神話級1
今月末に3巻が発売となります。
後々情報などお伝えさせていただきます!
遺跡探索の授業が午前中に終わり、午後から部活動の時間が始まろうとしていた。
そんな中、僕は部活動へは向かわず、養成学校にある図書館にやってきていた。
広々とした館内を歩きながら本棚を眺めていると、空調の涼しい風が肩を撫でる。
「やっぱり図書館は涼しくていいな」
ここで借りれる本は種類が豊富で、まだ発売されたばかりの最新の本まである。
夢中になって図書館を回っていると、選んだ薬草図鑑でいつの間にか机の上が山積みになっていた。
おっと、いつもの悪い癖で自分の趣味の本ばかりになっていた……。
今日僕がここに来たのは、ポーション調合の研究を進めるためじゃない。
ルミネスの記憶を蘇らせる方法を調べるためだ。
『追憶』……その魔法は、人間のDNA情報の中に刻まれた『記憶』を呼び戻す魔法だ。
現代魔法や古代魔法の書にも、記憶に関する魔法については詳しく書かれていない。
その理由はまぁ実に単純なもので。人の心を操作したり、記憶を変える魔法の研究は禁忌とされているからだ。
死体を操る『死霊術』系統の魔法もその一種であり、新たな魔法理論が生まれて時代が変わった今でも、人の尊厳を奪う行為は許されない。
ちなみに、図書館で本を借りるのには冒険者カードが必要だし、読んだ本の履歴がバレてしまうのでやましい本を読むのは不味かったりする。『記憶』に関する本は特にね。
「お待たせドミニクくん……図書館は静かで好き……」
ウーリッドが現れ、僕の横に椅子を引っつけて座った。
「やあウーリッド。例のものを持って来てくれたみたいだね」
ニコッと優しく微笑むその手には、『記憶の魔導具』に関する本と、図書館には場違いな『金の小槌』が握られている。
今日は魔導具部の活動をお休みしてもらい、ここで待ち合わせをしていた。
ウーリッドが持ってきた金の小槌には、術者の記憶を相手に伝える未知の力が秘められている。天空山のクエストのときは、この小槌の力で彼女の記憶の一部を僕の頭に映すことに成功した。
「その小槌を貸してくれるかな? 魔法陣を調べてみたいんだ」
「うん……好きに使って……」
小槌に解析の光を通してみると、頭の中に複雑な魔力情報が流れ込んできた。
ん……これは古代の素材か? 驚いたな……この魔導具には魔法陣が刻まれた形跡が残っていない。
こうなると、魔法以外の何かが要因として働いているとしか思えない。
「これは難しいな……この小槌に関する情報は何かあるかい?」
「このハンマーは特別なルートから手に入れた骨董品……製作者は不明。パパもいつ入手したか覚えていなかった……分かるのは特別な魔獣の素材がいくつも使われてるってこと……」
「特別な魔獣って? 竜族とは違うの?」
「うん……魔獣のランクはアルファベットで分けられてるけど……アルファベットを超えた更にその上には、『神話級』と呼ばれる魔獣が存在するの……」
神話って……また厄介そうな話になってきたな。
ウーリッドの解説によると、ギルドの長い歴史において、冒険者に多大なる影響を与えたとされる魔獣を『神話級』と呼ぶらしい。
神話級の魔獣とは『古代のエレメンタル』の加護の力を持った特別な魔獣だ。
遥か古代に生まれ、数々の伝説を残して来た『不死の魔獣』たち。
現代ではその姿は絵本などに描かれ、親から子へと語り継がれているんだとか。
「つまり、神話級の魔獣の体の一部を採取すれば、『追憶』の魔法が完成させられるんだね」
「うん……でも、どの神話級の魔獣が『追憶』の魔法に関する素材となるのかは未知……」
「ニャー!」
突然、尻尾を踏まれた猫みたいな叫び声が聞こえ、バーン! っと勢いよく入口の扉が開かれた。
びっくりして扉の方に目をやると、逆光に見慣れた猫耳のシルエットが映っている。
「にゃー! ドミニク様は私のご主人様なのだ! 馴れ馴れしく近づくな!」
「ル、ルミネス……!?」
何か誤解してるみたいだな。




