実技試験 6
《お知らせします、カルナ先生撃破によりドミニク・ハイヤード君に50点が追加されました》
制服のシールに仕掛けられた通信魔法の音声に、生徒達から驚きの声があがる。
「教師を倒したってよ、信じられねー。ドミニクってどんな奴だ?」
「やっぱりさっきの流れ星はカルナ先生か!?」
その頃リーシャは『光学迷彩』の魔法を上手く使い、戦闘を避けて森に潜んでいた。
小動物の歩みで、森の茂みに身を隠しては進み、また隠れを繰り返す。
歩いて来た道を振り返るとそこには、ハンカチで汗を拭いながら森を進むギーシュ達の姿があった。
ギーシュ達は森に入ってからずっと、姿の見えないリーシャの痕跡を探りつつ跡を付けていた。
ギーシュが歩く度に、ドスドスと不思議な音が森にこだまする。
「またリーシャちゃんの姿が消えましたよ!」
「隠蔽の魔法だな、かなり高度な物だぞ。占い術で道を探れば簡単に着いて行けるけどな! それにしてもドミニク程度にやられるなんて、教員もたかが知れてるな」
リーシャが首に掛けている銀色のネックレスに魔力を込めると、魔法石が反応して光学迷彩の魔法が発動し気配を断つ事が出来る。
しかしそれにも限界がある、連続での魔力消費に疲れ果て、とっくにリーシャの魔力は底を尽きていた。
「きゃっ!」
魔力切れに焦ったリーシャは慌てて走り出し、不注意にも木の根っこに躓き転んだ。
「いたたっ」
擦りむいた膝を庇う間も無く立ち上がって制服の汚れをはたくと、近付いてくる足音に悪寒を感じ、急いで後ろを振り返った。
リーシャが転んだのを切っ掛けに、ギーシュ達は走り出していた。
「リーシャちゃんが転んだ! 僕が治してあげなきゃ、ぐふふ……」
「ギ、ギーシュさん目がヤバイっすよ!」
立ち尽くすリーシャの元へと、ギーシュ達が追いついた。
薔薇の花束を持ったギーシュが、優しい瞳でリーシャへと語りかける。
「僕はギーシュ、こんな森で出会うなんて運命だね、リーシャちゃん!」
「は、はぁ……そうなのかな」
白々しくも完璧なキメ顔で跪き、薔薇を差し出した。
「現代魔法『B』の才能を持ちプラネックス家の次男である僕の彼女にしてあげるよ」
「ごめんなさい!!」
リーシャは深々と頭を下げ、愛の告白をキッパリと断った。
「なに告ってんすかギーシュさん!?」
「本当、空気読めないっすね」
思いもしなかった失恋に、ギーシュのぱっつんぱっつんの制服のボタンが音を立て飛び散る。
《パーンッ》
「ななな、なんで? 僕は『B』ランクなんだ、強いんだぞ! あの男だな……ドミニクにたぶらかされたんだな!」
関係の無い友達の名前を出され、温厚なリーシャも黙ってはいられなかった。綺麗な青い瞳で強くギーシュを睨みつけ、慣れない大きな声を上げる。
「ドミニク君は関係ないよ! もう私の事はほっといて!」
「うるさい! うるさい! もうお前なんか彼女にしてやらないからな、僕の『B』ランクの魔法で後悔させてやる」
2人の衝突を遮る様に突然、ブィーンと空間が割れ、大きな転移の狭間が木々の隙間に現れた。
「後悔するのは君の方だよ、お坊っちゃま君。少しやり過ぎだね。大丈夫かな? リーシャ」
転移の狭間の中から現れたドミニクとカレンが、リーシャを守る様にギーシュ達の前に立ちはだかった。
「ドミニク君!? どうしてここに!?」
「カレン! リーシャを頼むよ。僕はこのお坊っちゃま君に少しお仕置きするから」
突然現れたドミニクに驚きつつも、まだまだ余裕を見せるギーシュ。
「ドド、ドミニク! どこからやって来た!? なーにカッコつけてるんだ、学者でオタクの癖に! 僕の『B』ランクの魔法で土下座させてやる!」