実技試験 8
やっと戦う覚悟を決めたのか、ギーシュは顎の汗を拭い僕を睨みつけている。
「ケルベロスごときにビビる僕じゃないぞ! やれシルバーウルフ!」
ギーシュの指示で勢い良くシルバーウルフが駆け出した。
《グァオ!》
前足で落ち葉を土ごと蹴り上げ、凄い勢いで向かって来る。やるなこの体格差で全く引く気配が無い。
シルバーウルフは声を鳴らし、仁王立ちのままのケルベロスの足元にズザー! っと滑り込み、お腹を見せ寝転んだ。
「くぅーん、くぅん! くぅーん (ボク、トモダチ)」
「ガルルルルル!! コイツ……ナカマ!」
何故か戦いもせず、ケルベロスがシルバーウルフに身を寄せ、仲間の意思表示を見せた。犬同士、心が通じ合ったのかな?
「何やってる!? シルバーウルフ戦え! くそぉ! 全部お前のせいだドミニク!」
どうやら使い魔に見限られたみたいだね、いい加減、無様なお坊っちゃま君には退場して貰おうかな。
「もういいよ、ケルベロスとシルバーウルフ。ギーシュをぶっ飛ばせ! 殺しちゃ駄目だよ」
「ガルルルルル!」「コロス」「ダメ」「ハンゴロシ」
白と黒、2匹の獣が共に狩を楽しむ様に、左右から同時にギーシュに襲いかかる。
「やだー! 助けてパパー!」
無様に背を向け逃げ出したギーシュの横っ腹の脂肪に噛み付いた。
「痛ぃー!」
一瞬で動きを封じられ、ズルズルと森の奥へ引きずられて行く。
「ひいい、パパに言いつけてやるからな! お前なんか簡単に潰せるんだからな! ひいぃ! パパー!!」
「じゃあね、ギーシュ。もうリーシャに近付くなよ」
本当、口だけは一人前だな……泣きながら森の奥へと消えたギーシュを見送る。
木の陰に隠れていたカレンとリーシャが駆け寄って来た。
「ドミニク君! ありがとう、怪我してない?」
「何あのわんちゃん可愛いかったね、もふもふしたい」
「大丈夫だよ、杖は壊れちゃったけどまた作れば良いし」
竜の骨から作られた杖は自然に返し、宝玉は割れた後、空気に溶けて完全に消滅してしまった。
さて、決着も着いたし他の先生達を探すか!
2人を守りながら森を進もうとして、足元の召喚魔法陣に蹴つまずいた。
ん?? なんだこの魔法陣。
「あ、あの……ドミニク様! 私、魔法陣に挟まったままなんですが!?」
魔法陣の隙間から、顔半分と右手だけを出したメイドの女の子が居た。
すっかり忘れてた!『崩壊魔神、ルミネス』とか言ってたな、こいつを何とかしないと。
急いで『強制送還』を解除すると。メイド姿で背の低い獣人の女の子がやっとのこと魔法陣から這い出て来た。
パンパンと、メイド服のスカートの汚れを払い、丁寧な姿勢で話し始めた。
「初めましてドミニク様、魔神のルミネスと申します。長年あの宝玉に閉じ込められていたのですが、貴方様の召喚の魔力により無事に脱出できました。つきましては私との契約により、共に世界を滅ぼすとしましょう」
「あー、はいはい」
魔神って何だ? 物騒な事言ってるけど一旦置いといて、使い魔を扱えるみたいだし力を借りるか。
またリーシャが危険な目に合わない様に、ルミネスの使い魔をリーシャに仕えさせよう。
「さっきの犬だけど、リーシャの付けてるネックレスに召喚魔法を刻んで貰えるかな? 彼女の使い魔にするから」
「地獄の番犬をですか!? こんな小娘に……しかしドミニク様がそう言うのであれば仕方ありませんね!
漆黒の番犬の遠吠えに夜の闇が揺れ、混沌の騒めきが響く時、契約の小さき人形の宝石にその力を刻まん『召喚契約刻印』!!」
この子、完全に中二病だなー、あとで黒歴史にならないと良いけど……
ルミネスの闇の魔力が、リーシャの首に掛かっていた銀色のネックレスを包み込む。
魔法石にゆっくりと召喚刻印が浮かび上がっていく。
僕の刻んだ光学迷彩の魔法陣に上書きされちゃったな、もうあの魔法は使えないみたいだ。
何はともあれ、これでさっきの地獄の番犬がリーシャの使い魔となった。
もじもじと何か言いたげなリーシャが僕の手を握り、透き通った青い瞳で見つめてきた。
「あ、あのっ! ドミニク君、本当にありがとう私なんかの為にっ……」
「気にしないで、僕が勝手にやっただけだから。リーシャは可愛いから変な奴が寄ってくるんだよ、気を付けてね」
リーシャはあっと言う間に顔を真っ赤に染め、慌てて否定している。
「わ、私が!? 可愛くないよっ、えへへっお世辞でも嬉しいなっ」
ふわふわの癖っ毛を揺らし、上機嫌にぴょんぴょん跳ねるリーシャ。
うーん可愛いな! カレンの視線が痛いけど無視しとこう……
リーシャに見惚れていると、何やらカレンが僕の肩のシールに注目している。
「ドミニク! シールが光ってるよ」
「うん、ギーシュがケルベロスにやられて加点されたんだよ」
肩のシールを剥がし、新たに表示された点数を確認する。
58点か、さっさと残りの点も回収しよう!
「よーし、仕上げだ。ルミネスちょっと力を貸して」




