キメラ合成師2
「誰……??」
ボソッと呟き、鷹の目で無表情にジーっと見つめてくる。
なんか怖いな……知らなかったら迷わずライトニングの魔法を放ってたかも。
「妙な魔力の圧を感じたんだけどおかしいなー。そっちの子は誰だい?」
レヴィアにそう問い掛けたファルコンさんは、僕を見て首を傾げた。
顔は鷹なのに、結構ゆるい感じで喋るんだな。
「お掃除中すいませんファルコンさん。こちらの彼に王宮の設備を案内しているんです。彼が新たな王宮調合師のドミニクさんです」
「王宮調合師……!? まさか、エリクサーのレシピを完成させたのは君なのかい??」
「はじめましてエリシアスから来たドミニクです。エリクサーは偶然できたっていうか、僕だけの力じゃないですよ」
「若いのに謙虚だねーって! そ、その7色の色彩鳥はどうしたんだいー??」
僕と握手を交わそうとして、ファルコンさんの視線がニワトリ君に釘づけになった。
「その子は、ドミニクさんの魔力を吸って虹色になったんですよ」
「えええぇ!」
ファルコンさんは、僕の胸元の色彩鳥から虹色の羽を抜き取り、珍しそうに摘み上げて観察している。王宮調教師だから魔獣の知識は豊富なはずだ。
「むむむむ。色彩鳥がこんな鮮やかな色に変化するなんて……」
「この子、僕の魔力のせいで疲れちゃったみたいなんですけど、元気にしてあげられませんか?」
「そうだねぇー。だったら色彩鳥を元気にするついでに、私の研究室に遊びにこないかい? 王宮調合師の君ともう少し話してみたいなー」
「研究室にですか? 僕は別に構いませんけど。レヴィアはどう?」
「問題ありませんよ! どの道、後でファルコンさんの研究室も案内する予定でしたから。ですがその前に、先に神殿に入って祈りを捧げましょう!」
ニワトリ君をファルコンさんに託して、僕らは神殿へと向かうとしよう。
「じゃ、壁掃除も終わったし、私は研究室に戻るねー。研究室で待ってるよ~」
《コケケー》
地味に歩いて去って行くファルコンさん。翼で飛んだりできないのかな? ファルコンさんは見た目はちょっと怖いけど、普通に優しい獣人だったな。
「さて、エリシア様に祈りを捧げに行きますよ」
レヴィアに続いて神殿の中に入る。
窓から光が刺す四角い部屋の奥に、結界の女神『エリシア様』の銅像が祀られていた。
若者からお年寄りまで、多くの人が集まり、女神様に祈りを捧げている。
あれがエリシア様か……礼服を着た綺麗な少女が、胸元で手を組んで祈りを天に捧げている。
結界の女神『エリシア様』は、僕らが暮らしている『エリシアス』の町の名の由来になった実在する人物だ。
エリシアスの『火山』『雪山』『草原』の3つの自然地帯を神聖結界で繫ぎ、邪悪な心を持った魔獣を全て追い払ってくれたらしい。
結界を張ったのちにエリシアスからは去っていってしまったようだけど、僕と同じで目立つのが嫌だったのかもね。
まぁ、そのおかげで僕たちは安全に暮らせているんだけど。
祈りを捧げる人たちに混じって、両手を合わせて跪く。
「レヴィアも祈るの?」
「当然です! 私たち都の民は結界の加護を受けていません。ですが、同じ国のエリシアスの民を護ってもらっているのです」
「そっか。レヴィアは騎士団の人間だからそう感じるのかもね」
王都を拠点とし、結界の外で邪悪な魔獣と戦っている騎士団の人たちだけど、結界で守られているエリシアスの人間も、守るべき存在だと捉えているようだ。
「エリシア様を見て思い出したのですが……樹海の毒霧が晴らされたというのは本当なんですか?」
「え!? うん……らしいね」
本当も何も、やったのは僕だし……。
「王都で噂になってます、あれはエリシア様が樹海に降臨し、毒を浄化なされたのだと」
「いやー、ち、違うんじゃないかなぁ……」
正しくは、迷子の猫を助けようとした飼い主が、勢い余って毒霧を吹き飛ばした。が正解だ……期待させてごめんなさい。




