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ジャッキング・フォース  作者: まるマル太
第2章 謎の世界との出会い
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#第6話 消えた記憶と消せない記憶

#第6話 「消えた記憶と消せない記憶」




・・・俺は不死鳥のアーマーを纏う男に連れられ、

木々の間を抜けて装甲車のような灰色の車両へと辿り着いた。

サイドに窓がなく、いかにも頑丈そうな作りだ。




・・・ここに歩いてくるまでに多少、言葉は交わした。

俺が記憶喪失だという認識は持ってもらえたらしい。

ただ、この男、口調が淡々とし過ぎていてどこか気に食わない。

仮にも瀬尾せおという仲間が1人亡くなっている訳だが、

それすら冷静に受け止め、おまけに遺体は放置といった様だ。




装甲車の重そうなドアが開き、内部に向かい合わせの座席が現れた。

運転席、助手席の他に4人ほどが乗れると思われる間取り。

その席には既に、1人のマッシュヘアーの青年が座っていた。


その青年に向かって、不死鳥の男は何やら声をかける。


「さっきの連絡通りだ。

 瀬尾せおは”ブルート”との戦いで戦死。

 バックルは回収・消毒済みで、遺体は放置。

 萩間はぎまの連行に成功。

 ミッションコンプリートで帰還だ。」

青年は黙って頷くと、俺に装甲車に乗る様に手招きをした。

・・・やけに気怠そうな様子に見えるが。




・・・その後、20分ほど車内で揺られ、

気付けばとある施設へと到着していた。

思いの外、乗り心地が良く、

俺はいつの間にか眠りの世界へと引き込まれていたが。




装甲車は地下駐車場のような場所で停車した。

目の前に座っていたマッシュ青年に続いて俺も装甲車を降りる。

外に出て、こっていた両肩を軽くほぐしていると、

運転席から不死鳥のアーマーを装着していた男性が降りてきた。

・・・見たところ歳は30代後半ほどだろうか。

長い髪を額の中心で分けて、顔のサイドに下ろしている。

スラッとした細身の体型と赤いふちのメガネがどこか、

賢そうなイメージを醸し出す。

茶色のジャケットに黒いスラックスをはいており、

どこかの教授のように見える。




「念のため、自己紹介をしておこう。

 私は西園寺さいおんじ 藍木あいきだ。

 この第11小隊の隊長を務めている。」

教授姿の男性はそう名乗り、俺の顔を見据えた。

相変わらず、酷く淡々とした口調。


・・・隊長だと?

一体、何の設定だ?


とりあえずはこの世界について一から知る必要がある。


そう考えている俺の隣で、例のマッシュ青年が口を開いた。




「俺は神楽かぐら 彩月さつき。」

そう言い、神楽かぐらと名乗った青年はため息を吐いた。

・・・初対面でここまで気分を害する人間は久しぶりだな。

俺はこんなヤツらと同じ隊に所属しているのか?




