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私にとってそれは、胸の奥底に残った恐怖だった。


* 1 *


「さっきから騒がしいと思ったら…またいつもの癇癪か。今度は何があったんですか」

「うるせぇさっさと治療しろ」

「はいはい」


血の滲む手を差し出して後藤花子は言った。深夜霧はため息をつく。

つい先程まで小さく喧騒が聴こえてきていた。方角は校長室。何かを投げつける音やガラスの割れる音。かなり物騒な音ばかりだが、ここでは稀なことではなかった。


「ガラス殴ったら割れたんだよ」

「ガラスは素手で割れるもんじゃない。何ですか、またアレックス先生と喧嘩でもしたんですか」

「何でアルが出てくんだ」

「校長とまともに言い争えるのはアイツしかいないでしょう」

「………別に言い争ってたわけじゃねぇよ。アイツの言ってることにイラついただけだ」

「…まぁ別に怒るのは構わないんですけどね、その度に怪我するのはやめてくださいよ」


包帯を巻き終えた手を深夜の両手がそっと包む。花子の肩が一瞬びくりとした。


「俺だって、嫌なんだよ。傷ついてるお前を見るの。」


独り言のように、聞こえるか否かほどの小さな声だった。

花子が聞き返そうとする間もなく、深夜は手をそっと放した。


「とりあえず処置はしましたけど、念のため病院行ってくださいね。傷が悪化してモノが書けなくなったりしたら困るのは校長でしょう」

「…それは確かにそうだな!」

「お大事に」


花子が出ていった後の扉を、深夜はじっと見つめていた。


* * *


私にとってそれは、胸の奥底に残った恐怖だった。

いつからだろう。それを忘れる時間が増えたのは。


その手は、優しくて柔らかくて、温かかった。

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