神話級10
「にゃー。何か落ちてきますね」
僕らの立つ闘技場に向かって、物凄い速度で落下してきている。
不測の事態に備えていた先生が、危険を察知して『拡声』の魔法を発動させた。
「あれは我では止められぬ! 全員伏せて衝撃に備えるでござる!」
「「ひいぃぃぃ!!」」
「隕石が降ってくるぞぉ!」
何だこの状況は……ウサギサイズの魔獣を呼ぶつもりだったのに、隕石が降ってくるなんて聞いてない……。
しかもあの隕石……卒業式まで語り継がれそうなレベルでデカいぞ。
絶望して立ち尽くす僕のすぐ目の前に、巨大な隕石がとてつもないエネルギーを纏って落下した。
「ドミニク様に無礼なのだ! にゃ‼」
咄嗟に、ルミネスが僕の前方に『防御』結界を張り巡らせた。
その瞬間――――ドーーン!!!! っと、大きな衝撃波がルミネスの張った結界に衝突した。
巨大な地割れが起きて舞い上がった砂煙が、一瞬で視界を覆っていく。
地面が割れて、足場にできた亀裂がビキビキとコロセウム全体に広がっていくのが伝わってくる。
おおっと、このままじゃ闘技場が崩れそうだ!
「先生ぇ! 亀裂が迫ってくるよぉ!」
「助けてぇ!」
「今助けるでござる!」
あちこちで助けを呼ぶ声が聞こえる……カレンのやつは無事か? もう、ウサギがどうとか言ってる場合じゃないな。
ここまでの事態になってしまった以上、どんな魔獣が現れても一緒だ。さっさと宝玉の中に『強制送還』してもらおう!
《数千年ぶりの外の世界ダ……空は変わらず美しいままだ……》
野太い声が聞こえ、周囲を覆っていた砂煙が晴れていく。さっきまでの不吉な兆候も消え、いつの間にか空が晴れ渡っていた。
ルミネスが手で光を妨げながら、眩しそうに空を見上げた。
「奴が今の地震の正体ですか……私が今まで出会った魔獣の中では一番大きな種族です」
「いやー、予想外にデカいね……」
僕たちの目の前に『20M』級の『漆黒の巨兵』が聳り立っていた。
これは魔獣なのかな?
パっと見た感じ、お屋敷に飾られてる像みたいで、命が宿っているようには見えない。
爪先からてっ辺まで、巨兵の体を構成する全てが『黒曜石』でできているみたいだ。
ギラッ! と巨兵が琥珀色の眼光を放ち、いきなり僕を睨みつける。
《オレは石像などではない……生まれは遥か東の地、残した伝説は数知れず。名を『タイタン』と言う》
勝手に心を読んでまでくる……宝玉の魔法陣に介入しようとしたときに、僕の魔力にリンクされたみたいだな。
こう見えて繊細な魔法が使えるらしい。
「ニャ! 奴はまさかぁ!」
ルミネスが興奮気味に、鞄から神話に関する本を取りだした。
「サラッと自己紹介されましたが、奴は『神話級』の魔獣『タイタン』です! この本に載っている絵にそっくりです!」
「そんな都合よく神話級の魔獣が現れるのかなー……」
《空気中の魔力がまた減っているな……宝玉に封じ込められてから数百年は経ったか? しかし、悠久の時を生きる神話級のオレからすれば、数百年など人間時間の数分に過ぎぬ》
ベラベラと勝手に語り始めちゃったぞ。まぁ外気に含まれる魔力は微々たるものだけど年々減少しているからな。そこから月日を読み取れなくもない。
そういえば、神話の本に、生命の宝玉から神話級の魔獣が召喚された説があったっけ? あれが神話級の魔獣だとしても、他に情報が欲しいところだ。
タイミングよく、箒に跨ったウーリッドが空から降りてきた。
「非常事態……タイタンが現れた……!」
「やぁウーリッド。神話級の魔獣が現れたみたいだね」
「奇跡……それとも幸運……? ドミニクくんが光ってる……?」
ウーリッドが、僕のブレザーの胸元をジト目で見つめている。
何だ? 制服のポケットの内側から黄金の光が滲みでている……こ、これは!
ウーリッドからもらった『幸運の魔法石』だ。もしかして、こいつの幸運があの巨兵を呼び寄せたってのか。
『追憶』の魔法を完成させるには、神話級の魔獣の素材が必要不可欠だ。これは素材ゲットの貴重なチャンスだ!
でもこのままじゃ、他の冒険者やギルドの職員が集まってくるかも……とにかく目立って仕方ないので、さっさとお引き取り願おう。素材は人がいないときに回収すればいいしね。




