アイドル部は生徒会
そして放課後がやってきた。
掃除当番を済ませた後、すぐに鞄を持って待ち合わせ場所に向かう優太。
「掃除当番のこと言うのすっかり忘れてた…怒ってないといいけど」とすでに
小早川の恐怖に脅える優太は、それでも待ち合わせ場所へと早歩きで向かっていく。
だが、その心配はなかった。
「佐野君、こんにちは」とにこにことした笑顔で待っている小早川の姿を
見たからだ。
優太はその様子を見て少しほっとしたが、それでも彼女には謝らなければ
ならないと思い…
「ごめんなさい。掃除当番があること伝え忘れてしまって…」
「いえ、大丈夫ですよ。私も掃除当番がありましたので今先程着いたばかり
ですから」
「そうですか。それなら良かったです」とここでやっと一安心する優太。
そんな彼の姿を見て、小早川は「では、行きましょうか」と優太の右手を
掴んでそのまま歩き出した。
優太は女の子に手を握られて、一瞬ドキッとしたがそれは一瞬にして消え
さった。
なぜなら…周りの視線が痛いほど伝わったからだ。
小早川に手を握られるというのは、彼女に好意を持つ男子なら羨ましいと
いうもの。そのため、優太に向けられるのは「嫉妬」の殺意だ。
優太は小早川の手を離してもらおうかと勇気を出して「あの、小早川さん」
と声をかける。
すると…「なんですか?佐野君」と可愛らしい声と大きな目で真っ直ぐに
見つめられてしまい。
「…いえ。なんでもないです。ごめんなさい」と五秒で断念した。
しかし、小早川も彼に対する周りの目に気づいてはいたが、これはこれで
面白いということであえて気づかないふりをしてアイドル部がある部室まで
ずっとこのままにしていようと思っていることを、優太は知らなかった。
「ところで、アイドル部の部活ってどこでやってるか知ってるんですか?」
「えぇ、もちろん。だから一緒に行こうと誘ったんですよ」
何を今更そんなこと聞いてるの?とばかりの彼女の回答に優太は、聞かない
方が良かったと後悔した。
向かった先は、南校舎。連絡橋を渡って、すぐの所の階段を上がって
左側の教室へと堂々と入って行く。
「失礼します」と小早川の声を聞いて四人の女子生徒が振り向く。
「あら、小早川さん。こんにちは」と最初に声をかけたのは椅子に座って
いない女子生徒。すぐに小早川の元へと駆け寄った。
「こんにちは。約束通り、部活動見学に来ました」
「…ところで、一緒にいるそちらの方は?」
優太の存在に気付いた女子生徒が小早川に聞く。
「はい。こちら、一年三組の佐野優太君です。今日の朝、私がお声掛けして
一緒に部活動見学に行きましょうと誘いましたの」
「あら、そうだったのね。よろしくね、佐野君」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
女子ばっかりで男子は一人もいないこの空間で、ずいぶんと気まずい思いを
している優太であった。
「さぁ、中に入って。ここがアイドル部…またの名を、桜ノ宮学園生徒会
の部室で~す」
「…えっ?生徒会!??」
驚くのも無理はない。
アイドル部は他の部活と変わりはない一般部活動かと思いきや、その正体は
桜ノ宮学園生徒会。つまり、アイドル部というのは彼女達がただただ名乗って
いるだけだったのだ。