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お世話になっております。
厨二の冒険者です。
現在、更新の方は1.5章、養成学校編の方を進めています。
お手数ですが、章を遡って読んで頂けると幸いです!m(_ _)m
「あそこに赤い鳥居が立ってるだろぉ、あれが花の都の入口だあ」
ドワーフおじさんが指差した田舎道の先には、遠くからでもハッキリと見える綺麗な赤の鳥居が立っていた。そのすぐ隣では、巨大な天空山が雲の向こうへと突き抜けている。
「カレンの故郷だ。変わってないな……」
忍の国の東部、天空山の麓に『花の都』と呼ばれる庭園に囲まれた町がある。この町はエリシアスで言う所の聖域に辺り、特殊な力を受け継いだ『呪術師』と呼ばれる呪いの扱いに長けた一族が住んでいる。
呪術師は呪われてしまった人間に『解呪』を施したり、花を使った薬品の調合に力を入れている。花壇の配置によって気候を変える『ジンクス』なんて魔法もあるらしい。
この都に近づくに連れて、周囲にやたら色鮮やかな花壇が目立ち始めたのはそれが理由だ。空を見上げれば、ヒラヒラと桜の花びらが舞い落ちてくる。
うわっ、高いなぁ……。
この辺りから徐々に高所になっていく。花壇の向こう側は手すりも無い崖になっていて、足を滑らせたら崖下へと真っ逆さまだ。
子供の頃に、危なっかしいながらもここを歩いた記憶がある。カレンも連れてきてやれば良かったな。
1人で物思いに耽っていると、ルミネスが猫耳を撫でながら、浮かない表情で周囲を見回していた。
「ルミネス? どうかしたの?」
「天空山、赤い鳥居、花壇と……この国に来てからずっと、既視感を覚えています。薄っすらと何かが浮かんでくるのです……」
やっぱり、記憶が戻ろうとしてるのかな……?
聳え立つ天空山を遠い目で眺めながら、ルミネスは曖昧な記憶を掘り出そうとしていた。
「ここには観光に来たわけじゃねえ。水銀を手に入れたら、オラの家で賢者の石を生成する約束だぞぉ」
先頭を歩くマイルドさんが、エリクサーの瓶を振りながら悪巧みした顔で振り返ってくる。
「分かってますよ。水銀はどこで手に入れるんですか?」
「水銀の素を花の都で買うだけだあ。少々危険だがぁ天空山の洞窟で採取するって方法もあるけどなぁ」
普通に売ってるなら問題ないな、まーた洞窟に潜って無駄な手間かけるのはごめんだ。
レヴィアが急にポンッ!と手を叩き、何か思い出した様子で口を開いた。
「はっ! 洞窟といえば、エリシアスの雪山に稲妻が落ちて、洞窟が半壊した事件がありましたよね? 一時は、盗賊どもの仕掛けた魔導具が爆発したという噂もありましたけど……」
げっ! せっかく忘れかけてたのに……ルミネスの前に、僕の記憶を消去してもらいたい……。
「ふふん、レヴィアよ。あの洞窟はドミニク様が魔法で吹き飛ばしたのだぞ」
何でバラすの!?
「え……ええ!? あれはドミニクの仕業だったのですか……そんなまさか! いえ、ドミニクの魔力量を考えたら有り得ないとは言い切れません……しかし……」
あの時は盗賊達に騙されて動揺してたからなぁ……。
戸惑うレヴィアの横で、ルミネスはさも当然と言わんばかりに誇らしげな顔を見せていた。
「……んんぅぅ、騎士団員として心を鬼にして言わせて貰いますが! 雪山の洞窟はエリシアスの遺産なのですよ! ドミニクは本気で自重すべきですよ!」
怒ったレヴィアが、僕のローブの襟袖を持ってブンブンと引っ張ってくる。
「ハハ……いやー、それがさぁ、ワイバーンに囲まれてて、つい手が滑っちゃったんだ……」
「何がどうなったら手が滑って洞窟が半壊するんですか!!」
※
レヴィアに叱られながらもやっと坂を上りきり、庭園の入口に建てられた大きな鳥居までやって来た。
鳥居に魔獣除けの結界が張ってあるな……魔獣対策はそれだけだ、例の花のジンクスによって平和なのかな……割と警備は軽いらしい。
サッサ!と、乾いた音を立てて砂埃が舞った。
「そこ! 手を休めない! ゴミが落ちてると花のジンクスが乱れて魔獣が中に入ってきますよ!」
箒を持った着物姿のお姉さん達が、リーダーらしき人物に喝を入れられながら、せっせと鳥居の前を掃除していた。
「よぉ、中に入らせて貰うぞお」
「お邪魔しまーす」
マイルドさんに続き、門の前を早足で通り抜ける。
こういう時は、大体スムーズに通して貰えないんだよな……。
「止まってください! この鳥居を潜る事は許されません」
やっぱり……着物姿のお姉さんが、箒を使った通せんぼで進路を塞いできた。よく見たら腰に短刀が下げられていて何やら物騒な雰囲気だ。
「そちらのお二人はエリシアスの方々ですね? ここから先は現地人しか通行の許可がおりていません。申し訳ありませんが、お引き取り願います」
「なにぃ! どうして現地人しか入れないだぁ。こいつらは大事な客人様だぞぉ」
間に入って抗議するマイルドさん。話を聞いた限りでは、黒髪のルミネスとドワーフ族のおじさんは通っても良いけど、僕とレヴィアは通して貰えないらしい。
「ちゃんと事情があるのです……先日、この花の都に魔神が現れました」
「魔神だとぉ、だ、だから何だぁ!」
魔神……?
