レポート⑥ 帰郷
冬の天気は変わりやすいとはよく言ったものだ。
朝のラジオのニュースでは、雪とは言っていなかったハズが、今や一面銀世界だ。
わたしは、キッシュの車に乗り実家への家路に向かって白銀の世界を走っている。
ヘルセント・クラブの紹介の人物がどうやら実家の近くに住んでいることを知ったわたしは、会いに行くついでに実家に顔を出すかなと考えた。
キッシュにそのことを伝えると『別に構わん、おれは暇だからな』と彼は笑い飛ばしながら言った。
わたしの生家があるのは連邦の最北端の州である、南ガスダント州トゥトゥドラン郡パテヤン市にある。
そう、かつてカムイ・パテヤンが収めた土地であり、旧ガスダント帝国の帝都が置かれた地である。
旧ガスダント帝国が南北に分かれた内乱、『トゥトゥドランの乱』を機に旧ガスダント帝国である南軍と当時の大領主であり後の神聖ガスダント帝国の初代皇帝になる、ディラバル・アッサーラ率いる北軍に分かれた内乱。
この戦いで旧ガスダント帝国である南軍は敗北し、帝都は敵の手に落ちた。
その際に、南軍に属した貴族とその家族や臣下達、カー・ファン・イラスト皇帝を慕う民達が続々とパティールに亡命をした、その亡命を支援したのは当時、宮廷料理長兼外務卿補佐官の任に会ったカムイ・パテヤンであったとされている。
後にガスダント亡命軍とパティール王国軍の同盟軍を指揮したギガン将軍により帝都を奪還、その奪還作戦に尽力したカムイ・パテヤンに恩賞としてパテヤンの地を与えられたと言われている。
現在パテヤン市は、パティール連邦共和国において第二の都市と言われるほど発展を遂げている。
町の中は高層ビルが立ち並び、セールスマン達が雪の中でも慌ただしく行きかっている。
久しぶりに帰って来た故郷の風は肌寒かった、まあ、当然と言えば当然か、今は雪が降っているのだから。
「すごい雪だな、パテヤンって結構な雪が降るのか」
「いや、雪が降ること自体珍しいよ、ここは年間を通して気温が一定だからな」
「そうか、しっかし寒いな、ヒメ、カモーン」
キッシュが後部座席で寝ている彼の愛犬はピクリとした後、ゆっくりとのそのそと静かに歩きわたしの脇を抜け、キッシュの足の上に横たわる。
「天然の湯たんぽだ」
モフモフの毛なら温かそうだが、彼の、いや、彼女のモサモサした毛は逆に暑苦しいのではないかと思ってしまう。
「本当に寒いな、どこかで温まれる場所ねぇか」
「なら、あそこのドライブスルーに入ろう、あそこで美味いものがある」
そう言ってわたしは近くのドライブスルーに入る。
注文器から、元気のよい女の声がわたしの鼓膜を揺さぶる。
『ご注文をお願いします!』
「そうだな、ハンバーガー二つに温かいナーントゥスープを頼む」
『かしこまりました! 少々お待ちください』
「何だ、ナーントゥンって?」
「この地域で食べられている、郷土料理だよ、ルウム連合皇国の和国にも同じような食べ物があるそうだけど、ここでは潰して汁物にするんだ」
わたしが受け取った、物を見てキッシュは顔を歪め鼻を摘まんだ。
「何だそれは、糸引いているゾ!」
「これは、大豆を発酵させた食べ物だ、和国では『納豆』と呼ばれている」
そう、我が先祖であるカムイ・パテヤンが伝えたとされている、この加工食品『ナーントゥン』和国名『納豆』は、和国と南ガスダント州以外では、食べられない、いや、嫌われている加工品だ。
美味しいのに、納豆だけになんっと勿体ない。