昔の記憶
私は病気で、自分の命の終わりを知っていた。
高校までは、わりと普通の人生を送れていたと思う。ありがたいことに友達もけっこういた。
けれど、病院に通いながら、無理を言って通っていた高校の卒業後、強制的な入院はずっと前から約束されていたことだった。
ここまでだ。よく頑張ったね。
卒業式の日、そう自分を褒めてやった。
病院の白いベットに身を横たえたときには、ここで、このベットでいつか死ぬんだろうと、私は諦めに似た確信をもったものだ。
それでもその白いベットで、私は絶望するわけでもなく、夢中になってやっていたことがある。
執筆だ。
あまり人に言ったことはなかったが、私は小説を書くことが好きだった。
私の頭の中にはたえまなく空想の世界の話が溢れてくる。それをうまく文章にするのは楽しかった。
神さまは長い命を私にくれなかったけれど、代わりに「物語を描くこと」を与えてくれたんだと思っていた。
ーー私は人の心に残る物語が書きたかった。
円満なハッピーエンドの物語も、もちろん素敵だと思う。完成された物語は、人を満足させる。読後感がすっきりとして気持ちがいい。
ーーでも、それだけだ。
新しい素敵な物語に出会ったら、あっけなくその影は薄れていってしまう。
それよりも私は、あとをひくような話が書きたかった。
人の心に爪痕を残したい。
読んだら忘れられないような、そんな話が良かった。
読んだあとに何度も思い返しては、心が痛み、悲しくて、どうしてこうなるの、と問いたくなるような……
哀しくて美しい物語が、書きたかった。