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ジャッキング・フォース  作者: まるマル太
第1章 超万能"何でも屋"
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#第2話 超次元パンデミック

#第2話 「超次元パンデミック」




・・・郡川こおりかわ 晴乃はるのを負ぶった俺は、

新宿駅へと辿り着いた。


とは言っても、普通に山手線で数駅動いただけだが。


ここに来るまでに、

あの郡川こおりかわが入院していた病院で見たような

ゾンビらしき人間には遭遇していない。


夢かと疑いつつも、

俺は出口がいくつもある新宿駅の周辺を

郡川こおりかわを背にしたまま歩き回る。

通行人の視線は痛いものがあるが、

人目を気にしているようでは

俺の様な「何でも屋」は務まらない。




・・・でも、さすがに身体の疲労は感じるまでに至ってきた。

腕時計は19時をまわっている。


仕事の都合上、体力には自信があるが

人間一人を背負ったままこれだけの距離を移動すると

身体に痛みが出てくるのは仕方がない事だろう。


・・・早めに依頼人を見つけないと。


信号待ちをしていた俺は、

思わず近くの街路樹の花壇の仕切りに郡川こおりかわを座らせ、

自分もその隣に腰かけた。


脳裏にはふと、

デートの帰りに帰宅するのが寂しくて、

こうやって道端のベンチなどに座って

2人が話していた思い出が蘇る。


隣の郡川こおりかわを見ると、

目を瞑り、息を切らせながら黙って汗を流している。


・・・何とも無力で、俺にとっては儚い存在。

見るだけで無償に”憎い”。




そんな思考に走る俺を現実に引き戻したのは、

俺自身が感じ取った「謎の殺気」だった。


俺は慌てて立ち上がると

郡川こおりかわの腕を引き、

そのまま彼女の身体を受け止める様に抱きながら

背後へと倒れ込んだ。




・・・後頭部に痛みを感じた次の瞬間、

俺と郡川こおりかわが先ほどまで腰掛けていた街路樹目掛けて

一台の軽自動車が突っ込んだのだ。


俺はその衝撃で倒れてくる大型の街路樹を見据えると、

すぐさま郡川こおりかわを抱いた状態で

ゴロゴロと横方向に激しく転がり、

下敷きになる事を避けた。


そのまま郡川こおりかわと共に起き上がり、

再度彼女を背にして駅の内部へと逃げ込む。


・・・事故現場の周囲には

その付近にいた帰宅中の社会人や学生が群がり、

スマホで写真を撮っている人間もいる。




俺は瞬時に周囲の状況に危機感を覚えた。

ただの事故である可能性も否定しきれないが、

俺にはどうもそうは思えなかったのだ。


そう考えた直後、多数人の悲鳴が耳に入る。


駅構内を見渡すと、

確認できただけで4人ほどが床に倒れ、

言語とは思えない呻き声を上げていた。




・・・あの病院と同じ状況・・・。




「危ないッ!!」

俺のすぐ背後から、数人の叫びが聞こえ、

危険を感じて振り返ると、

すぐ前方3mほどに鋭利な切っ先が迫っていた。


「クッ・・・何なんだ!」

郡川を背負った状態のまま、

俺はその場で右脚を突き上げ、

回し蹴りを繰り出す。


それは正確に、

ナイフを突き出してきた人間の腕に命中し、

物騒な刃物はその腕からこぼれ落ちた。


俺はそのまま身体を回転させながら

姿勢を低くし、

滑らせるように郡川を駅の床へと放った。

この動作には1.5秒ほどしか要していない。


再び姿勢を高くしながら正面に向き返ると、

すぐに空いた両手の拳を握り締め、

目の前に迫った犯人の顔を右フックで強打。

すかさず左アッパーで追撃。


さらに両肩をがっしりと掴み、

犯人の腹に膝蹴りを5回ほど見舞ってやった。


「がああああ・・・苦しい・・・!!

