銀細工のような貝殻、波の形をしてるはず
夜の風寄せる窓を開けて、白く冷たいシーツに倒れれば。
夜の波の寄せる、白く冷たい砂浜のように、遠い遠い深海へと運んでくれるだろうか。
長い長い時間をかけて、下へ下へと眠りにつこう。
そこはきっと熱も氷も、赤も青もないだろう。
そこは、ただ全てが硬く閉じた瞼の中のように、冷やりと暗い、永遠の夜。
人の目に触れたことのない神秘の場所。
私は蛤になって、そこでこぼした真珠を抱きしめていよう。
ハープのような音がする。
柔らかく水を含んだ水底に寝転んで、頭上を掠れ揺らめく月明かりを見つめる。
そうしていればいつかきっと瞳は虹色へ変わり、どんな夢も見れるようになるんだ。
吐く息は清く澄み渡り、シャボン玉のように上へ飛ぶだろう。纏うぼろも真っ白に。
汚れは波に流され、醜さも美しさも全て海に溶けていく。
髪は藍色に変わり、古びた振り子時計のように肩を撫でる。
肌は真珠に変わり、暗闇に淡く浮かぶだろう。
やがて美しい人魚になるだろう。
やがて抱きしめた真珠玉は星のような鈴の音を奏でるようになり、それを貝殻の髪飾りの中に入れよう。
花のように耳の上に指して、広い海を歩き回ろう。
裸足の足は水を自由気ままに浮かび上がり、空を飛ぶように海を泳ぐ。
全てが頭を撫でる手のように優しく通り過ぎて行き、息を止める必要もない。
虹色の瞳は何もない海の底に、精巧な城を築くだろう。
魚たちだけが入ることのできる神殿のような城を。
もうすこし波が流れれば、空から伝う月光が、城の灯らないシャンデリアに届くはずだ。
すると薄暗い夜の海が、銀の光に輝くだろう。
自分が夢見た城が光に浮かび上がった時は、鱗のついた小さな手を精一杯叩こう。
ピアノのような音がする。
銀の光は虹色の瞳に、夢のような城を見せるだろう。
光を目指して、波に乗ろう。
壁は滑らかな白真珠、窓は清らかなクリスタル。
白く冷たい壁に頬ずりしよう。
透明な窓に手をかければ夜の風が流れて。
気づけばまた、一人白いシーツに頬ずりしているんだ。