神話級9
他の生徒の魔獣討伐の実演が進んでいく。
後衛が魔法で隙を作ったところに前衛が切り込む。息のあったコンビネーションに魔獣も成す術なしといった感じだ。
「またラビットが召喚されたぞ」
「これなら楽勝だぜ」
先生とレオルが倒したオーガ族に比べると、弱そうな魔獣ばかり現れるな。
中でも多く召喚されていたのは、『ラビット』族や『ウルフ』族などの低ランクの魔獣だ
魔族系の魔獣は、厄介な『保護魔法』で身を守っていたけど、その他の魔獣は図体が大きいだけで、多くの生徒が『捕縛』の魔法で動きを封じる戦法をとっていた。
「にん……そろそろか。次はドミニク、ルミネスペアに実演してもらうでござる」
「ついに僕たちの番だ。行くよルミネス」
「はいドミニク様!」
観客席をぐるっと周り、生命の宝玉がある祭壇の近くから下へと飛び降り、舞台へと上がった。
床の石畳がカレンのせいでボロボロになってしまっていたので、代わりに僕が直しておこう。
地面に手を触れて『思考形成』の魔法を放つと、石畳が変形して亀裂が塞がっていく。
よーし、修理完了だ。あまり目立ち過ぎないように注意しないとな。最近ただでさえ変な噂が広まって迷惑してるんだ。
そう顔を強張らせていた僕に、先生が気をまぎらわそうと声を掛けてくれる。
「にん。何かあれば我が対処するでござる!」
「先生……ありがとうございます」
「にゃ?」
ルミネスは目配せする僕と先生を不思議そうに見ていた。
「これが生命の宝玉か……近くで見るのは初めてだな」
魔獣を生みだす祭壇を観察してみる。
闇のオーラが溢れだしていて不気味だ。透き通った宝玉の内部には虹色の光が輝いている。
「うーん、問題はどっちが宝玉に触れるかだね。ルミネスはどう?」
「私は『魔神』ですので、オーガ族より厄介な魔獣が出てくる可能性は捨て切れませんよ」
オーガは駄目だ……デカ過ぎる。
他の生徒はお手頃サイズのウサギと戦ってたんだ。僕だけ巨人と戦ったら変な意味で話題になってしまう。
「オーガはちょっとなぁ。宝玉に刻まれている魔法陣に介入して、ラビット系の魔獣を召喚できるか試してみるよ」
「にゃぁー。魔法陣に介入ですか……想像しただけでも難しそうです」
とりあえず、宝玉に『解析』の魔法を通してみるか。
手を伸ばし、宝玉の上に掌をポンっと置いた。その瞬間、威圧感のある囁き声が頭の中に響いた。
《古代の魔力を感知した……地味な少年ヨ。オマエを待っていたゾ……》
え……ナニコレ? 変な声が聞こえてくるぞ!
僕の手を伝い、先に宝玉の方から脳内に語りかけてきた。
「ドミニク様?」
「まって。妙な声が聞こえるんだ……」
まさか宝玉に封じ込められた『伝説の魔獣』とかが勝手に出てきたりしないよね? いや……そもそも、声が聞こえたのだって単なる気のせいかも知れない。
とにかく、変なのが出てくる前に魔法陣に介入しないと!
《気のせいではナイ……少年ヨ、その古代の魔力をヨコセ》
焦る僕の心情を知ってか知らずか、今度はハッキリとした声が宝玉から聞こえてきた。
「やっぱ喋ってる!? 何だコイツ!」
「にゃー!? 宝玉が勝手に揺れてますよ! ポルターガイストです!」
言葉を喋る宝玉か! 闇のオーラがさっきより更に強ってきた。
「カラスの群れが飛び回ってる!」
「ブーツの紐が急に切れたぞ!」
「空が闇に包まれていく……天変地異の前触れか?」
みんなも、不吉な現象を目の当たりにして騒ぎ出した。
「まさに青天の霹靂でござる。授業を中断すべきか……」
晴天だった空に雷鳴が鳴り響き、不気味な黒い曇がコロセウムを覆い始めている。
《《カーカー!》》
《《ニャー》》
げっ! 黒猫とカラスまで集まってきた! っていうか、不吉な兆候ってこんな露骨に現れるもんなのか!? おかしいだろ!
「にん……黒い魔獣は不吉を呼ぶ。これはもしや天変地異の前触れかも知れぬ! いつ『魔王』が召喚されてもおかしくない状況でござる」
先生が背後からボソボソと縁起でもないことを言って不安を煽ってくる。
ぜ、絶対に魔王なんて召喚してたまるか‼
突然、《オオオオォォ!!!!》とけたたましい声が響き、巨大な『天空魔法陣』がコロセウムの遥か上空に浮かび上がった。
今度は天空魔法陣か……何が召喚されようとしてるんだ?
ゴゴゴゴ! っと、大気を押しのける音が聞こえ、空に漂う魔法陣から謎の『黒い隕石』が飛び出した。




