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こっちこっちー、と手招きしながら森を進む金髪エルフのお姉さんこと、ララノアさんの後を着いて行く。
あの後、花竜に追われていた理由を聞いてみた。何故か最近になって、エルフの村を竜族が頻繁に襲いに来るんだとか。
考えてみたら、ここは丁度エリシアスの結界の境目なので、隠蔽の魔法を掻い潜れる悪知恵を持った竜族が、群れを成していても別におかしくは無い。
「へー、料理修行ねぇー、エルフ族の調理法で良かったら私が伝授してあげるよ」
「本当ですか? オリーブオイルの製法が知りたいんですよ」
「オイルならお手の物だよー、私を師匠と呼びなさい!」
大事な部分は伏せたまま、僕達の事情も話し、雑談しながら森を進んで行く。唐突に、ララノアさんの足が何の変哲も無い木の前で止まり、指先で宙に魔法陣を描き始めた。
エルフの魔力が空気に浸透して行くと、風景がグニャッと曲がって変化し、隠蔽の魔法が暴かれて行く。
「ここがエルフの村だよー」
不思議だ……気が付いたら、さっきまでの森が消え、エルフの村へと続く長い坂道の上に立っていた。
おおーっと驚きながら、坂の下を見下ろす。この村は想像よりもずっと規模が大きく、村と言うよりは街が正しい。
坂の上から見える円形の大きな広場は、沢山のエルフ達で賑わい、食品店が向かい合う様に何軒も並んでいた。森の中に、エリシアスの街の1部を合成したかの様な不思議な景色だ。
大きな扇型の屋根のトンネルが、広場の奥から森の先へと続いており、森を開拓して建てられた街並みが遠くに見える。あそこが住宅街だな。
「オリーブの木なら家の庭に生えてるから、観光が終わったら、魔力を辿って取りにおいでー」
「オリーブの実まで貰っても良いんですか!?」
「いーのいーの、私、死ぬとこだったし」
お姉さんを先頭に坂を下り、広場を賑わすエルフ達に紛れて食品店を見て回る。明日の料理試験に向けて、オリーブオイルに似合った新鮮な食材を探さないとな。
「あの、ララノアさん。人間の僕達が普通に買い物してても良いんですか?」
「へーきへーき、エルフ、心広いよ」
根拠は良く解らないけど、大丈夫そうだな。おどけた様子のお姉さんを見て安心した。
野菜を中心にお店を見て回ると、ツヤのある美味しそうなレタスを見つけたので、店内にお邪魔した。
「こんにちはー、ここのレタスが欲しいんですけど」
中に入ってすぐに、商人の服が良く似合うエルフの男性店員とパッと目が合った。
「うわぁ、人間だぁ……」
引きつった顔をされたので、一旦引き返し、得意げなお姉さんに話を伺った。
「あの、大丈夫だって言ってましたよね?」
「ちょーっと待っててねー!!」
ララノアさんが慌てて間に入り、エルフのイメージがどうだこうだと揉める事、数分、無事にお買い物をさせて貰える事となった。
エルフ族の中ではララノアさんの様に、森の外に出て人間と関わりを持つ者は少数で、全く森から出ない者が殆どらしい。
「そっちのレタスっぽいのと、こっちの人参っぽいのも下さい」
「まいどぉ、物々交換ねー」
食材は全て物々交換、王都と交流がほぼ無いので僕やレヴィアが持っているGは使えない。なので、さっき倒した花竜からお肉と素材を入手しておいた。
カウンターの上に素材を並べると、驚いた様子でエルフのお兄さんが身を乗り出し、鑑定を始めた。
「こ、この花竜は君が倒したの……? すごぉ、本物の宝玉だー」
「はい、さっきフライパンで倒しましたよ」
「こわー、人間って強いんだぁ」
ゆるーい感じの八百屋のお兄さんから、花竜のお肉と物々交換で野菜を手に入れた。
「じゃあ、後でうちにおいでねー、ばいばーい」
邪魔しちゃ悪いと、変に気を使って来るララノアさんと別れ、2人でお店を見て回る。レヴィアはクスクスと笑いながら、僕の隣を歩いていた。
「ドミニクのせいで、人間の間違ったイメージが広がっています、ふふ」
「いやー、フライパンで倒したのは事実なんだけどね」
それから暫く観光し、調理道具屋で野菜が美味しく切れると言うスピリチュアルな包丁を買った。ついでに書店をめぐり、珍しいエルフ族の本も買い漁る。鞄がパンパンになった頃に、2人して我に返った。
「目的を忘れてた! そろそろ、オリーブの実を貰いに行こう」
「はっ、浮かれてる場合じゃないです!」
魔力を辿り、お姉さんの所へ向かおうとして、妙な気配に足を止めた。前から2人、エルフの警備兵がこっちに向かって来てる。
「そこのお前ら止まれ!!」
案の定、弓を持った2人組のエルフが、僕等を怪しむ様子で呼び止めた。
「お前ら、森の外で怪しい魔法を使ったな?」
「ずっと見てたぞ、下手な真似はするなよ」
やっぱりバレてたか、すかさずレヴィアが耳打ちして来たので、それに応える。
「ドミニク、どうしますか?」
「様子を見るよ、いざとなったら転移魔法で逃げれば良いし」
弓を構えていたリーダーらしきエルフが、矢を下げ、ふぅっと、疲れた声を漏らした。
「まさか、子供の侵入者とはな……まったく、防衛戦の前日だってのに幸先が悪いな」
防衛戦? 何の話だ? レヴィアも疑問の表情で様子を伺っていた。
「明日、花竜の大群が村を襲撃しにやって来る、今日中に村を出て行かないと、お前らも死ぬぞ」
「もう行こう、子供の相手などしてる暇はない」
クルッとマントを翻し、2人組は広場の向こうへ去って行った。
「物騒だね、一体、何だったんだろう?」
「竜族の襲撃と言っていましたが……脅しでしょうか?」




