実技試験 3
石畳にうつ伏せのまま気絶したレオルの肩を、安否確認の為につつく。
制服は風圧でボロボロに破れてるけど、傷は直ってる! 回復まで少しタイムラグがある見たいだな、無事で良かった。
それにしても何で誰も居なくなっちゃったのかな? みんなもう森に入ったのか?
静かになった校舎裏で、前方の何も無い空間が僅かに揺れ景色が歪むと、いきなり背後から何かに抱きしめられた。
「だーれだっ!」
背中を柔らかい感触が包み、同時に目隠しをされた。
この香りは……
「何遊んでるんだよカレン、いつから見てたの?」
『光学迷彩』の魔法により透明化したカレンが、ふざけながら現れた。
「なんでバレたのー? ドミニクが剣士をボコボコにしてる所からかな? みんな怖くなって逃げちゃったよ」
匂いで解ったよって言ったら変態っぽいよな……やめとこう。
リーシャは居ないな、森の中へ無事に逃げ切ったみたいだ。
「それで僕の魔法はどうだった?」
「どうって? いつも通りだよ、普通普通~」
そっかー、普通だったか。徹夜して低ランクの杖を作った甲斐があったな!
でもまぁ、小さい頃から僕の魔法を見てるカレンはあてにならないか、魔法なんて全然興味ないからなこいつ……
突然、嬉しそうにカレンは足下に置いていた何かを拾いあげた。
「それよりこれ見てよ、さっき森で見かけて抜いてきたんだー」
カレンの土まみれの手に握られていたのは薬草だ。何てこったい、この特徴的なハート形をした葉の薬草は他には無い!
「えええ、嘘でしょ! これが生えてたの??」
『興奮草』だ、こんな普通の森に生えてるのか!?
『無限の霧樹海』入って2秒で死ぬ。と言われる樹海に生えるレア草だ。
内部には猛毒の霧が充満してる為、毒耐性か空気浄化の魔法が使えないと探索する事が出来ない高難易度の未探索地帯だ。
何故か僕は3時間くらい平気だったけど、途中で吐き気がして退散した記憶がある。
カレンは僕のリアクションに満足したのか、和かに話を続ける。
「ふふ、夜な夜な研究してたの知ってるんだよ、この雑草でしょ?」
「雑草じゃ無くて興奮草ね、使い方さえ間違えなければいい薬品になるんだよ」
過剰摂取すると最高潮になって暴れ回るけどね! よーし、横取りされる前に全部抜いてから行くぞ!
「ありがとうカレン、お手柄だ! 早く森に行こう! 草毟りだ」
「えっへん!って、何か忘れてない?」
へ……? 何かって何だっけ?
※
試験担当の教員、追影は木から木に飛び移り、森を進みながら生徒達の動きを伺っていた。
《ピロローン! 通信でござる! 通信でござる!》
懐に入っていた『通信』の魔法を込めた魔法石が、プルプルと音を立て振動する。
「もう通信でござるか? 何か非常事態が……にん!」
人気の無い大木へと飛び移り、枝の影に身を隠し安全を確認すると、魔法石の通信魔法に応える。
「もしもし、どうなされたカルナ先生?」
「追影先生! 異常な魔道具を使っている生徒がいます。信じられませんがレオル君が100m程上空に吹き飛ばされました」
「上空100m!? まさか#アトモスフィアドラゴン__大気の竜__#族の魔法を再現した魔道具でござるか? そんな物一体どうやって?」
上空に人間を吹き上げる魔法と言えば1つしか無い、大気竜が使う魔法の咆哮だ。
その魔法陣は不明、風による空気の上昇現象を起こすと言われている。
「解りません、過去に討伐例の無い最強のドラゴンですからね。私が調査にあたりますが、暫く様子を見た方が良いですね……」
「一波乱起きそうでござるな、竜族の魔法を再現したとなると我等教員も唯では済まないでござる……」
通信魔法を切りカルナの警告により警戒を強める追影であったが、魔法による戦闘に関してはカルナであれば大丈夫だろうと考えていた。
「まったく、今年の一年には驚かされてばかりでござるな。でも一体誰が竜族の魔法など……」




