世界が終わる日、終わった日 side story
ふと空を見上げた。あぁ、近い。素人の俺にも分かる。地球が壊れるのは、もう目前なんだと。
事の始まりは1ヶ月と少し前。いつもどこかぼんやりと優しげな、この国の象徴様。そんな彼がやけに切羽詰まった様子で、歳の割に無理した焦り様で、かつての太平洋戦争の無条件降伏を思わせる台詞を吐いた。いや、ちょっと違うか、規模が。今度無条件降伏した相手は、同じ地球上の国ではなく、宇宙だった。
銀河系が崩壊し始めた。実はそこそこ前から分かってた。だからお偉いさん方はもう地球じゃない惑星に避難済み。パンピーの皆様は、地球と一緒に、サヨウナラ。
「てかさ、よくよく考えたらあの逃げ出した奴らバカだよな」
「何で」
「だってこの『逆ビッグバン状態』じゃ、他の惑星に逃げたって助からないだろ」
「あー…確かに」
ちらりと、残り少ない時間を共有している友人に目をやった。コイツもまた、空を見上げていた。だから俺も、もう一度空を見上げた。
それはそれは素敵な天体ショー。
現れては消える、多種多様な光の断片。青空の奥に沈んで見えるは、遥か彼方からやって来た宇宙崩壊の波が魅せる、煌びやかな地獄絵図。呑み込まれてく星達の、断末魔と血飛沫だ。
「気休めが欲しかったんだよ、あの人達は」
結局は元の木阿弥だろうけど。そう言ってヘラヘラ笑う目元が普段通り過ぎて笑えた。学校は当然休校なのに、わざわざ制服で会いたいと連絡を寄越す辺りもいかにもコイツらしい。今日すら『特別』にしないところが、コイツの良さだ。そんなコイツだからこそ、最期の刻も家族より優先したくなったんだ。
森羅万象の終末が、公園のベンチに並んで座る俺達の肉眼で見えるほどに近付いていた。地球到達予定日は、明日。
「ねぇ、こわい?」
「何が」
分かってるけど聞き返してみた。
隣を見ると、今度はちゃんと目が合った。
「銀河系の、崩壊」
「……んー、特には」
「吹っ切れたってコト?」
「というより、俺だけが消える訳じゃないから」
皆一緒だからこわくない、って、そんな簡単でもないけれど。
少なくとも、混乱して自殺してった数多の人達は持てなかった感情だろう。
「日、暮れてきたね」
「どうせなら太陽が道連れにされるの拝もうか」
青空に、茜が差している。