「こっちだ。」

西園寺さいおんじは両手をポケットに突っ込み、

駐車場から施設の内部へと続く扉へと歩き始めた。

神楽かぐらに続き、俺もその扉を潜る。


そこから3分ほど進んでいくと、

ロビーのような広々とした場所が現れた。

まるで、屋内に作られた広場のようなサイズだ。


受け付けのような口が全部で10個ほどあり、

広めの銀行窓口を連想させる。


すると、俺たち3人の到着に気付いた一人の女性が

こちらに気付き、まっすぐに歩いてきた。




「第11小隊の皆さんですね。お疲れ様です。

 萩間はぎま たくさんに呼び出しが掛かっています。」

女性はそう言うと、

俺に施設内の案内が表示された小型タブレットを手渡し、

手で行き先を示した。


「では、ここで解散とする。」

西園寺さいおんじはそう言うと、

俺の行き先とは違う方向にスタスタと歩いて消えていってしまった。


神楽かぐらもそれにつられ、角に消えた。




・・・俺はタブレットの案内を見ながら、

エレベーターへと搭乗し、施設の5階へと到着。


ここはアーマーを纏う戦闘員達の出撃準備諸々を行う基地のような施設で、

名称は”武装管理棟”というようだ。

案内では地下4階まで用意されており、

地下3、4階はアーマーや武装車両のメンテナンスルームがあるようだ。




施設内はインターネットも繋がっており、

与えられたタブレットは普通のスマホとして使えるようだが、

色々と調べるのは後回しにした方が良さそうだ。


・・・俺が未来の世界から来たと知られるのは

得策とは言えない気がする。

可能なら、隠し通すつもりでいる。


そのためにも、今は記憶喪失を偽って

潜入のつもりで付き合ってやろう。




長い廊下を歩き、

フロアの端にあたる一室へと辿り着き、ドアをノックする。

と、中から男性の声が聞こえ、

自動でドアが中心で割れて左右へと開いた。




「・・・よくいらっしゃいました。

 萩間はぎま たくさん。」

部屋の間取りは10畳ほど。

中にはソファと、それに対面するように1人掛けの椅子が置かれ、

四角いテーブルも備えられている。

窓際にはデスクがあり、男性は1人でそこに座っていた。

部屋の広さの割には家具が少ない部屋だ。


肝心の男性は、ナチュラルショートヘアのメガネをかけた容姿で、

黒いロングカーディガンを羽織っている。

下は黒いジョガーパンツらしきゆったりとしたものだ。

細身で、全体的に西園寺さいおんじと似たような印象を受けるが、

こちらは口調が丁寧で、喋り方もどこか接待を受けているような感覚に陥るようだ。




「・・・アンタは?」

俺は呼び出された部屋を指定されただけで、

この人物の情報は何も知らない。


「私は上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうきと申します。

 まぁ、そちらに座ってください。」

そう言い、上戸鎖かみとくさりと名乗る男は腰を折ると、

ソファに案内してくれた。


萩間はぎまさんについて、ある程度は聞いていますが、

 どうしても不可解な事があるので、直接お聞かせ願えればと思い、

 このような形で呼び出しさせていただきました。」

男は対面にある椅子へと腰かけ、

まっすぐに俺の顔を見ている。


「・・・。」

この上戸鎖かみとくさりという男は

俺にある程度の不信感を持っているという訳だ。


「アンタの取り調べは個人的な興味によるものか、

 それとも、上からの命令なのか、

 教えてもらいたい。」

「なるほど。全て忘れてしまった訳ですか。」

俺の問いを、男は無視した。


「私はこの”東京パーマネント・ガーディアンス”の作戦指揮を担当しています。

 私の上ともなると、

 司令官の明電めいでん 峰隆ほうりゅうさんくらいしかおりません。」

・・・この男、それほどの立場の人間だったのか?

これはますます厄介そうだ。


「まぁ、それはそうとして、

 これは私の個人的な興味と言うべきでしょうかね。

 期待の新人であった萩間はぎまさんが

 アーマー装着者となって5日後にいきなり失踪したともなると、

 そこに理由を求めるのは当然の事でしょう?」

「・・・記憶が無い。

 ここに至るまでの記憶が全て消えたんだ。

 覚えているのは自分の名前ぐらいだな。」

とにかく、この男に素性がバレる事は避けたい。

俺の直感がそう呼び掛けている。




「ほう・・・ブルートやアーマーについても、

 何も覚えていないのですか?」

覚えていないも何も、

そんなもんはこの世界だけの専門用語だ。


「あぁ・・・。」

「それは重症ですね。

 タブレットで色々と調べているうちに記憶が蘇るとは思いますが、

 そもそも、あなたはここに8日前に入居してきた時から

 いくつかの謎がある人物でありました。」

つまり、この世界の俺は

今から8日前に

この施設に入ってきたという事か。


記憶喪失と言うのは嘘だが、

この世界の記憶が何も頭に残っていないのは事実だった。




「分かりました。

 お忙しいところ、ありがとうございました。」

上戸鎖かみとくさりは立ち上がり、

再び腰を折った。

俺はそれを見届けるときびすを返し、

ゆったりとした足取りで部屋を出た。

・・・決して焦りを察される事のないように。




――――――――――――――――――――――――――――――




・・・萩間はぎま たくが部屋を出るのを確認し、

私はデスクへと戻った。


今の萩間はぎまの状況から推測される可能性を考察し、

デスクのPCに打ち込んでいく。


「・・・許されない・・・」

私は気付けば、そう呟いていた。




・・・私は約5年前、同志たちと協力し、

テロ組織バーバレス日本支部を壊滅に追いやった。

その後も、我々は犠牲を出しながらも順調に

世界各国のバーバレス本部を破壊し尽くした。

もちろん、その破滅は、

極秘裏に動いていたテロ組織が

我々のせいで世間に姿を現さざるを得なかったせいでもあった。




その後、私は個人で世界を統制するつもりであった。

私の恵まれた力を持っていれば、それは容易なはずだった。

私が求め続けた”支配”を完成させる時は、

確実に近付いていたはずであった。




・・・しかし、1年半前のあの日、

地球は全く異なる危機に陥った。




・・・私以外の存在に人々が驚異を感じる事は許されない。

そして、私が知らぬ事が地球上にあってはならない。

私の”支配”が崩落したあの日から、

全ての謎を解き明かすために私は尽力してきた。


しかし、世界は私が思うよりも遥かに広大だった。


あの萩間はぎまという男にも、

私が知るべき秘密が隠されている。

それは確かな事であろう。




・・・どこまでも求めよう。

全ては私の”支配”のため。








―――――――――――――――――――――――――――――












・・・上戸鎖かみとくさりとの面会後、

俺は一旦施設を出て、指定されている居住施設へと向かった。

どうやら、俺の家は居住施設の中に

アパートのように用意されているらしい。


先ほどの施設から徒歩で10分程度。

外装は30階建てのマンションのような居住施設が現れた。

その20階に俺の家があるらしい。




・・・部屋の前まで来て、ふと俺は気付いた。


家のカギなんて持っていない。


ポケットを再度確認するが、全てのポケットが空っぽだ。

ダメもとで家のチャイムを鳴らしてみる。


・・・ここに俺の両親が住んでいるとは書いてないから、

誰もいないだろう。

そう思った瞬間、あろう事か家のドアが開いた。



・・・一瞬、心臓が止まりそうになる。

何と言っても、俺を笑顔で迎えたのは

元の世界で俺が、唯一自分の女性として認めた人間。


郡川こおりかわ 晴乃はるのだったのだから。




たく、おかえり!心配してたんだよ・・・!」

両目に涙を浮かべながら、

それでも精一杯笑顔を見せる彼女を、

俺は確実に覚えていた。


・・・人違いでも、そっくりさんでもない。


間違いなく、本物の郡川こおりかわ 晴乃はるのだった。







#第6話 「消えた記憶と消せない記憶」 完結


今回出てきた、上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうき

前作ブレイキング・ローズと同一人物です。

前作ではフォーサーの新たな強化形態、

”フォーサーゼイアー態”を実現させた努力家です。


前作から約5年が経過していますが、

性格はほとんど変わっていません。


作戦指揮官、東京のNo.2として務めています。

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