俺がここにいるのは、ここに必要だと思われているからだ。
* 2 *
「珍しいね、霧が私を食事に誘うなんて」
「たまにはいいだろ?」
ある日の夜。深夜とアレックスはとある居酒屋チェーンの小さなテーブルに向かい合っていた。アレックスがビールを飲んでいるのに対し深夜はウーロン茶だ。
「飲まないのかい?」
「ああ、今日はいいんだ。ちょっと真面目な話をしたいんでな」
「真面目な話?」
「校長の話だ」
「…ハナコの?」
「この間も怪我をして俺のところに来たよ。お前の言ったことにイラついたって言ってた」
「確かに怒っていたね。すまないね、君にも迷惑をかけたようで」
「それは別にいいんだ。でもな…俺はあの人が傷付いてるのを見るのがつらくてしょうがねぇんだよ」
「…霧」
さすがのアレックスも深夜が何を言おうとしているか分かったようだ。いつもの余裕に満ちた瞳が引き締まる。
「君は彼女の何を知っているんだい?」
「何かあるんだろうなってことは何となく分かってる」
「そんなことでいいのかい?半端な覚悟で彼女を受け入れることはできないよ?」
「分かったような口を利くな」
「私は理解しているよ」
「じゃあどうしてあの人はお前の言葉に怒るんだ?…お前もホントはあの人のことを分かっちゃいねぇんだよ」
「………」
「本当に言うときになったら本人に聞こうと思ってる。何があっても受け入れる覚悟はできてる」
「…ここはあえて「何故?」と聞こうか」
アレックスは花子に何かがあったと知っている。深夜はそう確信した。その上で彼は試しているのだ。深夜の覚悟を。
ならば、受けて立とうではないか。
「俺はあの人が…後藤花子が好きだからだ」
* * *
俺がここにいるのは、ここに必要だと思われているからだ。
だけど、それだけじゃない。
あなたに必要とされる人間になりたいんだ。