実技試験 7
リーシャとカレンの光学迷彩のネックレスは、魔力切れを起こすと特殊な魔力波を発生する。
カルナ先生を打ち上げた後、カレンに薬草をくすねた事を謝っていたら、リーシャのネックレスから放たれた魔力波が遠く離れた僕の体を通り過ぎた。
その魔力波を辿り、転移魔法で一瞬でワープ。
案の定、お坊っちゃま君がリーシャにくだらない因縁をつけていた。
「お前にお似合いのボロい杖だな、パパに作って貰ったこの『プラネックス・スタッフ』を見て腰を抜かすなよ」
ギーシュは懐から取り出した片手用の杖で、自慢気に宙をなぞっている。
あの木の杖には術者の魔方陣を安定させる『属性補助』の効果があるな。それに加え、珍しい紫色をした魔法石の欠片が埋め込まれている。
プラネックス家か……最近発見された魔力の吸収率が高いとされる『新種の魔法石』で商売を始めた、ポッと出の資産家だ。
魔法石には『魔力の吸収率』がある。
吸収率が高い魔法石に魔法陣を刻めば、使用者が消費する魔力も少なくて済むので、吸収率が高い程上質の魔法石とされる。
しかし、プラネックス家が発見した新種の魔法石にはなんの信憑性も無く、普通の魔法石をそう偽ってるだけの悪どい商売だと噂されている。
「インチキ商売のプランクトン君。その杖に付いてるのが新種の魔法石かな? 君の汗も吸収して貰ったら?」
ギーシュは僕の挑発に乗り、顔を真っ赤にして叫び始めた。単純だな。
「舐めやがって、格の違いを教えてやるよ。『B』ランクの力を思い知れ! 出でよ!
魔獣召喚・『シルバーウルフ』」
ギーシュが自慢の杖を地面に向けて魔方陣を描くと、召喚の光と共に地面から魔獣が這い出てきた。
鋭い爪を地面に立て、琥珀色の瞳で獲物を探す、体長2m程の白い狼が召喚された。
召喚されたシルバーウルフに、リーシャは酷く怯え、後退りしている。
「うそっ……シルバーウルフ!? 勝てるわけないよ! ドミニク君逃げて!」
「大丈夫、ドミニクがあんなわんちゃんに負けるわけ無いよ、リーシャもこっちに隠れて」
良し、カレンの誘導で木の陰に隠れたな。それにしても雑な魔法陣だな……召喚魔法なんて使った事がないけど、やられたらやり返すよ!
白い杖を両手でしっかりと握り、召喚の魔法陣を描く。
描くのはギーシュの召喚魔法を真似て、僕のオリジナルに改変させた召喚の魔法陣だ。
「お坊っちゃま君、僕に負けたら二度とリーシャに近づくなよ!
魔獣召喚・『なんか出てこい!!』」
魔法陣が完成すると、突如、杖の先に取り付けた『崩壊の宝玉』が黒い霧に包まれ、重い雄叫びが聞こえて来た。
《ォォォォォォ》
なんだ!? 杖に組み込んだ宝玉がおかしいぞ、どうなってるんだ……
発生した黒い霧を魔法で解析する為、急いで片手で魔法陣を描くけど間に合わない!
やっぱり呪いが……破裂する!!
宝玉が闇に包まれ、パリーン! と音を立て破裂すると、魔法陣が漆黒に変色し、中からモソっと小さな右腕が現れた。
メイド服を着た何かが魔法陣から這い出て来ようとしてる! まばらな漆黒の長い髪、紅色の鋭い眼、頭からは漆黒の猫耳が生えている、人型の魔獣かな?
「よいしょぉぉ! ぁれ、抜けない……」
挟まってるな……魔法陣からメイド服を着た獣人の女の子の上半身が現れ、ブツブツと謎の呪文を呟き始めた。
「私は崩壊を司る『崩壊魔神ルミネス・ゼファー』呪怨の解放に導かれ堕天し、遊戯の翼を広げ地上と言うなの楽園に舞い降りた!ドミニク様の世界破壊の魔力波動を感知し一一一一」
なんか変なのが出て来ちゃったな……
『ドミニク様』以外、何言ってるのか全然分からない。仕方ないけど一旦魔法陣に強制送還しよう。
「強制送還」
「一一一一して魔力契約をルシファーの加護の元、にゃあぁ!?」
ズズズズと音を立て、メイド服の女の子の上半身が、魔方陣へ引きずり込まれて行く。
「体が引きずり込まれてる!? ド、ドミニク様!? ま! 待って!! 普通に喋れます! どうか一旦気をお沈めになられて!!」
「いや今忙しいからまた今度ね。もうちょっと犬っぽいのが召喚される予定だったんだけど」
「い、犬!? 私の使い魔に獣がおりますので、そちらの方をお貸ししましょう! 出でよ!『地獄の番犬』」
謎の召喚獣ルミネスが、魔法陣に挟まれたまま片手で召喚魔法を使うと、宙に現れた召喚陣から勢い良く魔獣が飛び出して来た。
森を揺らす程の巨体に威圧感のある漆黒の体毛を纏い、鬼の形相を浮かべる獣の頭部を3つ持った『地獄の番犬』が現れた。
《ガルルルルル!》「ニンゲン」「クウ」「ウマイ」
これなら勝てるな! 体長5m近いケルベロスと比べると、ギーシュのシルバーウルフはチワワだな!
地獄の番犬に威圧され、ギーシュの取り巻き達は悲鳴を上げてすぐに逃げ出した。
「ひいいい!」
「やべえよなんだあの犬!! ギーシュさん後は頼みました!」
ギーシュも逃げ出そうとし、鈍足で手下達の後をドスドスと追いかけるが、すぐに脚がもつれて転んでしまった。
「くそー! 置いてくな! ケルベロスを召喚しただと!? そんな筈ない、トリックだ! また汚い手を使ったなドミニク!」
「さーね、お坊っちゃま君。もう謝っても遅いからね」
さーて反撃開始だ。