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「全員集まったか、久しぶりの召集だな」
エルフの村にある訓練場の会議室にて、村の代表者数名が机を囲んでいた。
指揮を取っていたのは、民族衣装に羽冠を付けた色黒のエルフの長、サイロス。
何百年もの間、人間とエルフの交流を拒み続けている、古き頑固者であった。
エルフの民、総勢300名の内、戦闘に携わる軍隊に属している者は100名とかなり少数だが、人間よりも魔法適性が高い種族であり、幼い頃から狩や戦いを学んで育って来た。
武力に置いては他の国を圧倒出来る、サイロスはそんな根拠の無い自信を持ち、エルフの軍隊にもずっとそう言い聞かせて来た。
非常事態にも関わらず、サイロスが余裕の姿勢を崩す事は無かった。
「邪悪な竜が群れを成し、神聖なるこのエルフの村を攻め落とそうと向かって来ている。全員、覚悟を決めて迎え撃つぞ」
「待って下さい!」
納得行かない様子で立ち上がったのは、警備兵のリーダー、ユフィル。長髪を結ったエルフ特有の髪型に、軽鎧を纏い、大きな弓を手放す事なく抱えていた。
ユフィルは頭の切れる男であり、この中では唯一、僅かばかりではあるが、人間への理解を示していた。
「先程、村の侵入者と接触して来ました。まだあどけない少年少女でしたが、エリシアスか王都の民だと思われます……これはチャンスではありませんか?」
「村に人間がいるのか?」
「まずいだろう、どこがチャンスなのだ」
人間の侵入者がいると聞き、参加者から不安の混じった声が漏れる。それに乗っかる様に、ユフィルは話を続けた。
「考えてみて下さい、王都の人間が村にいるのならば、事情を話して、騎士団を呼んで貰う手もあります」
人間に手を借りるなど言語道断、ユフィルの提案をエルフの長、サイロスが遮った。
「駄目だ、例え緊急事態であったとしても、我々に関わりの無い連中が、無償で手を差し伸べてくれるとは思えん」
「サイロス様の言う通りだ、人間は弱いくせにズル賢い種族だ。我々に恩を着せ、村を奪われる可能性だってある、そうなれば本末転倒だぞ」
「しかし、森に住む他の部族からも報告がありました、遅くても明日、いや、今日の夜にはこの村に竜族が襲撃に来ます……」
近年、エルフの村では花竜の襲撃が頻繁に起き、住民達は頭を悩ませていた。
たった1頭の花竜を討伐するのでさえも、生死を分ける戦いとなる。それが複数とあれば、被害が甚大な物になるのは目に見えていた。
「いや、結論は変わらん。予定通り、エルフ族だけで防衛戦を行う。住民達を今すぐ広場の方へ避難させろ」
「サイロス様! 我々だけで勝てる可能性は……」
ユフィルは立ち上がり、無謀な作戦に異議を唱え続けるも、誰も聞く耳を持たない。エルフ族はやはり、戦いにおいて絶対的な自信を持っていた。
「エルフの戦士たる者が怖じ気付いたのか? 策はある。最初の一手で全員で大規模魔法を放ち、一気に殲滅する。後に戦える者達で村西方、住宅街に花竜を誘い込み、1匹残らず仕留める。森で奴らと戦うな、植物系魔法で八つ裂きにされるぞ」
※
ララノアさんに言われた通り、魔力を辿って村を進んで行くと、庭に大きなオリーブの木が生えた一軒家に辿り着いた。
「おーい! こっちだよー」
採取用のカゴを持ったララノアさんが、玄関先で手を振って迎えてくれた。
「好きなだけ採ってねー」
「え! 沢山採っても良いんですか?」
「へーきへーき、だって一杯あるもん」
垂れ下がったオリーブの木の枝から、黄緑色の実を手で毟ってカゴに入れ、家の中へとお邪魔した。エルフの家はレンガの三角屋根の木製で、忍びの国の民家に近い。
放浪エルフのララノアさんに家族はいない、年齢も不詳だ。エルフ族は長寿らしく、見た目が若いのに数百歳くらいの者もいるんだとか。
「おいでおいでー、こっちで料理修行を始めるよ!」
「はい、ララノア師匠!」
「私は、そちらでエルフ族の本を読んでます、独自の魔法理論を学びたいのです」
手招きするララノアさんに調理場に案内され、料理スキルの手ほどきを一から受けた。噂通り、エルフ族は確立された調理方法を持っており、食によりお腹を満たすだけじゃなく、魔力補助や身体強化の効果をもたらす調理法を教わった。
「魔力で調理器具をコーティングするんですか?」
「そーそー、簡単でしょー。次はオイルね、まずはオリーブの実から汁を絞って、油分だけを分離させるんだよ」
さっき、カゴに入れた大量のオリーブの実を、掌に包んで持つ。
そのまま魔力を込め、握力で絞って器を汁で満たし、分離の魔法で汁から抜き出した油分を、スプーンですくって透明な瓶に移して行く。あっという間に、瓶が綺麗なオリーブオイルで満たされた。
「じゃーん、完成だよぉー」
「おおー、完璧ですね」
商店で買って来た野菜を、スタンスタンッと切り分けた後、完成したオリーブオイルを野菜にドバーッとかけて、レヴィアに試食してもらった。
「美味しい……あれ? 私の体が魔力の光で包まれてませんか? 不思議です」
「風属性の、魔力変換効率が上昇する魔法をかけてみたんだけど、どうかな?」
「特殊効果のある料理ですか? 面白いですね、魔法を使ってみます!」
魔力変換効率が高くなると、空気中の魔力を体内に吸い込む量が増え、魔法の規模が大きくなる。レヴィアがテーブルの上に置いてあった花瓶に向けて、風魔法の魔法陣を描いた。
「そよ風を起こす程度ですが、行きます!
現代魔法・『ウインド』」
シュバーン!! っと、一瞬にして室内に暴風が吹き荒れ、花瓶が宙を舞っていく。
「きゃあ! 何やってるのー!?」
「レヴィア、張り切りすぎだよ!」
「そ、そんなつもりでは!? うっ、気持ち悪いです……」
パタンっと、血の気の引いた顔のレヴィアが、静かに床に倒れ、暴風が収まった。
え……どうなってんだ!?
※
それから、無事に意識を取り戻したレヴィアを、葉っぱのうちわでパタパタと仰いでいた。ララノアさんは、散らばった家具を拾いながら怒っている。
「ちょっとレヴィアちゃん! 家の中でやりすぎー」
「すいません、信じられ無い程の魔力が体内に流れ込んで来ました。一体どれほど、魔力変換効率が上昇していたのか……」
「そう? 8000%くらいしか上昇してない筈なんだけど……」
「聞いた私が間違いでした……常人の変換効率は200%程度で……いえ、この話はやめましょう」
なるほど、杖と違って直接体内の魔力変換効率を上げ過ぎてしまうと、魔力に酔ってしまうらしい、調整が必要だな。
それからミキサーの魔法を習い、商店で買って来た人参とレタスで、魔力変換効率の上がる人参レタスジュースを作った。
「これでどうかな? 飲んで見て」
「……美味しい、問題無さそうですね。体が軽いです!」
試行錯誤の上、レヴィアに試し飲みして貰う事、数回、魔力変換効率1500%程の、魔力に酔わない人参レタスジュースが見事に完成した。