ドワーフおじさんの顔が一気に青ざめ、ルミネスの表情が一瞬、曇った。
「既に多くの住民達が、魔神の操る魔獣に襲われて命を奪われています。今は他国からの客人を招き入れて、余計な混乱を引き起こすわけにはいきませんので……」
レヴィアが周りに聞こえないように配慮し、僕の耳元に手を当てて囁く。
「ドミニク……。ルミネスが魔神だと気付かれたら不味いのではないですか? 魔神は災いを呼ぶもの、人間に宿る呪いとも言われていますし、それにこの町には、呪術師の一族が存在すると噂されています」
「確かにそうかもね……でも、大丈夫だよ。いくらルミネスの魔力を探ったところで、魔神だと証明できる確たる証拠は出てこないからね」
有名な話だ。『魔神』とは、魔法適性に優れた『赤子』の魂に取り憑き、宿主の肉体を奪う悪しき存在だ。
魔神に取り憑かれた赤子には心臓が2つあり、魂と人格も2つある。幼少期には悪魔の言葉を囁くような痛々しい言動が見られ、暴力性が増すとも言われている。
魔力波にはその人特有のクセがあり、怒りや悲しみ、あらゆる感情が魔力波に現れる。異なる2つの魔力波が体内に存在してしまうと、反発しあって感情の抑制が効かなくなり、意思に関係なく狂暴化してしまうからだ。
でもルミネスには、魔力波も心臓も1つしか無い……つまり、ルミネスは普通の獣人となんら変わらない、獣耳と尻尾をとってしまえば普通の女の子だ。
「魔神が何だというのだ……愚かな……漆黒の闇の底が一一一一ブツブツブツ」
ルミネスが変なポーズで、悪魔の言葉らしきものをブツブツと囁き始めた。
「……ルミネスのあの言動も、魔神としての人格に翻弄されているせいなのでしょうか?」
「いやー、あれはルミネスだからでしょ……」
ダークスピリットの例もあるし、ルミネスのあれは遺伝子によるものだろう。
ひたすらに交渉するも、一向に話が纏まらず、顔を真っ赤にして息を切らしたマイルドさんが帰ってきた。
ダメだったみたいだな……あーあ、せっかくここまで来たけど、港まで引き返すか。
「らちがあかねえぇだ! なあドミニク! おめぇ、噂によると強いんだよなぁ? ちゃちゃっと行ってパパッと魔神を捕らえてくれねぇか?」
ええ……まためちゃくちゃな提案を……。
何で僕が魔神なんかと戦わなくちゃいけないんだ……。
「おいドワーフ! 捕らえるなどと無茶をいうな」
「そうですよ! ドミニクに魔神を捕らえるなんて絶対に無理です!」
うんうん、珍しく2人が空気を読んでるな。今はこんな所で油を売ってるほど暇じゃないし、お腹も空いてきた。もう、荷物をまとめて帰ろう。
「魔神の身に何があっても良いように、先に死亡事故の契約書を書いてもらいましょう」
「だな、花の都を消し飛ばしてしまっても良いように、物損事故の契約書も書いておくのだ」
おい!! 何で戦う方向で話が進んでるんだよ……。
とは言っても、このまま帰るのもさすがに勿体ないよなぁ。
※
仕方なく、エドワード王子から貰った王族のバッチと、冒険者カードを取り出してお姉さんに見せた。
レヴィアも王宮魔法士の身分を名乗り、貿易人では無く、冒険者としてクエストを請け負う形で中へと入る許可を貰った。
「王宮の方達とは知らず、先ほどは失礼致しました……では、魔神捕獲といった内容でクエストを依頼させて頂きたいと思いますが、魔神は凶暴な魔獣を操る殺人鬼です、命の保証はできかねます……丁度、ドミニク様達の他にも、討伐クエストを請け負ってくれた勇敢なパーティがおりますので、一度その方達とも話してみて下さい」
僕達の他にも、クエストを受けた冒険者パーティがいるのか? 協力し合えるならありがたいな。
「「お気をつけて〜」」
着物姿のお姉さん達に見送られながら鳥居を潜り、花の都へと足を踏み入れた。
「オラは水銀の素を仕入れてくるから、お前らはクエストの情報を集めてくるだあ、じゃあな〜」
「えー、マイルドさんも手伝って下さいよ!」
そそくさと退散していくドワーフおじさん。
逃げたな……そもそも、ここには知り合いもいないし情報も少ない、まずは他の冒険者グループと合流するか。ん? 早速、人集りが出来てるな。
鳥居を潜った先の広場に、住民達に囲まれて得意げに剣を振り回しながら、大きな声で演説する冒険者の姿が見えた。
あれが他の冒険者か? 鋼の鎧にマント……それに黒剣……? 三つ編みの青髪の女の子もいるな。どっかで見た事あるぞ??
「はーはっは。魔神の事なら、この『魔神ハンター』のグレア様に任せておけ! 何てったって、俺はレッドドラゴンを倒した男だからな!」
「さすがグレア師匠です!」
ルミネスが汚物を見るような目で、演説中の冒険者を見ていた。
「ド、ドミニクさま……奴らは雪山の……」
「思い出した! 黒剣の導のグレアさんか! 今度は魔神ハンターを名乗ってるよ……本当、懲りない盗賊だなぁ」
前と同じ手口で、グリーンリザードの爪をレッドドラゴンの爪と偽り始めたグレアさん。レヴィアもその様子をジト目で見つめていた。
「あの胡散臭い冒険者が、ドミニクの知り合いなのですか?」
「ま、まぁね……知り合いって程でもないけど」
丁度いいか、雪山での借りを返してもらおうかな。
そう言えば、もう1人仲間がいたはずだよな? 眠りの呪いが込められた杖を持ってた……何て名前だったっけな?




