホコリは自然と空気の中に溶け込んで消える。
「初級魔法・『プリフィケイション』」
足下に描いた大きめの魔法陣から、『浄化』の光が噴水みたいに飛び出し、キラキラと部屋中に溶け込んでいく。
「そ、そんな……部屋中のホコリが消えていきます! こんな強力な浄化の魔法は初めて見ましたよ……」
「浄化の魔法は調合魔法の基礎だからね。普通だよふつー」
せっかく部屋も綺麗になったし、調合したくてうずうずしてきた。
台所の隣りが調合場か。お試しでポーションでも作ってみたいけど、この研究室にはまだ調合器すらない。
こんなときのために『収納』の空間に調合道具をしまっておいてよかった。
パパッと魔法陣を描いて呪文を唱える。
「ふふん~。古代魔法・『収納』」
空中に大きな白い収納の狭間が現れ、頭の中に収納中のアイテム情報が流れ込んでくる。
えーっと、調合器と適当なハーブはっと~。
「でえぇぇ!? ちょっとドミニクさん!! その魔法はもしやぁ!!」
いきなりだみ声を出したレヴィアは、僕の両肩を摑んで、物凄い剣幕で顔を近づけてくる。
「え、普通に収納の魔法だけど」
「何しれっと古代魔法を使ってるんですか!? き、聞いてないですよ! 貴方、調合師じゃなかったんですか!?」
「げ! いやっ、これは収納の魔法じゃなくて……えっと……」
やば! じ、地味過ぎて忘れてたけど、収納の魔法は古代魔法だった!
急いで収納の狭間を両手で挟んで、力一杯押し潰して搔き消す。
「ハハ……ライトの魔法を失敗しただけだから気にしないで!」
「め、目の錯覚でしょうか? いえ、きっとそうです! 収納の魔法など使えるわけがありませんし」
くっそ、収納魔法がダメなら直接、自分の家まで取りに行くしかない。
「ちょっと荷物を取ってくるから待っててね。古代魔法・『ワープ』」
「えぇ? ええぇぇ!? 今度は転移系統の魔法ですよ! 待ってくださいドミニクさーん!」
転移の狭間に片足を突っ込んでいた僕の腰の辺りを、レヴィアが鬼の形相で摑んでくる。
げ! これも古代魔法じゃん! レヴィアも一緒に転移されちゃうぞ!
「は! 離してレヴィア!」
「嫌ですよ! ってきゃぁぁ!」
狭間が吸い込む力を増し、一瞬でレヴィアと共に飲み込まれた。




