王宮調合室1
グリフォンたちと別れ、林の中へと入っていく。
王宮調合室はこの林の中にあるらしい。湿気がほどよくて土も荒れていないし、一般的なハーブを育てるにはまぁまぁの環境だ。
「この林には、まだ騎士団の訓練に加わっていない子供のグリフォンが暮らしています」
「林で暮らしているんだね。元々は自然地帯から連れてきたの?」
「いえ、不思議な事にグリフォンは『神聖獣』でありながら『合成魔獣』なんです。王都にいる個体は殆ど繁殖させたものですが、最初に合成で生み出された数頭はファルコンさんが作ったのですよ」
「へぇ、ファルコンさんがねえ……」
言われてみれば、あんな奇妙な魔獣は自然地帯にいないか。グリフォンが神聖獣なのは、合成に使用している素材の中に『聖域』出身の魔獣がいるからだろう。
しかし、あんな見るからにキメラっぽい人がキメラを作ってるんだもんな……獣人は見かけによらないな。
「ファルコンさんはとっても研究熱心で『キメラ合成』に人生を捧げているんです。実験のために、自分自身を鷹と人間のキメラに変えたんですから!」
「えぇ?? 鷹と自分を合成したの? ってことはあのおじさん、獣人じゃなくてキメラなのか」
「獣人=キメラみたいなものですよ。ふふふ」
レヴィアが手を仰ぎながら、茶化す表情をみせた。
全然違うだろ……まだ彼女とは付き合いが短いので、王宮ジョークなのか本気なのか読み取れない。
歩き始めて十分弱、林の奥に広がる大きな池の前でレヴィアの足が止まった。
水は少し濁っていて、柔らかそうな泥が底に見える。
「研究室はこの近くです。うっかり足を滑らせて池に落ちないように注意してくださいね」
「巨大生物とかいそうな池だね」
まるでキャンプ気分だな。
池に沿って歩いていると、綺麗な赤色の鯉がスイスイーッ泳いでいるのが見えた。
「綺麗な鯉が泳いでる。あれもキメラだったりして」
「あの鯉にはピラニアの遺伝子が組み込まれています。落ちたら骨だけにされますよー」
「そ、そんな凶暴な遺伝子を組み込まなくてもよかったんじゃ……」
「趣味か、もしくは防犯でしょう。この池はファルコンさんが管理していますから。そろそろ研究室が見えてきましたよ」
池沿いにポツンと立つ、L型の一軒家へと辿りついた。
絵本に出てきそうな赤レンガ造りの家で、木製の屋根から黒い煙突が飛び出している。
じ、地味だけど広いな。
庭に横長の花壇がある。そこには……枯れたレッドハーブと……あとはグチャグチャで識別不能だ。長い間、放置され、管理されている様子はない。
ふと振り返ると、池を挟んだ向こうに外観の同じ建物がもう1棟建っていた。
「こちらはドミニクさんの研究室で、池を挟んで向かいにあるのがファルコンさんの魔獣研究室です。敷地は仲良く使ってくださいね」
専用の研究室に缶詰め状態にでもされるのかと思っていたけど、建物の外観をみる限り別荘的な感じもする。池で魚釣りとかできそうだし。