 苦しい!!がアアアアアアアアアア!!!」

俺のサンドバッグとなった犯人は

その場に背中から倒れ込み、

呻き声を上げながら喉元をむしるようにかき始めた。




・・・結局”ゾンビ”たちと同じ症状か。

生物兵器か何かの影響だろうか?




俺は急いで郡川こおりかわを負ぶるが、

周囲は混乱で民衆が走り回っており、

どこに逃げれば良いかの判断ができない。


こんな状況で電車は期待できないか・・・。




「くそっ・・・」

仕方なく、人の群れに体当たりしながら

先ほど車が突っ込んだ駅の出口まで走り、

周囲を見渡してみる。

が、状況は思ったよりも悪かった。


道路には不規則な角度で車が散乱しており、

玉突き事故らしきものが発生した跡がある。

更に、もはや歩道も車道も関係なく人が溢れている。

叫びながら襲い掛かる人々、

血まみれで倒れてもがき苦しむ人々、

それを無意識に踏み付けて逃げ惑う人々。

俺の想像する混乱状態を確実に超越している。




・・・と、俺は瞬時に脇方向からの殺気を感じ取る。


見ると、鉄パイプらしきものを握り、

息を切らしながら

こちらに向かって走ってくる女ゾンビが目に入った。

怒りを通り越して激しい感情を露わにしたような表情をしており、

恐怖すら感じる。


そのゾンビは

上下をスーツに包んだ、就活生らしき女性だが、

そんな敵の事情は考慮していられない。


俺は咄嗟に背中の郡川をコンクリートに寝かせ、

その隙に接近してきた女ゾンビが振り下ろしたパイプを

両手で握り受け止める。

・・・女性の力とは思えない怪力だ。


一瞬、戸惑いが走ったが、

この程度なら押し切れると確信する。

俺は知力もそうだが、

腕力すらも人に負けたと思った事が一度もない。


すぐさまその女ゾンビの手から鉄パイプを奪い取り、

バットを振る要領で敵の頭部を思いきり殴った。


ゾンビは頭から血を噴き上げながら倒れたが、

3秒ほどでやおら立ち上がり、

今度は叫びながら両手で掴みかかるようにして迫り来る。


俺は槍を突き出すような動きで、

パイプをゾンビの顔面に向けて突き付けた。


ゾンビへとめり込んだパイプを確認して

俺はすぐにパイプから手を放す。

と、俺が握っていた側の先端から

女ゾンビの血が吹き上がる。

それと同時に、女ゾンビは背後へとまっすぐに倒れ、

身体を痙攣し始めた。




・・・急いで周囲の状況を確認する。

俺の周り5mほどに謎の空間が出来上がっていたが、

そんな事はどうでもいい。


今は早く郡川こおりかわの言う依頼人を

探さなくてはならないのだが、

この暗い、混乱の中ではますます

それが困難になる。




そして、もはやそういった思考を広げる暇もない。


再び、俺の元には

同時に2体のゾンビが接近してきている。


間が狭い方のゾンビの頭部に向け、

空中の回し蹴りを見舞う。

そして地に降り立つと同時に

もう一体のゾンビに足をかけ、転ばせる。


倒れた2体のゾンビはすぐ起き上がったが、

俺はその隙にヤツらの背後に回り、

うなじ部分に強烈な手刀を見舞った。


さすがにこれは効いたのか、ヤツらは2人同時に気絶し、

顔面からアスファルトへと崩れ落ちた。


案外、ゾンビたちには

普通の格闘技も有効なのだと安心した

ちょうどその時だった。


不意に眩しいライトに照らされ、

目がくらんだ。

思わず右腕で顔面を押さえる。

次の瞬間、目を見開いた俺の視界には、

すぐ目前に迫るトラックが飛び込んだ。


「くっ!!」

瞬時に両脚に力を入れ、

身体の左側へと向かって飛び跳ねた。


そのままアスファルトの地面へと叩き付けられる。

受け身で衝撃は抑えられたが、

俺の興味はそんな事には向けられていなかった。


2秒と経たないうちに、

物凄い音を立てて、

暴走トラックは新宿駅へと突っ込んだ。


