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エリシアス地帯なら僕の庭の様なものだ、転移魔法でレヴィア達を連れて、夜の火山にやって来た。
「本当に転移しおった! うぬぅ、信じられぬ……」
「あの、ドミニクは火山に来た事があるのですか?」
「この火山には、小さい頃からレッドハーブの採取に来てたからね、大体場所は分かるよ」
エリシアス火山、標高5000m。今は暗くて視界が悪いけど、ここは見晴らしの良い崖近くの採取ポイントだ。前にレッドドラゴンに襲われたのが記憶に新しい。
灰色のゴツゴツした岩場に足をかけると、赤い薬草が何本か生えているのが見える、傷を治すポーションが作れるレッドハーブだ。
レッドハーブは耐熱性が非常に高く、火のエレメンタルを糧にする為、固まった溶岩や火山灰だらけの岩場の近くにも平気で生えている。
ライトの魔法でクエスト用紙を照らしながら、レヴィアが呟いた。
「レッドドラゴンの住む魔の火山……こんな所でハーブを採取していたなんて」
「まぁ、エリシアス地帯ならどこに居ても竜族はいるからね」
遭難者、救出クエストによると、火属性の魔法石、ルビーの鉱石採取の最中に、グリフォンに乗った騎士団員4名が、東部3000m付近の洞窟でレッドドラゴンと遭遇、戦闘になり、2名が消息不明となった。
帰還した2名のうちの1人が、騎士団長のウルゴさんだ。
ルビーは、一般家庭でも重宝されている価値の高い魔法石だ。
魔力を込めるだけで熱を発生させ、保温効果もある。火のエレメンタルが多い鉱石場なら、どこでも採取可能だけど、特に火山地帯のルビーは質が良い。
公共の施設などでも使われているので、騎士団がクエストを定期的に受けて、エリシアスとの供給のパイプとなっていたんだろう。
歓迎パーティから抜け出して来た僕達は、溶岩混じりの岩場には似合わない正装姿だ。他の冒険者達に見つかったらギョッとされるかな……
「遭難者達が隠蔽の魔法を使っている以上、夜の火山から見つけ出すのは至難の技ですよ」
「確かにね……でも、前に似た様な事があったから、ちゃんと手は考えてあるよ」
僕の光学迷彩の魔法と違い、一般的な隠蔽の魔法は、体内の魔力を透明化させ、魔法陣などを視覚に捉えられなくする魔法だ。それにより、魔獣から感知されにくくなる効果がある。
「光を使わずに、相手の位置を探る魔法があるんだ。飛ぶよ、着いて来て」
「そんな魔法があるのですね……」
「ぬおぉ、ワシは飛べんぞ!」
飛行魔法で夜空へ飛び上がると、レヴィアも後をついてくる。ウルゴさんは飛行魔法が使えないので岩場に置き去りだ。
「さてと、レヴィア。その鎧の鷹のマークをこっちに向けてくれる?」
「鎧をですか? 一体何の為に……」
「物体の造形を照らし合わせる魔法があるんだ。本来の用途は違うものだけどね。遭難者が鎧を手放していなければ、きっと見つかるよ」
ウルゴさんとレヴィアが纏っている銀の鎧、これには騎士団のトレードマークである、鷹の窪みが入っている。これと同じマークを魔法で探り出す。
夜の火山に向けて魔法陣を描き、呪文をとなえる。
「初級魔法・『ソナー』」
ドーン! と大太鼓を叩いた様な音が火山全体にのし掛かり、音を介して火山中の全ての立体的な構造が、詳細に頭に流れ込んでくる。
これは、樹海の一件から学んだ新たな検索系の魔法だ。
音波を放ち、ぶつけた対象物からの反響を魔力を介して受信し、物体の形や位置情報を正確に把握する事が出来る。
検索や解析の魔法とは違い、物体の魔力などは全く感知することが出来ないので、検索対象となる物体の形を、予め把握しておく必要がある。
「何か解りましたか?」
