if
ファルコンさんが、庭に落下したカーバンクルに、回復の魔法で治療を行っていた。
「普通さ、素手で竜族を殴るかな? ビックリしたよー」
「ごめんなさい、咄嗟の事でしたし、って言うか煽ったのはファルコンさんじゃ無いですか……」
なんとか治療して貰い、怪我は治ったものの、横たわったまま動く気配は無い。かなり手加減したのに、再生能力を上回るダメージを与えてしまったみたいだ。
「何で急に襲って来たんですかね? 親と認識され無かったからですか?」
「合成獣は、初めて見た人を親だと認識する習性があるよー。純粋に遊びたかったのかもねー」
まだ意識の無いカーバンクルの体を、少し調べてみる。見た目は長い耳が目立つ、大きなフェネックだ。全身は水色の体毛に覆われ、長いフサフサの尻尾の辺りから、特殊レッドハーブが何本か生えていた。
上手く合成出来てるな、ハーブ種の獣は、食べたハーブが体から生えてくる。
このカーバンクルにもその遺伝子を組み込んであるので、わざわざ汚染させなくてもエリクサー用のハーブを育成する事が出来る。
「不思議なカーバンクルだねー、体が大きいのもあるけど、ドラゴン族の要素が強いんじゃないー?」
「ええ、大気竜の心臓に、赤竜の爪も合成しましたからね」
「そんなの入れちゃったの??」
まぁ、ステータスを見てみるのが手っ取り早い。カードを翳すと、カーバンクルから魔力流れて来た。
一一一一一一一一一一一一一
『名前』:アトモスフィア・カーバンクルドラゴン
『種族』:大気竜族 :カーバンクル、ハーブキツネ族
『性別、年齢』:♀ 0歳
『魔獣ランク』:SS
『戦闘能力』:接近戦闘 S
:魔法、風属性 S 火属性S
:飛行 S
:水泳 S
『特殊能力』:薬草育成、採取 S
:毒耐性 S
:再生能力 S
『ステータスカード称号』:神聖狐 :ハーブ獣 :合成獣
一一一一一一一一一一一一一
「……SSランクの魔獣だね?? おお?? ステータスがおかしいよー??」
「あー……ハハ、本当ナンデダロー……これってどのくらい強いんですか?」
「そう言われると難しいなー、SSランクの魔獣なんて見た事ないし、グリフォン相手なら圧倒できる位の強さはあるんじゃないー?」
なかなか強い魔獣らしい、研究師のファルコンさんが言うなら間違いないな。
さて、今の内に契約の印を刻んでおくか。クリスタルの魔法石は無いので、今すぐ召喚獣には出来ないけど、直接、カーバンクルの首筋に、契約の印を刻み込む事で僕と魔力で繋がり、使い魔とする事が出来る。
「初級魔法・召喚契約刻印」
刻印を刻み終わると、カーバンクルは急にムクッと上半身を起こして辺りを見渡し、僕を見つけて口を開いた。
《遊びましょう、パパ様》
元気に起き上がって、腰の辺りにスリスリと頭を寄せてくる。どうやら、単に遊びたかっただけみたいだな。
横からファルコンさんが、面白そうに尻尾のハーブを引っ張っていた。
「これ採取出来るのー? せっかくだから名前つけてあげたら?」
「そうですね……大気竜からとって、名前はフィアにします」
まだ生まれたばかりで、本能のままに行動してるのか、珍しそうに地面の雑草を食べ、ガブガブと池の水を飲み始めた。せっかく特殊レッドハーブが生えてたのに、雑草に生え変わっちゃうぞ……まぁいっか。
「これからよろしくね、フィア」
《フィア? 私の名ですか? よろしくお願いします、パパ様》
フィアは青い巨体を僕に向け、ぺこりと頭を下げた。もしかしてこの子、大気竜と同じで10mくらいになるのかな?? まぁその内、対策を考えれば良いか。念願の、乗れる使い魔が手に入っただけで良しとしよう。
研究室の屋根は一部吹き飛んじゃったけど、追加料金を払ってトムさん達に直して貰おう、まーた出費が増えたぞ……
「ところで、ファルコンさんって飛べるんですね?」
「そりゃ飛べるよー、鳥だもん」
※
ドミニク達が魔獣を合成している間、ルミネスは部屋の掃除を軽やかにこなしていた。
「ふんふんー、お掃除、お掃除〜。あれ? こんな所にクローゼットがあるな」
何となくウォークインクローゼットの隙間に入り、白い扉をガチャっと開くと、中に保管されていた衣装を見て、ルミネスの心が踊った。
「研究室に何故、モダンなメイド服があるのだ……可愛い、着たい!!」
掃除を終えたルミネスは、ポイポイッと着ていた黒のメイド服を脱ぎ捨て、丈の短い可愛らしいピンク色の新しいメイド服に着替えた。
「完璧だ……猫耳を隠せば、普通の女の子に見えるぞ。ドミニク様は喜んでくれるだろうか……?」
鏡の前でクルクルと回り、ポーズを決めていると、ズドン! っと空気が振動し、調合室の窓がガタガタと揺れた。
なんだ? と不吉な予感がし、すぐに検索の魔法を飛ばす。
「ドミニク様と……これは、神聖獣の気配か? 何かあったのだな」
急いで調合室から飛び出し、玄関の扉を開けると同時に、池から触手がバチャバチャっと飛び出し、ルミネスの両足首に絡みついた。
「にゃあ!?」
更に、池から数本の触手が、腕に、腰に絡みつき、自由を奪うと、ズルズルとルミネスを池の方へと引きずり込んでいく。
「離せ! これはリヴァイアサンの触手か!? 何でこんな所にいるのだ!」
この程度! と、脚力で強引に地面に体を固定する。
「ふっ、リヴァイアサンごときが調子にのるなっ!」
池の方からギョイ! と魚の鳴き声が聞こえ、上級魔法による巨大な水の竜巻が放たれ、身動きの取れないルミネスに襲いかかった。
「メイルシュトロームまでぇ!? にゃぁぁ! ドミニク様ぁ!」