俺はすぐさま立ち上がって叫んでいた。


郡川こおりかわッッ!!」

追突したトラックから継続的に鳴っているクラクションの中で、

一瞬の希望も虚しく絶望へと変わった。




・・・俺の視界には、血まみれで、

無残に臓器も飛び出た郡川こおりかわが入ってきたのだ。


彼女の血はトラックのタイヤ跡を示すように広がり、

郡川こおりかわの亡骸を照らすトラックのテールランプによって

周囲は更に赤く彩られている。




何だろう・・・?

周囲の危険を察知しようと頭は危機感を感じているが、

視線は彼女の遺体から動かせない。

そして、頭の芯のあたりが

急に熱くなり出して、冷や汗が噴き出す。


・・・俺が今、少なからず辛いと感じているのは確かだった。


こんな道具でしかないはずの女を失った事が、

そこまで気掛かりなのか?

そこまで、悔しいとさえ思わせしめるのか?


・・・理解不能だ。




「グアアアアアア!!」

耳に凄まじい叫び声が入ってきたと思った次の瞬間、

右肩に激しい痛みを覚えた。


ハッとなって、

本能的に敵を蹴り上げるが、

手遅れとも言うべき状況であった。


俺の右肩には小型のバタフライナイフが突き刺さっていたのだ。


引き抜こうにも、こればかりは実践経験がない。


しかも、不運な事に神経をやられたらしく、

右腕が俺の意思通りに動かせなくなっている。


「やってくれるな・・・。」




ナイフを突き出したゾンビは

すぐさま回し蹴りで失神させたが、

俺の周囲には3体ほどの

新たなゾンビが集まってきているのが分かった。

しかも、ヤツらの中の1人は、

長い刃渡りを持つ大工用ノコギリを握っている。


事故車両から盗み出したのだろうか・・・?


この右手が使えない状況で、

凶器を持った敵を相手にするのは正直厳しい。


・・・隙を見て逃げ出そうと試みるが、

背後は人の行き来で混乱が激しく、

逃げ道なんて確保できない。




・・・諦めかけたその時。


俺は左肩を何者かに触れられた。

本能的にその謎の手を払って反撃に出ようと試みたが、

横目で正体を確認した俺は、思わずその場で固まってしまった。


俺の背後には、

真っ白な僧侶服そうりょふくのようなものに身を包み、

頭部にも目が隠れるほどにまで布が被さっている

見ず知らずの人間が立っていた。


僅かに覗く口元には

口のようなパーツがなく、

ただ黒い皮膚らしきものがあるだけである。




「何でも屋の萩間はぎま たくだな?。」

その僧侶もどきはくぐもった低い声でそう言うと、

俺の方に顔を向ける。


「・・・そうだ。」

俺はここでふと気付いた。


この僧侶もどきこそが、

郡川こおりかわの言っていた依頼人なのではないかと。




・・・俺はふと前方を確認すると、

ゾンビたちはお構いなしにこちらに迫ってきている。

それを確認した僧侶もどきは俺の前に立ち塞がると、

ゾンビを迎え撃つ体勢に入った。


あろう事か、僧侶は先行で右フックを命中させると、

先頭のゾンビは、その衝撃で後方まで吹き飛ぶように後退し、

背中をアスファルトに擦り付けながら滑走した。


一撃のパンチで10mは引きずるほどの力なんて、

この世の中にそうあるものじゃない・・・。




残りの2体も難なく弾き飛ばし、

すぐに3体のゾンビを戦闘不能に陥らせた僧侶は、

俺の方へと向き返り、静かに言葉を吐き出した。


「お前にこの混乱の正体を教える代わりに、

 私の依頼を受けてもらうぞ?良いな?」

脅すような口調ではない。

むしろ静かで落ち着くような口調であろうが、

圧倒的な力を見せ付けてからの

この条件提起はずる賢い。







#第2話 「超次元パンデミック」 完結



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