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ヒーローは遅れて

危ないからと私を止まらせ、ハルシアは窓ガラスの破片を避けながら部屋に入っていく。


入り口で様子を見ていれば、部屋の床にはやけに大きな石が転がっていた。

きっとこれが投げ込まれて窓が割れたんだろう。

いつも私が選んで窓に投げる、親指の先くらいの小石より、十倍近く大きい。


そりゃ割れるわ。

けれど、気をつけて石を選んでいたとはいえ、もう窓に物を投げるのはやめておこう。

部屋中にガラスが飛び散った悲惨な光景を目にして、心に誓う。



「シア、いるか? 雨宿りさせてくれ。急に降ってきやがった」

外から、悪びれもしない、若い男の声がする。

どうやら犯人は知り合いのようだ。


「……窓、割れたんだけど」

ハルシアにしてはずいぶん低い声だった。

こちらに背を向けているからその表情は分からない。


「そんなの、後で人を寄越して直させる。とにかく入れてくれ」

「今すぐだよ」

「中に入れろ」

「今すぐ直せ」

「……俺がか?」

「できるよな、ベルサタン?」

ハルシアの声がいっそう深まった。


「……わかった」

何かを察するように、ベルサタンと呼ばれる青年は一間をおいて承諾した。



ん?

ベルサタン……

ベルサタン……

ベルサタン・マ・ホルチェですか!?


マ皇国のサタン王子っ!!

他でもない、私の物語のヒーロー役だ。

まさかのヒーローご登場!?


まずい、まずい。

いや、平気か?

いやいやいや。


前世の私が創った物語では、クレーツィアは留学なんてしない。

だからサタン王子と対面するのは、2年以上あとだ。

ヒロイン・ヤヒナルルーシュカの脇にひかえる、端っこ役のポジションで出会うはずだ。


ここでルーシュカをさしおき、私だけ出会ってしまっていいのか?

大丈夫か?


焦る私。

なぜなら私には、物語のとおりにルーシュカとサタン王子の恋物語だけは成就させたいという野望がある。

2人の恋は、前世で恋愛経験ゼロだった私の、夢と憧れがすべて詰まったシチュエーションだらけなのだ。

絶対、側で見ていたい!


だからクレーツィアがここでサタンと会うことで、ルーシュカとの関係性に、なにか未来を変えてしまう要素があってはならない。

本当に大丈夫か? と自問自答している間に、サタンはハルシアの降ろした縄梯子で登ってきてしまう。


サタンが窓枠から降り立つ。

濡れそぼった黒いブーツ、深緑の長いマント。全身から滴がしたたる。


「この部屋はいつ来ても散らかっているな」

「それ、窓を割ったやつの言うことじゃないから」

呆れたようなハルシアに、やはり悪びれもしないサタン王子。


そんなサタンは濡れた手を伸ばして、自然な動作でハルシアのクリーム色の髪を触った。


「なあ、髪切れよ。ずいぶん長くなってるぞ、シア」

「僕は王宮にあがらないから、いいんだよ。もう身だしなみは」


「その髪、俺は嫌いだ」

「はは。そんなことを言っても、昔みたいに、なんでも君の思い通りにはできないよ」

「この世でたいていのことは、俺の思い通りだ。昔から、お前以外は」


どうやらサタン王子のザ・俺様な性格設定が健在のようです!!

ていうか、サタンとハルシアのやりとりに、鼻血が出そうなんですふが!!!

私、女として腐な要素はなかったはずなんだけどな。


ハルシアとサタンが並べば、かなりの絶景になった。

いい眺めだ……。

サタンは焦げ茶色の髪に、海のような青い眼。

すらりとした身長は、ハルシアと同じくらいで。

ずいぶん……んん?

ちょっと、どことなくハルシアと似ている?



「なんだ? このブス」


サタンが私を見て顔をゆがめ、不躾に言う。

ハルシアはその横で笑顔をうかべる。


「ごめん、クレーツィア。紹介するよ、この馬鹿はベルサタン」

「馬鹿だと? おい、頭を押さえつけるな。やめろシア」

「今の、初対面の女性に対する礼儀ではないよね? ベルサタン」


ブスと呼ばれたことに怒るべきなのかもしれないけれど、それよりも、自分の思い付きのせいで衝撃を受けている。。

ハルシア……。

王子のサタンとそんなに親しく話せるなんて、もしかして、本当はすごい偉い人なんじゃ。


「クレーツィア? 怒ってる?」

「え! ううん、平気」

ハルシアに覗きこまれて、我にかえる。


とにかく、ベルサタン王子と接しているときは、できるだけ目立たず騒がず、悪い印象を持たれないようにしなければ。

ルーシュカのためにも。


「54点」

「はい?」

ベルサタンが私を指差して言う。

「おまえの点数だ。なかでも大幅な減点対象は、その貧乳だな。ハルシアは女の趣向がずいぶん変わったもんだ」



この馬鹿王子、ぶん殴っていいですか?




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