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効果の調整に手間取ったけど、お陰で調理魔法のコツが掴めて来た。
完成した人参レタスジュースを瓶に入れ、料理修行を再開しようとした時、急に外から騒がしい声が聞こえて来た。
「ララノアー! 居ないのか! 開けるぞ!」
返事も待たず、バンっ! と力強く玄関の扉が開かれ、息を切らしたエルフの男性が中に入って来た。
「ララノア! 今すぐ広場の方まで避難しろ! この村に竜族の群れが攻め込んで来てるんだ!」
「え!? どうしたのユフィル、竜族が攻めて来てるの?」
雰囲気から察するに、ただ事じゃ無さそうだ。どうやら、危険を知らせにやって来たみたいだけど、2人は友人かな? 親しげな雰囲気で話していた。
ってかやばい! 良く見たらあのエルフ、さっき広場で僕達に絡んで来た警備兵だ……咄嗟に顔を背けて気配を殺すも、速攻でバレた。
「さっきの人間じゃないか!? お前達、ここで何をやっているんだ!」
「何を、と言われても、ララノアさんに料理を習っていただけです」
「ドミニクの言う通りです、私は本を読んでいただけです、文句を言われる覚えはありません」
広場での一件もあり、少しだけ強気に返した僕達に、エルフの男性も負けじと、持っていた弓を強く握って睨み返して来た。
「ちょっと待って! その2人は、森で私を花竜から助けてくれた命の恩人なんだよ!」
「い、命の恩人だと!? し、知らなかったんだ……許してくれ……は、ははっ」
ララノアさんに怒られて、急にヘコヘコし始めたな。見た感じ、このエルフの男性は女性に頭が上がらないみたいだ。
「その……さっきはすまなかったな……俺はユフィルだ。お前らに頼みがあるんだが……少しだけ話を聞いて貰えないか?」
まぁ、大体の予想はつく、襲撃の件で間違い無いな。
「まずは話を聞かせて下さい。僕は冒険者ギルド、職員のドミニクです」
「緊急事態の様ですし、身分を隠す必要もありませんよね? 私は王都、騎士団のレヴィアです」
「まいったな……まさか、騎士団にギルドの人間だったとは……村から追い出そうとしておいて、勝手だとは思う。しかし、我々には助けが必要なんだ」
そして、助けを求めるユフィルさんから、一通りの話を聞いた。
住宅街の先の断崖絶壁にて、襲撃にやって来る花竜の大群をエルフの軍隊で迎え撃つ。しかし、竜族が前線を越え、住民達のいる広場が戦場に変わる可能性もある。
僕達の任務は、王都から連れて来た騎士団を森で待機させ、もしもの時は突入し、住民達を守る事。
断る理由は無い、襲撃があれば、ララノアさんにも危害が及ぶ事になる。それに、ユフィルさんが広場で僕達を捕らえようとしなかったのは、多分、まだ幼く見えた僕達の事を、傷付けない様に配慮してくれたんだろう。
「エルフの村は、隠蔽の魔法で囲まれてますよね? 1頭ならともかく、集団に攻め込まれる可能性は低いんじゃ無いですか?」
「それがそうでも無いんだ……隠蔽と感知の魔法は、森に設置した石板から発動している。もし、石板を破壊されればそれまでだ」
「感知と隠蔽を組み合わせた大規模空間魔法ですか……魔力の糧は一体どこから供給されているのですか?」
レヴィアが疑問に思うのも解る、それだけの空間魔法を維持するには、誰かが魔力を石板に込め続ける必要がある。
「森には6つの石板が設置されている。それに魔力を供給する為の石板が、広場に1つ置いてあるんだ。住民達が毎日、義務として交代で魔力を込めている」
なるほどな、転移魔法が使える僕にとっては、今回の任務は朝飯前だ。まずは王都に戻り、ウルゴさん達に話を聞いて貰おう。
ララノアさんから隠蔽の魔法の解き方を習い、一旦、エルフの村から出て、転移魔法で王城へと戻った。
※
夜空が広がる森の断崖絶壁にて、指導者、サイロスを中心に、総勢100名の兵士が列を組み、花竜の大群を待ち構えていた。
先程、偵察にやって来たと思われる花竜2頭に対し、先手で大量の矢を浴びせ、森へ墜落させる事に成功したが、既に隠蔽の石板を1つ砕かれ、村への侵入の危機が迫っていた。
「ははっ、大した事無かったな。残りもこの調子で仕留めよう」
「隠蔽の魔法が崩されたんだ、油断するなよ」
「おい!! 喋るな! 遠方に竜族の影を確認した!」
他の部族から連絡があった通り、飛来する花竜の群れは20頭、緊張からか恐怖の声が漏れ、サイロスも自分自身を奮い立たせようと、杖を掲げて雄叫びを上げた。
「行くぞぉ!! 初手で風の大規模魔法を放ち、翼を砕いて森へと墜落させるのだ!」
エルフ達が円形に列を組んで杖を掲げると、点だった光が繋がり合い、1つの巨大な魔法陣が生まれた。
サイロスの合図で全員が魔力込め、呪文を唱えた。
「大規模魔法・『ドレイン・ストーム』」
魔法陣から巨大な竜巻が発生し、一直線に花竜の大群を貫いた。と同時に、吹き荒れる暴風が空気中の魔力を根こそぎ奪い取って行く。
空気中の魔力が消失される事で、花竜の翼に刻まれた飛行魔法は発動しなくなる。翼の力だけで空を飛ぶには、その体は重く、強烈な嵐からは逃れられ無かった。
「良いぞ! 作戦通りだ!」
「嵐に呑み込まれたな、どんどん落ちて行くぞ!」
飛行していた花竜、20頭全てが、なす術なく崖下の森へと落下して行った。
「次の作戦へと移るぞ! 恐れるな、数ではこちらが有利だ!」
這う様に崖を登り、住宅街へ侵入して来た所を待ち伏せて仕留める。全て上手く行く……そう安堵し、サイロスは墜落した花竜の様子を見ようと、崖の淵に足をかけた。
「な、何だとぉぉ、そんな馬鹿な……」
その作戦を打ち破る、信じられ無い光景がサイロスの目に飛び込んで来た。
崖下に辿り着き、サイロスを見上げる花竜の内の1頭が、大きく口を開け、ズルリと、古代模様の石板を吐き出した。
「まま、まさか!? あれは不味いぞぉ……転移魔法の石板を使う気だぁ! 遺跡から盗んで来おったな竜族ども!!」
前列に居た兵士達も、その光景を目にしてパニックを起こし、あっという間に隊が乱れて行く。
「誰か石板を破壊しろ! 取り返しが付かなくなるぞ!」
「無理だ、森に入ったら殺される……」
転移魔法による集団襲撃、相手は知能型の竜族だ、それくらいの事は平気でやってのける。しかし、サイロスは戦況を読む事が出来ず、最悪の状態で戦いは始まる事となった。




