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神話級8

召喚されたばかりでボーっとしていたインプが、目の前で騒いでいる2人に気がついた。

《グアッ!》

「にん! 油断すると危険でござるよ!」

「リーシャ。魔法は任せたよー」

「は、はいっ!」

インプを警戒して追影先生が声を上げる。リーシャとカレンがそれに応えた。

さっきの追影先生たちと同じ手順でやるようだ。

魔法を使うのはリーシャか。

訓練用の小さな木の杖を片手に持ち、『現代魔法の書』のページを開いている。

「うまくできるかなっ。現代魔法・『ジャミング(妨害)』」

魔法陣から発生した魔力波が空間を(ゆが)めながらインプの体を通過すると、体を包んでいた結界の保護がパリーンっと音を立てて弾けた。

《グアァ!?》

成功だ。

リーシャも魔法がうまくなったなー。

後はカレンが前衛として敵を倒すだけだ。

《ガアァ!》

保護の魔法を消されたインプは怒り、翼を広げてリーシャへと飛び掛かった。

「次はカレンちゃんの出番だよっ!」

「おっけ~!」

カレンが制服のポケットから透明な短剣を取りだした。

あの剣はカレンの適性武器か? 鈍器よりマシだけどそこそこ地味だな。

刃先を天に掲げカレンが叫ぶ。

「やっちゃえダークスピリットー?」

《やってやりますが何か?》

精霊石からダークスピリットが実体化し、カレンが天に掲げている『短剣』の中へと潜り込んだ。

その瞬間、カレンの周りにブワーッ! と吹雪が巻き起こり、襲い掛かってきたインプを場外へ吹き飛ばした。

《ガアッ!?》

周囲の氷のエレメンタルを吸収しながら、短剣の刀身が氷を(まと)って伸びていく。

仕上げといわんばかりに、剣の(つば)から漆黒の翼がバサーっと生えてきた。

あの翼はダークスピリットのものか。地味な短剣が『氷の長剣』へと変貌(へんぼう)を遂げた。

「ふふん~。見て見て、氷の剣だよー」

「おおっ。(すご)いよカレンちゃん!」

《我の魔法ですが何か?》

あの短剣が今回の秘策か。

ダークスピリットのやつ、鬱憤(うっぷん)が溜まってまた舞台を凍りづけにするつもりじゃないだろうな。

吹雪いた氷の残骸が頭に張りつき、ルミネスが鬱陶(うっとう)しそうに猫耳を叩いた。

「融合精霊であるダークスピリットは主人以外を媒体とすることで、精霊としての本来の力を発揮できるのですね」

「そうみたいだね。カレンと融合すると魔力に制限が生まれてしまうから、本来の力が出せなかったんだ」

カレンは、ダークスピリットとの息の合ったチームプレーで魔法陣を描き、高らかに詠唱する。

「《精霊魔法・空間魔法・『スピリット(精霊)オブ()アイスエイジ(氷河期)』》」

ガキーン! っと冷たい音を立てて3つの半透明の『氷の柱』が闘技場に突き刺さった。

一気に気温が下がり、空からふわふわと白い雪が舞い降りてくる。

「雪でござる……? この魔法は、季節を変える『空間魔法』でござるか!」

「さむぅ! 急に気温が下がってきた」

「見ろ! 今の今まで暑かったのに雪かよ……」

これは、古代魔法の『霜降る(フロスト)氷河期(アイスエイジ)』を真似た氷の精霊魔法か。これで魔法の使えないカレンでも自由に氷魔法を操ることができるぞ。

吹き飛ばされていたインプが、再び舞台へと上がってくる。

そしてインプは、魔法による攻撃の姿勢を見せた。

《ガアァ……カゲヨ!》

インプが指先をくるりと回す。

すると、インプの背後にできていた影が操られ、矢のように形を変えて放たれる。

「攻撃してきた! やっつけてダークスピリット!」

《ぶった斬りますが何か?》

剣と融合したダークスピリットが、カレンの腕を力任せに引っ張る。

スパンッ! と影が断裂し、切れ後からカチコチと影が凍りつく。

「どうだー!」

ドヤ顔してるけど、危なかったな。

今のカレンの肉体とダークスピリットは融合していないため、非常に(もろ)い。

カレンが反撃にうつる。

剣を振りかぶると、アイスエイジの魔法の効果によって頭上に大きな氷柱の槍が生成される。

「やっちゃえー!」

《漆黒の宴が始まりますが何か?》

剣が振り下ろされ、発射された氷の槍が空中で分裂を繰り返し、『数百の氷槍』となってインプに降り注ぐ。

《ア!? ……ァァ、ァァァー》

ズドドドド! っと『数百の氷槍』は闘技場の床を破壊しながら突き刺さり、巻き起こった砂煙が視界を奪う。

倒したみたいだな。

砂煙の中から弱々しいインプの断末魔が聞こえてくる。

「あの……ドミニク様? あの魔法が使えるなら、最初に結界を破壊する必要はなかったのでは?」

「うん。張られてたのは物理結界だしね」

砂煙が晴れて舞台の様子が見えてきた。

インプは跡形もなく消えちゃたな。

足場をボロボロにしたのはやり過ぎなので、ダークスピリットには今度、無機物を修正する魔法を教えておこう。

「カレンちゃん……私がジャミングした意味はあったのかなっ?」

「はは……ごめんー」

《無意味でしたが何か?》

騒ぐカレンたち。観客席のみんなは置いてけぼり状態で、シーンッとした冷たい空気が(ただよ)っていた。

みんな(あき)れ返っちゃってるな……。

「にん。氷の槍で滅多刺しとは……前衛も後衛もないでござるな……」

「あれがドミニク式討伐方か。斬新だな」

「いや、ドミニクの幼馴染にしては地味じゃないか?」

「みんなもう慣れてきてるけど、あれは異常だからな」


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