騎士団編 序章2 Sideウルゴ
エリシアスの代表として、学会に参加していた古き友人、ルーシスからその名を聞いた。
養成学校、開校以来の天才少年ドミニク・ハイヤード。その少年が部活動の最中にエリクサーを完成させてしまったと。
しかも、そいつはただの調合の天才ではないらしい。ルーシスもよく分かっていない口ぶりだった。
エドワード王子は奴に『王宮調合師』の称号と快適な研究設備を提供し、ギルドから騎士団へ引き抜く算段を立てているんだとか。
厄介ごとに巻き込まれなければ俺はかまわんがな。ん? あの呪いの杖は一体?
ふと、テーブルに置かれた杖に目がとまる。漆黒の宝玉がついた美しい杖だ。
「そこにあるのは誰の杖だ?」
「その杖はエリシアスの調査隊から預かっている杖です。黒竜を土台にした杖らしく、持ち主が違法なルートで手に入れたのではないかと疑われているらしいのす」
「黒竜だと!」
杖から竜族が発する異質なオーラを感じる……Aランク、いやもしくはそれ以上の杖か。
「素材の仕入れルートを探って見たのですが、竜族の素材を扱っている商人など王都でも指で数えられる程度しかいません。これ以上の調査は難しいですね」
「ふむ……ならば、この杖は俺がもらっていこう」
「ウルゴ様が……? いえ、申し訳ありませんが冒険者ギルドから鑑定依頼を受けた品をそう簡単に渡すわけにはいきません」
「問題ない。ギルドの元代表Sランクのルーシスに俺から伝えておく。うちの騎士団に1人だけ鑑定が得意な奴がいるからな」
店主から強引に引き取った杖と、エリクサーの木箱を持って店から出る。
「むむ! 悪人の気配がします」
団員のレヴィアが、通りを行き交う人々を厳しい目で観察していた。
「やめろ。そんなあからさまに警戒していたら民間人が怖がるだろう。レヴィアよ……聞こえているのか?」
肩を叩いて声を掛けるも、レヴィアは無言のまま向かいの建物の屋根を見つめている。
「シッ! 屋根の上で何かが動きました……バレバレですよウルゴ団長! 早くそのふさふさの耳をローブのフードで隠してください!」
「お、おおぅ?」
強引にフードを引っ張られる。
耳を隠し、通りの向かいにある大きな建物の屋根に目を凝らす。
よく見えん……不自然に視界が歪む。あれは隠蔽の魔法か?
「屋根の上か。何者かの気配がするな」
「ええ。かなり複雑な隠蔽の魔法で姿を隠していますね。むむ! あれはただ者ではありません!」
怪しげな影が勢いをつけて屋根からジャンプし、俺たちの上空を跨いで薬品店の屋根へと飛び移った。
「私が追ってきます」
「待て! あの特殊魔法はアサシンの可能性もあるぞ」
「こそこそと隠れて戦うアサシンなんかに、私が負けるわけありません!」
俺の返事を待たず、2連の魔法陣が描かれていく。
確かに1体1でレヴィアが負ける可能性は低いか……そうだな。
「飛行魔法で奴を追います! 追跡の指示を!」
「分かった。念のため、この杖を持っていけ。丁度お前に鑑定を頼もうと思っていた杖だ」
ローブの脇に差していた黒竜の杖をレヴィアに放り投げる。
「……この杖は?」
「気を抜くなよ、相手は誰か分からんからな。さっさと追え!」
「はい!」
まったく、エリクサーが完成したばかりだと言うのに、次から次へと……。




