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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なんでもない日常

作者: 紀國鵜月

  きっと僕と君の間には何もないんだ。性別の隔たりがあってもなくても僕らはきっと今の関係から変われない…


  そう悟った途端、どうしようもない気持ちが胸で膨れた。




「もっちゃん…僕らはずっと友達でしかいられないの?」




  1ヶ月前、もっちゃんの様子が少しおかしかった。


  いつもよりそわついていていたから、何かあるのかと思ったけどもっちゃんはその日何も言ってくれなかった。




  空は磯貝の心のように徐々曇っていた。


  今朝見た天気予報は午後から雨で予報通り、のちに雨がパラパラと降り始めた。




「磯貝〜そこにある俺の荷物取って」


 そこというのは磯貝の横に置かれた小さな鞄で、畳にくっ付いた身体の半分を起こして鞄を手渡した。


 声をかけたのは伊藤基弘、伊藤は磯貝の学生時代からの友人で


 とても仲が良く、磯貝は彼をもっちゃんと呼び、基本いつも一緒に居る事は多かった。




「あと磯貝、今日お前先に帰っていいよ」




 え…?




 一瞬間が空いてから磯貝は答えた。




「わかったよ…」




 いつになく真剣な伊藤の表情に磯貝は訳を聞けなかった。




 磯貝はイヤホンから流れる音楽を聞きながらバスの窓を眺めていると暗がりの中で伊藤が歩いているのを見つけた、日は既に沈み構内の並木道に街灯が灯っていくうちに伊藤は光の届かぬ何処かへ消えて行った。




 バスが出る合図、シュ——っと空気が吹き出す音が出発を知らせる瞬間磯貝はバスを降りた、運転手の怒号は今は聞こえない、ただ暗闇に消えた伊藤の後を追った。




「今日のもっちゃんはおかしい…何か隠してる、俺に言えないこと?」




  「確か、こっちの方に…」


 図書館裏の駐車場辺りを見渡しながら歩いていると二つの影がそこにあった。




 遠くて聞こえない、何を話してるんだろう…






「どうして私よりも磯貝君なの?磯貝君男じゃない!?」


「磯貝の方が可愛いから…」




 やっと聞こえた一言は衝撃的な言葉だった。




「そんな…伊藤くんに好きになって貰いたくて頑張って綺麗になったのに…ミスコンも優勝したのに、なのにい、磯貝君なの?男を選ぶの…?」




「外面をいくら飾ったって磯貝の素の可愛さには敵わねえよ、それに一人にしとくとあいつは危なっかしいからな、俺が見てやらねえと…けど、あんた、綺麗になったよ、俺より他の男探しな、あんたならいい奴見つけられるよ、俺が保証する」




 少女は激しく泣いて走り去っていった。




「…な、何?僕が何処で何をしてたって勝手で——ッ!」




 バンッ!




  「磯貝、帰れって言ったよな、覗き? そんなに俺が信用できないんだ?」




「で、できる訳ないじゃん!一人で帰るなんて!そ、それに……」




「『それに』何だよ?」




 涙目の磯貝は肩を震わせ必死に声を絞り出す。




「心配だったの!不安だったの!だから覗いたの!ダメなの?好きなの!もっちゃんが好きなの!ずっと誰のものにもなって欲しくない!だから…」


 そう言いかけた時、伊藤は強引に唇を奪い磯貝に言い放った。




「バカ、俺は誰の物でも無いだろ」




「もっちゃん……」


  きっと僕と君の間には何もないんだ。性別の隔たりがあってもなくても僕らはきっと今の関係から変われない…


  そう悟った途端、どうしようもない気持ちが胸で膨れた。




「もっちゃん…僕らはずっと友達でしかいられないの?」




  1ヶ月前、もっちゃんの様子が少しおかしかった。


  いつもよりそわついていていたから、何かあるのかと思ったけどもっちゃんはその日何も言ってくれなかった。




  空は磯貝の心のように徐々曇っていた。


  今朝見た天気予報は午後から雨で予報通り、のちに雨がパラパラと降り始めた。




「磯貝〜そこにある俺の荷物取って」


 そこというのは磯貝の横に置かれた小さな鞄で、畳にくっ付いた身体の半分を起こして鞄を手渡した。


 声をかけたのは伊藤基弘、伊藤は磯貝の学生時代からの友人で


 とても仲が良く、磯貝は彼をもっちゃんと呼び、基本いつも一緒に居る事は多かった。




「あと磯貝、今日お前先に帰っていいよ」




 え…?




