授業2.1 レオルと鉱石採取2
「ぜぇぜぇ……ど! どこなんだここは!?」
……もう迷ったみたいだな。
目的地は高度2000m。既にレオルの膝がガクガクと笑っていた。
生徒の列から外れ、数名のパーティで足早に山を登るの事、数時間。
振り返れば見えていたギルドのキャンプ地も次第に遠ざかっていき、その姿を消した。今は道中にいた他の生徒の姿は無く、僕らのパーティだけ孤立している状態だ。
途中で道を逸れちゃったのか、呼吸を整える僕らの前方は、聳え立つ『崖』に寄って行き止まりとなっていた。
「ぜぇぜぇ……この崖を登るのか? 空気が薄すぎて辛いんだが」
「何でドミニクは平気そうなんだよ……」
後ろを歩いていたメンバーが膝を落とし、火山灰の積もった岩場に座り込んだ。続けざまに他の人も座り込んで行く。
みんな完全にバテてるな……。
僕は飛行魔法で高所には慣れてるけど、初登山でいきなり高度まで登ると、空気と魔力の薄さで立っているだけでも辛くなるらしい。
「僕はこの辺りまで、レッドハーブを採取しに良く来てたからね。確か、あの崖の下に鉱石の洞窟があった筈だから、登る必要は無いと思うよ」
「本当か!? しかし、こんな所でハーブ採取って命がけだな……」
火山地帯関しては土地勘もあるので、実は今いる場所の検討も大体ついていた。
それにクエスト情報には、使用禁止の魔法など特に記載されていなかったので、飛行か転移の魔法を使えばいつでも帰れるんだけどね。
「高度はどうなんだ? 2000m付近まで行かないとBランクの鉱石は採れないんだろ?」
スゥーっと深呼吸して、酸素に含まれる魔力を肺に取り込む。
空気に含まれる魔力が、地上の3分の1くらいまで低下してるな……。
「ここはもう高度2000m付近だよ。スタート地点と比べて空間魔力が下がってるじゃん」
「ふ、普通はそんな事解らねえよ……お陰で助かったが」
高度も分からないのに登ってたのか……危うく本当に頂上まで辿り着く所だった。
「さぁみんな、あの洞窟の探索に行こうぜ!」
「「おぉ!」」
※
これがルビー鉱石の洞窟か。
木で補強された洞窟の入口から中を覗き込む。
内部の壁際にぶら下がった『ランプの魔導具』が、ボンヤリと足場を照らしていた。
随分と人の手が加わってるな……足場も綺麗に整地されて木の通路が奥の方まで続いている。
鉱石を手に入れる為に、意気揚々と洞窟に足を踏み入れた瞬間。
中から数人の冒険者がドタバタと飛び出して来た。
「早くしろ! 『サラマンドロス』が追いかけて来てるんだ!」
「学生は麓の洞窟で採取しろと言われなかったのか! その制服が焼けて穴だらけになっちまうぞ」
擦れ違いざまに、大きく手を振ってジェスチャーしてくる。
ベテランの採取パーティだ……僕たちを心配してくれてるみたいだけど。何かあったのかな?
ドタバタと躓きながら、僕たちが登ってきた傾斜の向こうに消えていった。
サラマンドロス? やっぱり頂上付近には危険な魔獣がいるのか。高ランクの素材が採れるって事はそれ相応の危険も伴って当然だ。
「魔獣に追われてたみたいだね。僕たちも逃げた方が良さそうだよ」
「せっかくここまで来たってのに……命には変えられないか。逃げるぞみんな!」
急いで洞窟から脱出し、追っ手が来て無いか後ろを振り返った。
「魔獣が出てくるぞ!」
四足歩行で、洞窟の床をドスドスと駆ける魔獣。
体長4mクラスの大型の『赤トカゲ』が、僕たちを追いかけて洞窟から飛び出して来た。
マグマの様な赤い鱗にまだら模様の黒が滲んでいる。無表情でチョロチョロと舌を出し、鼻を鳴らして餌を探している。
ビ、ビックリしたー……あれはただの赤トカゲだな。紛らわしい。あいつらハーブ採取の時にたまーに邪魔してくる低ランクの魔獣だ。
ワンパンで倒せるから、多分サラマンドロスじゃないな。
「先にこいつらを片付けた方が良さそうだね。そのサラマンドロスって魔獣が来る前に!」
「早く逃げるぞドミニク! 隙を見せたらあの爪の餌食になっちまうぜ」
「いや、ちょっと隕石を降らせるから待ってて」
「隕石!? な、何言ってんだ!? 変な魔法はやめとけって!」
『収納』の魔法を発動すると白い狭間が生み出される。
『アースエンドの杖』が宙を回転しながら飛び出してきた。
片手で杖をキャッチし、即座に魔力を込める。
「大丈夫だって、行くよ!
初級魔法・『アース・エンド・カタストロィー』」
杖を掲げて呪文を唱えた。
ゴゴゴゴ!!っと轟音が鳴り響き、空に巨大な隕石が現れた。
「そ! 空から隕石が降ってくるぞぉ!!」
「ドミニクの魔法だ! 全員離れて伏せろ!」
ふぅ、成功だ! 思ったより落下速度が早いな……。
隕石を眺める余裕も無く、ドーン!!!!っと洞窟の入口付近に衝撃が走り。赤トカゲ達を纏めて粉々に吹き飛ばした。
げほっげほっ!……凄い煙で視界が悪いけど、どうやら一匹残らず倒せたみたいだな。初めて使う魔法だったから、ちゃんと目標地点に落ちるか怪しかったんだよね。
「よし、みんな今の内だ! サラマンドロスが来る前に逃げるよって、どうしたのみんな……?」
必死に撤退指示を送るも、さっきまで慌てふためいていた鈍器組のみんなが呆然と地面にへたり込んでいた。
……早く逃げなくて良いのかな?
呆気にとられる僕に、レオルが衝撃の一言を漏らした。
「ドミニク……今お前が倒したトカゲが『サラマンドロス』だぞ」
「えぇぇ!? このトカゲが⁇」
なるほど……って事は、さっきベテラン冒険者が逃げてたのは演技だったのか。
僕たちを驚かせて、鉱石を採掘させない為の嘘だったんだな……すっかり騙されちゃってたな。
「ドミニク……少し自重しろ。俺は慣れてるが、他のクラスの奴らはまだお前の魔法を見慣れてないんだ……」
「あぁ……悪魔の所業だ……隕石が降ってくるなんて……」
「し、死ぬかと思った……やはり噂は本当だったのか……」
確かに、カタストロィーの魔法はまだ解き明かされてない竜族の魔法の一種なので、みんな知らなくて当然か。
……ところで、この魔法って『複数詠唱』で使ったら隕石が沢山降ってくるのかな? いや……コントロール出来なさそうだしやめとこう。
その後、倒したサラマンドロスの素材を、回収しようと岩場を探索したんだけど……損傷が酷く素材として扱えそうなものは残っていなかった。
このトカゲ、エリシアスでは害獣の一種なんだとか。
「さて、鉱石を取りに行くよ」




