騎士団編 序章1 sideウルゴ
webでは話が飛んでいますが、エリシアス王都騎士団ウルゴ視点にて序章が始まっています。
※こちらも話が飛んでいますが、無限の霧樹海、調査隊デリスによって、ドミニクはアースエンドの杖を没収されています。
王都は魔獣や反政府組織からの侵略の危機に晒されている。
俺たちグリフォン騎士団は、この国の王子から常々そう言い聞かされている。
これは王都に限った話ではなく、エリシアスの神聖結界外の全てにいえる。
だから、そんな俺たちグリフォン騎士団の使命は、この王都の平和を脅かす魔獣や犯罪者を捕まえることだ。
馬車から見渡す都の風景は平和そのもの。
日の暖かい静かな午後、俺は馬車に揺られながら警備の目を光らせ、目的地を目指していた。
「そろそろ着く頃か、あの辺りに止めてくれ」
馬車が、騎士団の旗を靡かせながら速度を落とし、大通りの脇に停止する。
「俺が戻ってくるまでの間、騎士団員として周辺の警備を怠るなよ」
「はい!」
敬礼した御者をしている若い騎士団員の名は『レヴィア』。
銀の鎧の上から羽織った魔導ローブと、背中に掛けた長い杖を見て分かる通り、彼女は魔法師だ。
だが、ただの魔法師ではない。
入団2年目にして『王宮魔法師』にも選ばれた16歳の規格外だ。
騎士団、いや……この大陸でレヴィアより魔法の才に恵まれた者などいないだろう。こいつを一言で表すなら、天才という言葉が相応しい。
部下に周辺の警備を任せ、店の扉を叩く。
ここは王都に古くからある有名な薬品店だ。
古い木造の大きな店舗を構えるその店は、従業員の多さもさることながら、調合設備の充実によってポーションの生産率が群を抜いている。
店主の男は優れた鑑定眼を持っていて、ポーション販売の他に、骨董品から違法な魔道具の鑑定まで行っているんだとか。
「お待ちしておりました騎士団長ウルゴ様。この古き薬品店にお越しくださり感謝いたします」
「そう謙遜するな。俺の知る限りでは、民から信頼を置かれている薬品店はここより他にない」
「嬉しいお言葉です。約束通り、例の物を用意させて頂いております」
深々とお辞儀をし、店主の男性が店の奥へと案内してくれる。
「「いらっしゃいませ!」」
通路脇に整列していた数十名の従業員が、通り際に歓迎の言葉を掛けてくれた。
今回、王都騎士団の団長であるこの俺、人狼のウルゴが、自らこの薬品店を訪れたのには訳があった。
「こちらが研究室です。ウルゴ様は長身ですので、天井にご注意ください」
「わかった……」
案内されたのは、昔ながらの調合室だ。
仕方ないとはいえ、天井が低くて窮屈だな。俺の身長は狼の耳先までいれると3Mを超える。
店主が薬品の保管棚から木製の木箱を取りだし、机の上に置くと蓋を開いた。
「これが完成したエリクサーです」
透明な液体の入った瓶がズラリと並び、神秘的な虹色の光を放っている。
「間違いない。本物のエリクサーだな」
『エリクサー』は古代の遺跡から発見された、全治の力を持った未知のポーションだ。
国中の天才たちがエリクサーを完成させようと、こぞって調合に関する研究を進めていたが、何年経っても誰もそのレシピを見つけることは叶わなかった……。
もしも、魔法の使えない民間人が魔獣に襲われてしまった場合、高ランクの治療薬を所持していれば、それだけで生存率はグッと上がるだろう。
魔法が使えない民間人は多くいる。
俺の率いる『騎士団』の精鋭でも半数……王都全体で考えると70%を超えるだろう。
このエリクサーは、国の未来に希望を与えるものだ。
「それで、この再現されたエリクサーの効力はどのくらいだ? 実戦でのエリクサーの実用化も期待できそうか?」
「調合師によってムラがありますが、格段に低いコストでAランクの回復力を持ったエリクサーが調合可能かと」
「まさか、これら全てがAランクの回復力を持つエリクサーだというのか……」
「いかにも、調合会に革命がおきたのです」
一般的にAランクのエリクサーの回復力は、致命傷の一歩手前の傷をも完治させるといわれている。だが量産するのは難しく、その調合率は、30回調合を行なって1本できるかどうかだ。
「このレシピをエリシアスの学生が完成させたなどと、未だに信じられんな」
「私も驚いています。薬草学を嗜むものであれば、誰もが一度はその調合方法を探ろうとするものです。しかし、実際にレシピを完成させた者は誰1人としていませんでした」