「反応有りだね、2名の騎士が洞窟らしき所で横たわってる……ウルゴさんを連れてすぐに転移するよ」
岩場に降りて、反応のあった場所へ転移すると、そこには小さな洞窟があった。すぐさま中に突入し、ライトの魔法で照らした。
「……ぅ、助けてくれ……」
2人の騎士団員が衰弱状態に陥っていたので、すぐにエリクサーを飲ませて回復させた。あっという間に傷は治り、魔力はウルゴさんが直接分け与えていた。
「すんません! 助かりましたよー、さすがウルゴ団長!!」
「迎えに来てくれると信じてましたよ!」
「無事で何よりだ、お礼なら、そこのドミニク君に言ってくれ」
助けた2名の団員に挨拶し、感謝の言葉を受け取った。怪我をした体では下山できず、雨風をしのげる洞窟でずっと助けを待っていたらしい。
「一旦、王都へ戻りましょう。2人を帰還させたらすぐに出発します、休んでる暇はありませんよ!」
「はい! 行きましょうドミニク!」
それからは、ウルゴさんと救出した騎士達を本部に残し、レヴィアと2人で雪山、樹海と、同じ手順で行方不明者達を探しだした。
総勢24名、無事に転移魔法で本部へと送り返した。
※
「鎧を魔法で感知しただと!? ぬはは、まさかウルゴ団長の教えがこんな所で役に立つとわな」
「騎士が鎧を脱ぐな、か……たまたまだろ! がはは」
もう時計は深夜2時を回り、護衛の兵士と救出した騎士団を残し、みんな寝静まっていた。遭難者達は休む事はせず、酒を飲み、生還した喜びと武勇伝を語り合っていた。
「ドミニク、本当に大した男だなお主は! 感謝しても、しきれんのう……後日、エドワード王子から勲章が授与されるであろう」
「いえ、ウルゴさんもお疲れ様でした。僕は少し休みますね」
もう限界だ、本当に長い一日だった……いや、もう日付が変わってるか。
さすがに疲れ、本部の椅子に座ったまま、ガクンと眠りに誘われる。
「お疲れ様でした、あ、あの……ドミニク、大事なお話があるのです……」
「……ん?……どうしたのレヴィア?」
レヴィアは顔を真っ赤にして目を逸らし、もじもじと恥ずかしそうに呟いた。
「そ、その……ド、ドミニクは素敵な人です……」
「あ、ありがと……」
言ってしまった! と、顔を押さえて挙動不審なレヴィア……まだ何か言いたげだ。
「私を、その……ドミニクの……って、あれ?? 起きてますか?? あのドミニク!」
体を揺さぶられるも、眠くてそれどころじゃ無い、どうせ古代魔法を教えろとか、またそんな話だろ。ふぁーあ、おやすみ。
※
朝目が眼が覚めると、何故かふかふかのベッドの上だった。ここは研究室か? 誰かが運んでくれたのかな……?
ゆっくりと体を起こすと、台所からふふぅーんっと、鼻歌交じりで料理を作る音が聞こえる。
ルミネスかな? いや、机の下から黒い尻尾がはみ出てるな。一体、誰なんだ?
「あ! ドミニク! 起きましたか? おはようございます」
バタバタと駆け寄って来て、深々と頭を下げたのは、可愛いらしい青のメイド服を着たレヴィアだった。
「な、何やってるのレヴィア? その格好は!?」
「昨日言ったじゃないですか、今日から王宮調合師のメイドとして、ここで働かせて貰います!」
キイテナイヨ?? トコトコとやって来たフィアが、レヴィアに甘える様に身を擦りよせ、すっかり懐いていた。もう手懐けられてる……
「不束者ですが、これからよろしくお願いしますね」
「え! は、はい、よろしくお願いします」
ニコッと笑うレヴィアに、強引に押し切られた形で頷いた。
「もうすぐご飯が出来ますよ!」
またメイドさんが増えたぞ……ってあれ? そう言えば今日って、学校じゃなかったっけな……まぁいっか。こうして、王都での散々な1日はやっとの事、終わりを告げた。




