番外編:風呂場で皇帝と騎士
番外編:風呂場で皇帝と騎士
酒場から帰ったカムイは、洗面用具を持って風呂場に向かう。
カムイが向かうのは従者達が使っている簡易風呂だ、二、三人も入れば満員になる程、狭い風呂場である。
領主であるジルマ・パティールはその上の風呂場を使っているが、先の戦いでカムイが吹き飛ばした厨房と共にダメージを受けて今現在使用不能だ。
この館内にはカムイを含めて従者は全部で八人、そのうち六人が女だ。
その為、風呂場を使用する際には、必ず『男性使用中』の札を掲げる決まりとなっている。
運良くドアノブには札が掛けられていなかった、札箱から札を取り出しドアノブに掛け部屋に入る。
これで、間違って女性が入って来ることは無いハズだ。
カムイが意気揚々に服を脱ぎ始めるが、カムイは気付いていなかった、ドアノブに掛かっている札が落ちたことに、そして運悪く一人の従者がそれを拾い、札を箱に戻したことを、そして、その後に風呂場のドアの前に立った二人のことも。
風呂場はカムイの独壇場だった、これを一人で使用できるのは嬉しいモノだ、体がデカいカムイは広々とした湯船に浸かり、足を延ばす。
「極楽、極楽」
ふと、脱衣所の方で人の気配がする、誰かが入って来たのだろうか、この時間帯に誰か居たっけ、と考えながら体を洗おうと湯船から出ると、脱衣場のドアが開き、顔をほんのり赤くした裸体姿のエファンとバッタリと会う。
数秒間の沈黙の後エファンから出た言葉は「何だ、カムイも入っていたのか?」終始笑顔で肩を叩かれた。
「こ、皇帝陛下、えッ、どうして、えっ、はあ????」
カムイの頭の中は混乱する、目の前には年頃の女の子、スラリとした腰のラインにボリュームのある胸、何よりもタオルは巻いていなかった。
無論、下の方もくっきりと見えていた。
生まれた状態の、美しい裸体を堂々と見せていた。
「な、何をしているんですか! おれ、札立てたハズですよ!」
「札? 何だそれは、そんなものは無かったぞ!」
「はあ? いや、今はそんな事よりも、タオルで隠してください!」
カムイの股間が思わず反応してしまったので、股間に隠すように若干前かがみになりながら、タオルを渡そうとするが。
「なに、わたしの体を見たくないと、自慢ではないがわたしの体は見せられない程、醜くはないぞ!」
そう言って腰に手を当て堂々と胸を張る。
隠そうともしない。
弾けんばかりの胸が上下に揺れる。
「そうじゃなくて、おれ一応男ですから、とにかく、おれ今すぐ出ますから、そこを」
再びドアが開く音するすると、タオルを巻いたアクアが入って来た。
「陛下、お背中をお流し――」
再び数秒間の沈黙。
そして、今度は悲鳴をあげようとするアクアの口をカムイは咄嗟に手で塞ぐ。
「ちょっと待ってください、今、叫ばれた、おれが犯罪者になるじゃないですが!」
口を押さえられたアクアは視線を下の方に向けて主っきり目を見開き顔を真っ赤にする。
「いいですか、叫ばないでください、いいですね」
ゆっくりと静かに手が口元から離れようとすると、再び悲鳴を挙げようとしたので今度は壁ドンの状態になり、異様に体が密着する形になり再び手で口を塞ぐ。
引き締まった体でありながらも、女性特有の弾力感がタオル越しであるが伝わって来る。
「だから叫ばないでください!」
「そうだぞ、アクア、わたしみたいに自分の体に誇りを持て!」
そう言っていつの間にか横に回ったエファンはアクアのタオルを無理やり取る。
筋肉質で無駄のない、そう胸の肉もない体があらわに成る。
「ちょっ!」
カムイが言おうとして顔を背ける。
「皆、生まれた時は裸なのだ、こういう場では開放的に成るのが一番だぞ! 二人とも!」
そう言って裸体のまま高笑いするエファン、何を考えているんだ、ふと、先程よりも顔が赤くなり始めていることに気付く、この人は、もしかしてかなり酔っているのか。
風呂の湯気で血行が良くなり、深酔い状態にあるのかもしれない。
「とにかく、皇帝陛下もタオルを巻いて」
「確かにわたしの完璧な体に男が欲情しかねないのも解る!」
「なら早く!」
「だが、断る!」
ドヤ顔で胸を豊満な胸を上下に揺らしながら胸を張る。
「断るなッ!」
「なぜならわたしの体は恥じるところが一つもないからだ!」
見よと言わんばかりに両腕で胸を寄せる。
破壊力のある胸がさらに破壊力が増す、カムイは頭の中で心頭滅却の境地に居た。
理性が勝つが、煩悩が勝つか。
「アンタ絶対に酔っているだろう!」
「酔っている、何だそれは食べ物か、どんな料理だ!」
「アンタのことだよ!」
「なに、わたしを料理するだと……」
急に顔を真っ赤にして恥じらったように体をくねらせる、その動作一同が、異様に色気がある。
「は、初めてだから優しくしてね、い、痛いのは嫌だからね!」
だめだこの人、早く何とかしなくちゃあ、そんなテンプレの様な言葉が頭の中で浮かんだことにより、逆に冷静になれた。
呆れて物が言えない、ふと、アクアが異様に大人しいことに気付く、どうしたのだろうかと、振り向くと、アクアは鼻血を出して気絶していた。
「うわぁあああああ! アクアさん! しっかり!」
カムイが抱きかかえながら頬を叩くが反応がない、本当に気絶しているらしい。
どうしようかと、思っていると背中の方に柔らかい弾力のある感触。
エファンがカムイの背中に抱き着き、いやらし声で耳元で囁く。
「二人同時に相手何って、カムイって意外と野獣なのね」
「アンタは正気に戻れェええええ!」
この叫びは、夜の風呂場に響き渡った。
翌朝、エファンは風呂場での出来事をまったく覚えていなかった。
寝ぼけながら「わたしはいつ、部屋に戻った?」など平気で聞いて来る。
対してアクアは覚えていたらしく。
「昨日見た事、聞いた事は全て忘れろ、言いな、忘れろ! 特にわたしのことを重点的になァ!」
重点的なのはエファンの言動だろうと言いたかったが、それは口が裂けても言えなかった。
「ほ、本当に忘れろ、いいな、絶対に忘れろ!」
「はいはい、わかっていますよ、忘れます」
「ならよい」
「なあ、昨日、わたしは何か言っていなかったか?」
そう言ってエファンが割り込んで来る。
「いえ、何もありません、そうですねカムイ氏」
「ええ、何もありませんでした」
呆れた声で返事をする。
「そうか、そう言えば、カムイの裸を見た様な気がするが、ああ、確かお前とカムイが裸で抱き合っていたような――」
「「気のせいです!」」
二人は声を揃えて言いきった。