 一瞬間が空いてから磯貝は答えた。




「わかったよ…」




 いつになく真剣な伊藤の表情に磯貝は訳を聞けなかった。




 磯貝はイヤホンから流れる音楽を聞きながらバスの窓を眺めていると暗がりの中で伊藤が歩いているのを見つけた、日は既に沈み構内の並木道に街灯が灯っていくうちに伊藤は光の届かぬ何処かへ消えて行った。




 バスが出る合図、シュ——っと空気が吹き出す音が出発を知らせる瞬間磯貝はバスを降りた、運転手の怒号は今は聞こえない、ただ暗闇に消えた伊藤の後を追った。




「今日のもっちゃんはおかしい…何か隠してる、俺に言えないこと?」




  「確か、こっちの方に…」


 図書館裏の駐車場辺りを見渡しながら歩いていると二つの影がそこにあった。




 遠くて聞こえない、何を話してるんだろう…






「どうして私よりも磯貝君なの?磯貝君男じゃない!?」


「磯貝の方が可愛いから…」




 やっと聞こえた一言は衝撃的な言葉だった。




「そんな…伊藤くんに好きになって貰いたくて頑張って綺麗になったのに…ミスコンも優勝したのに、なのにい、磯貝君なの?男を選ぶの…?」




「外面をいくら飾ったって磯貝の素の可愛さには敵わねえよ、それに一人にしとくとあいつは危なっかしいからな、俺が見てやらねえと…けど、あんた、綺麗になったよ、俺より他の男探しな、あんたならいい奴見つけられるよ、俺が保証する」




 少女は激しく泣いて走り去っていった。




 少女は磯貝に気づいた途端睨みつけてから涙を拭うように走り去った。


 同時に伊藤が向かって歩いてきた。




「…な、何?僕が何処で何をしてたって勝手で——ッ!」


  バンッ!


 


 伊藤は磯貝の顔すれすれに手を伸ばし強く壁に手をついた。




  「磯貝、帰れって言ったよな、覗き? そんなに俺が信用できないんだ?」




「で、できる訳ないじゃん!一人で帰るなんて!そ、それに……」




「『それに』何だよ?」




 涙目の磯貝は肩を震わせ必死に声を絞り出す。




「心配だったの!不安だったの!だから覗いたの!ダメなの?好きなの!もっちゃんが好きなの!ずっと誰のものにもなって欲しくない!だから…」


 そう言いかけた時、伊藤は強引に唇を奪い磯貝に言い放った。




「バカ、俺は誰の物でも無いだろ」




「もっちゃん……」




「そろそろ帰ろうぜ、お前を暗い夜道の中返すなんて危なっかしくてしかたねぇから家まで送ってやるよ」




 伊藤は磯貝の頭をそっと撫で、潤んだ瞳から溢れた雫をそっと人差し指の裏で拭き取り、最終バスに乗り込む。




 バスは二人の貸切状態で、絆を確かめ合うように強く固く手を握り合った。



「そろそろ帰ろうぜ、お前を暗い夜道の中返すなんて危なっかしくてしかたねぇから家まで送ってやるよ」


 .

  磯貝の重量をマットレスが優しく包むように沈み込む、普段と違う環境のせいか胸鼓動が誰か聞こえてしまいそうになるほど激しく荒れる。




  それよりも、胸を弾く鼓動より磯貝が気になるのはサーサー……とシャワーの音が気になった。


  終始無言の磯貝が自分の唾を2、3度呑み込むと同時に、シャワーは鳴り止んだ。




 すると磯貝の身体は至る所が硬直、硬化し鋭く、柔らかく、高らかに背筋と共に……




「自分の部屋なのに何でそんなに窮屈そうなんだ?」




 細く、スラッとした体型に似合わぬ微かに割れた腹筋、腕に張る筋肉に圧感するとすぐ目に着いたのは、その布一枚に隠された華である、太く気高きその華は布の上からでも、触らずとも分かるそれから目を逸らす。




「自分は一体何をしてるんだ……」


 必死で意識の逃げ道を探して辺りを見渡す、伊藤の細く堅い肉体美、風呂上がりに潤った唇、まだ水滴が残る短髪が目について余計落ち着かなくなる。




 同性愛が間違っているのは重々理解していた、しかし磯貝は伊藤から貰った言葉、伊藤の強引さが堪らなくより欲して止まない、依存欲が止め処なく溢れる。




 今すぐその潤った桃色の唇を……


 伊藤の全てを……


 欲望のままに解放し、許されるのならば永遠の時間を……




 なんちって……


 心と身体とは裏腹に理性が正気を保って磯貝は風呂場へと移り伊藤と交代した。

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