本編⑥ ── 妹萌(前編)
少しだけ、過去の話をしよう。俺がまだ、小学四年生だったときの話。
俺がまだ、家族と友好関係を築いていたころの話。
その話は、俺がアニメを趣味として持つようになったころから始まる。
初めていわゆる萌えアニメを見始めたのは、そのアニメのネット評価が高かったからだ。
それまでも有名なロボアニメなどを見ていた俺にとっては、萌えアニメというものはものすごく新鮮だった。
綺麗な作画に、魅力的なキャスト。これでハマらないわけがない。
その日を境に俺は、どんどん「萌え」というものに陶酔していった。
某日。いつものように学校が終わり、俺はいつもの通学路を歩いていた。その、歩いている最中。
一つの店を見つけた。毎日通っているはずの通学路なのに、初めて見かけた。恐らく新しく開店した店だったのだろう。
俺は引き込まれるようにその店に入っていた。なぜかって? 店の前の看板に、俺の好きな萌えアニメのヒロインの、等身大パネルが置いてあったからだ。店の名前は、『妹萌』。
余談だがあのときは等身大パネルという言葉自体知らないで、でっかいポスターだと思っていた。
一人のアニメ好きとして、入らないわけがない。
「あぁ? おい、なんだ坊主ぅ。前にある看板に惹かれたか? ここはガキの来るとこじゃねえぞ」
入ったとき、俺がまだ幼かったからか、店主が話しかけてきたのをよく憶えている。
店主はヤクザよろしくの口調とは裏腹に、優しそうな顔によく似合う笑顔が特徴だ。
「‥‥‥あの、店の前にあるのって桐乃ですよね。
僕、あんなおっきいポスターなんて見るの初めてで、すっごい興奮しちゃって、それでっ、入って来ちゃって‥‥‥」
「ははは! そうかそうか! 今の時代、お前みたいなガキでも萌えアニメを見るんだなあ! はっは! 世も末だ!」
店の中にはラノベやポスター、漫画やフィギュアが揃っており、更にはタペストリーまであった。
俺がまるで宝の山を見つめるように見ていると、店主が話しかけてきた。
「おいおい坊主、まさかおまえ、妹萌えとかするのか?」
「‥‥‥いもうと、もえ?」
「知らねぇで入ってきたのか! がははッ! 店の前にあるキャッチコピーに書いてあるだろ、『妹が出てくる作品ならなんでも揃ってます』ってよ! 見ないで入ってきたのかァ?
妹萌えってのはなァ、妹に萌えるってことだよ!」
「‥‥‥もえるって、なに?」
「そっからか! ‥‥‥いやァ、考えてみると俺もよくわかんねェなあ。まあとにかく、可愛いと思えば萌えなんじゃねえの!」
「でっ、でも‥‥‥友だちが家族に興奮しちゃいけないって言ったの聞いたし‥‥‥」
「ぐははッ! 言いたい奴には言わせておけッ! だいたいお前も桐乃に興奮して入って来たんだろ? 妹萌えしてんじゃねえか!」
「あっ‥‥‥そっか」
「なあなあ。どうせ開店したばっかで人も集まらねぇし、ちょっと話していかねえか?」
「う、うんっ!」
俺は店主と、腹が減って腹が鳴るまでずっと話していた。
好きなアニメのこと、好きなキャラのこと、好きなモビルスーツのこと、エトセトラ、エトセトラ。
そして帰るとき、ただで桐乃が出ているラノベをもらった。ラノベという存在を初めて知り、大事にラノベを両腕で抱きしめ、わくわくしながら家に帰った。
‥‥‥遅くなったということで、親に怒られたが、そのときは怒られた内容などまったく頭に入ってこなかった。
二日後投稿と言いましたが、この話はめっちゃ楽しんで書いて、早く皆様に見せたい、ということで今日投稿させていただきます。この話は自信あります。
たぶん、前編中編後編で分かれると思います。一話約1000文字と、自分の中で決めております故。
次回は、明日投稿させていただきます。