赤竜の爪
こんにちは、厨二の冒険者です。
この度は本作の3巻が発売される事となりました!
発売日は2月28日(金)です。
今回も『書き下ろし』+『加筆、改稿』付き。
イラストレーター『jimmy』さんの魅力的なイラスト付きとなっております。
一度読んだ方でも、もう一度楽しめる内容となっています!是非是非、書店で見かけたらお手にとって頂けるとさいわいです。
1、2巻好評発売中です! 皆様の応援のお陰で重版いたしました。ありがとうございます。
冒険者達の集いの場、『冒険者ギルド』のロビーにて、受付の女性職員が『赤竜の爪』を鑑定していた。
次第に顔が蒼ざめて行き、震える声で僕に尋ねて来た。
「『E』ランク冒険者のドミニク君……この『赤竜の爪』はどこで拾って来たの?」
「え……普通にドラゴンを討伐して来たんですけど、傷付いて駄目になってました?」
受付のお姉さんは無言のまま『赤竜の爪』をカウンターの上に置き、椅子から立ち上がった。
様子が変だ……ドラゴン族の『鱗』や『爪』は、素材として高値で売れるって話はデマだったのかな?
いや、やっぱり稲妻の古代魔法『プラズマ・ライトニング』を打ち込んだのが不味かったかな……跡形も無く吹き飛んじゃって『爪』しか回収できなかったし。
魔力のロープで縛り上げる『捕縛』の魔法を使って、生きたままギルドに運べば良かった。
「ドミニク君……」
「あのー、どうしたんですか?」
お姉さんが、真剣な熱い眼差しを僕に向けている、まさか愛の告白か!?
「今日から君は『SSS』ランクの冒険者です!! 今すぐ冒険者カードを『E』ランクから書き換えます!」
お姉さんは、バンッと受付の台を力強く叩き、衝撃の発言をした。
「ええ!? なんで僕が? ちょっと待って下さい、困ります!」
何を根拠に僕が『SSS』ランクだなんて言い出すんだ? あの『赤竜』って高ランクの強い魔獣だったのかな? 弱かったけどなー。
お姉さんは先程とは打って変わって期待に満ちた表情で椅子に座り、お茶をすすり始めた。
そもそも最高位の冒険者に与えられる等級は『S』ランクまでだ、お姉さんが言っている『SSS』ランクなんて物は存在しない。
何を企んでるんだ? まさか僕を煽てて面倒なクエストを押し付けようとしてるんじゃ!?
「ごめんなさい! 気楽に冒険者をやっていたいので、ランクは『E』のままでお願いします! ではこの辺で失礼しますー。
古代魔法・『空間転移』」
片手でパパッと魔法陣を描き『空間転移』の魔法を発動する。
ロビーの通路に敷かれた青い絨毯の上から垂直に2m程の亀裂が入り、真っ黒な転移の狭間が、ブィーンと奇妙な音を立て現れた。
この魔法は空間に作り出した転移の狭間を潜る事で、1度行った事のある場所なら一瞬で移動する事が出来る。
転移の狭間を見たお姉さんが、余裕の笑みで飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。
「ぶふぅー!! ちょっと! ドミニク君、それ古代魔法だよね!? なに普通に使ってるの!?」
「え? そうですけど、何となくやってみたら出来たっていうか。じゃあお姉さん失礼します」
「赤竜を倒すなんてとんでもない事なのよ! 待ちなさいー!!」
何か叫び、カウンター台から這い出て来そうなお姉さんを無視し、急いで転移の狭間を潜って自分の家のリビングへとワープした。
※
ふぅ、なんとか逃げ切ったな。
ソファーに座り額の汗をぬぐって一息つくと、どこか寂しい雰囲気のフローリングが目に映る。
やっぱり、この家は1人暮らしには広過ぎるよね。
この家には学者だった両親の趣味で『調合室』と『合成室』があり、裏庭には調合に使う薬草を保管する為の『薬草保管室』まで完備されている。
重い腰を上げリビングから出ると、薄暗く何もないフローリングの通路を歩き『調合室』の扉を開けて中に入った。
6畳程の部屋の角に木製の本棚が2つ並び、入り口の左手には薬草を『ポーション』等の薬品に変える調合器がある。
天井には調合の熱を逃がす為に設置された、魔力で稼働する『魔導換気扇』が、ガタガタと危なっかしい音で揺れていた。
鞄から火山で採ってきた『赤い薬草』を木製の小さな調合台に並べる。
材料も揃ったし、怪我を治す『レッドポーション』を作るか。使う材料は『赤い薬草』と『聖水』だ。
すり鉢に薬草を入れ、乳棒を使いすり潰す。魔法で水を浄化して聖水に変え、調合器のガラスの器にすり潰したレッドハーブと聖水を入れ沸騰させる。
透明だった聖水が薬草と混じり、真っ赤に染まって行く。
《グツグツ》
うん……上手く調合出来てるな、そろそろかな!
火山から集めて来た薬草を全て使い切り、『100mL瓶』x『10本』分の『レッドポーション』が完成した。
1人暮らしでお金の無かった僕は、このポーションを冒険者ギルドに安値で売るアルバイトをしていた。
「ふう、この辺で一旦終わりにしよう! そろそろカレンが来る頃だし」
ポーションの瓶を持ち調合室から出ると、丁度ガチャガチャと玄関の扉の鍵を開ける音が聞こえて来た。
玄関のチャイムも鳴らさずに鍵を開け、ドタドタと家に入って来る女の子。
長い黒髪のポニーテール、眼鏡の奥の薄いピンク色の純粋な眼、地味な黒いワンピースを着た見た目通りの真面目な女の子。
僕の幼馴染のカレンだ。
「ドミニク入るよー、ってまたポーション作ってるし! 飽きないねー」
カレンは僕が手に持っていた真っ赤なポーションの瓶を見て、呆れた顔を見せた。
「やあカレン、これで生活してるんだから良いでしょ、お腹空いたしなんか食べる物ない?」
「勿論あるよー、じゃーん」
ガサガサと大きな紙袋から、商店街で買って来たパンを取り出して見せて来た。焦げ目が食欲をそそる、安い、でかい、美味いの三拍子揃ったクロワッサンだ。
リビングに入りソファーに腰掛けると、カレンも僕の隣にぴったりとくっ付いて座り、2人でパンを食べる。
いつもの事だけど近いなぁ、カレンは昔からやたらと引っ付いて来るんだよね……
「ねえドミニク、明日は養成学校のクラス分け試験なんだから、ちゃんと準備してるの?」
「あー、まだだよ。制服の寸法は合わせたかな、カレンは?」
「私はもう終わったよ、それより幼馴染としてドミニクに変な虫が寄り付かないようにしないと!」
「え? どう言う意味それ」
照れた顔でソファーに座ったまま膝を抱え、僕を見つめるカレンを見て思い出した。
すっかり忘れてた……明日から14歳になる僕達の学校生活が始まるんだった!