神話級2
ルミネスがとても不機嫌な歩みでこっちに迫ってくる。
ウーリッドがスッと立ち上がり、懐から『猫じゃらし』みたいな謎の魔導具を取りだした。
「ドミニク君と私は親公認の仲……ただの使い魔ちゃんに邪魔はさせない……これで遊んでて……」
「にゃ!? そ、その魔導具は!? か、体が勝手に動く……や! やめるのだ!」
左右に振られた猫じゃらしの魔導具に釣られ、ルミネスは夢中になって猫パンチを繰り出している。
ただ遊んでる様にも見えるけど……あれは魔獣を操る魔導具か? ルミネスを操るには生半可な魔法じゃ無理だ。きっと『魔力操作』の高ランクの魔法が刻まれてるに違いない……。
「ルミネスを完全に手懐けてるなんて、すごい魔導具だね」
「これ、庭に生えてた猫じゃらしだよ……」
「ただの猫じゃらしなの!?」
ルミネスにそんな弱点があったとは……獣の本能には逆らえないようだ。
事情を説明して何とか落ち着いてもらい、ルミネスも僕らの輪に加わった。
ルミネスは、魔獣のことならお任せあれと、興味ありげに本を覗き込んでくる。
「ふむふむ。石化の毒を吐くニワトリに、地震を起こす巨人ですか……」
ちなみに、『追憶』の魔法のことはルミネスには伏せたままだ。変に期待させておいて、魔導具が完成しなかったじゃ可哀想だし。
「にゃぁ……申し訳ありません。魔神の私ですら検討がつきません」
「ルミネスでも駄目かー」
「神話によると、召喚説が有力……」
そう言いながらウーリッドが本のページをめくる。
エリシアスに伝わる神話の中で、定番のものと言ったら、不死身の魔獣『不死鳥』だ。
エリシアスに結界が張られる数百年前。この大陸では冒険者と邪悪な知能を持った魔獣による戦争が絶えず起こっていた。
その戦争の最中、とある魔法師が亡くなった仲間を生き返らせようと『生命の宝玉』に祈りを捧げると、天空から『フェニックス』が現れ、『蘇生の羽』の雨を降らせたという伝説がある。
この話に出てくる『生命の宝玉』は古代人の手によって生み出されたもので、未だに遺跡の祭壇に祀られたまま魔獣を生み出し続けている。
生命の宝玉はギルドの職員が管理しているため、勝手に触れたり解析したりしないのが暗黙のルールとなっている。
「そんな伝説クラスの魔獣と遭遇する可能性は万に一つもあるかな」
「可能性はある……」
ウーリッドが、ポケットから『金の魔法石』を取りだして机に置いた。
「これは術者の幸運スキルを上げる『幸運の魔法石』……この石を持っていれば伝説の魔獣にも会える……かも」
「見るからに胡散臭い石なのだ」
「要は幸運スキルに頼るしかないんだね」
確かカレンが幸運スキルのBランクを持ってたよな? 商店街の福引きでよく一等賞当ててるし、
あいつの無駄な運のよさを考えたら、可能性としてはゼロじゃないか。
さて、残る問題はあと一つだな。
「僕がその神話級の魔獣を相手にして、生きて帰れる保証はあるかな……」
「「え……」」
割と真剣な顔で呟いたのに、2人は口を開けてポカンとしている。
「むしろ楽勝なのでは? ドミニク様が負ける未来が全く想像できないのですが……」
「同感……魔獣が可哀想になると思う……」
「いや、楽勝ではないでしょ……神話級だよ?」
更に首を傾げる2人。
この反応は何なんだろう……まぁ、会えたらラッキーくらいに思ってればいいか。どうせ運任せなんだし。




