~お揃い~
ましろにとって長かった一週間がやっと終わった時。
ましろは布団をかぶって出ませんでした。
眠くはない。
ただ外に出たくないだけ。
私は死んでいない。
私は何をやっているのだろう。
あの人は本当に私を殺してくれるのだろうか?
そんな言葉ばかりぐるぐると頭で駆け巡り誰もいないはずの誰かに強く責められている気持ちになっていました。
コンコン。
「ましろー?入るよー?」
そこに優里の声がしました。
そのまま黙っていると、優里は少し迷いつつもドアノブを回し中に入りました。
「…………亀?」
部屋に入るなり、縮こまって布団の中に入っているましろを見付けて、つい言葉が出ました。
「………違う…。」
1つ否定をすると、少し笑って優里はベッドの側に来て座わりました。
「…………。」
「………………。」
何でこの人は側にいるんだろう?
私は1人なのに。
なんで?
ましろは心にあった言葉をそのまま聞きました。
「……………どうして……側にいるの……?」
「……1人だから。」
うつむいた顔。
表情がわからない。
「…………えっ?」
「オレもましろも1人だから。」
優里はうっすらと笑顔を作って遠くを見つめていました。
「……………。」
「1人が嫌な訳じゃなかったんだ。むしろそれが当たり前だったし。」
そして目を瞑り、ゆっくりと座ったまま頭だけをベッドに預けました。
「………今は……ましろにはオレがいるって知って欲しくて……1人はやっぱり淋しい………」
その言葉は、なんだか全てましろに向けられた風に思えませんでした。ましろは布団の壁から体を出すと。
そこには、寂しそうな優里の姿がありました。
私は1人。
誰にも必要とされない。
………あなたも1人?
誰にも必要とされないの?
寂しいの?
………………。
ましろは、おそるおそる手を伸ばして優里がいつもやってくれているように頭に触れました。
優里はそのまま目を瞑っているのに少し嬉しそうな感じがしました。
「………服買いにいこうか?ましろの。」
そのの言葉と一緒に優里の目が開き一瞬目が合いました。
ましろは、自分に服の必要性を全く感じなかったので首を横に振っていると
「流石にオレの服を一緒に着るのも限界があるし、何しろサイズが合わないし。ね?行こう?」
今までずっと家の中は優里の服を借りていたので、それで充分だと抵抗していましたが、優里の笑顔の圧力に負け、とりあえずパジャマから又服を借りてその上からコート、マフラーでぐるぐる巻きにされ、ましろは雪だるまみたいになりました。
靴を履いて外への扉開けるとヒンヤリとした空気が女の子を包みました。
いつものように片方の手には手袋をはめて、もう1つは手を繋いで、家の外へ歩き出しました。
息を吐く度に白いもやがかかり、寒い為か人はまばらに歩いているだけでした。
こんなに寒いのだから私の心臓迄凍ってしまえば良いのに。
私を殺してしまえば……良いのに。
そしてふいに繋がれている温かい手を見ました。
その手で私は死ねるの?
優里の温かさだけがましろの心に突き刺さる物がありました。
息が苦しくなりました。
「………どうして?」
「えっ?」
思わず口に出てしまった言葉に優里は少しビックリしていました
「………心配しないで?」
優里は優しく笑うと繋いだ手に少し力を込めました。
「これから街に行くために電車に乗るからね?休みだから人も今より大分増えるし、はぐれないように絶対手を離さないようにね?」
気が付くと確かに歩いている周辺には先程までいなかった人が増えて、行き来しているのがわかりました。
切符を買って改札を通り、電車に乗り込むと座席は全て埋まっていて優里は手すりに捕まり、ましろは、はぐれないように優里のコートに両手でしっかりと掴みました。
沢山の人の目が少し怖くて途中から優里の背中に頭を付けてギュッと目を瞑りました。
幾つかの停車駅を通り越し。
電車が止まり、ましろが少しバランスを崩した時
「………着いたよ?降りるから離しちゃ駄目だからね?」
暗闇からの優里の声に慌ててましろは歩き始めました。
電車を降りると人が先程よりももっと増えて沢山の人が電車を降りてどこかへ歩いて行っていました。
少し電車から離れた所で優里は優しく手を繋ぎ直して、改札を出て、階段を登り外へ出ました。
「………人が………沢山………」
正直どこから来ているのだろうと思うくらい街には人が溢れかえっていました。
歩いているとましろにも沢山の人と肩がぶつかり合いました。
「大丈夫?」
優里が背中越しに女の子に聞くと
「………気持ち悪い。」
「……だよね。。もう着くからちょっと我慢して?」
そういうと優里はましろを庇うように人の間を縫って1つのお店に入りました。
店内は木目調の作りで服が綺麗に沢山並んでいました。人はまばらに一生懸命服を見ている人や、流し目で見てる人がいました。
「いらっしゃいませー」
あまり大きくない声でお店の奥から聞こえてきました。
「2階はメンズ服なんだ。」
優里がそう言うとましろの背中を押しました。
「ましろは、どんな服が好き?」
「…………………。」
ましろには興味があまり沸いてこなかったのですが、仕方なく適当に服を掴んでみました。
「……………黒?」
ましろはどうでもいいふうに頷きました。
「…………白はダメ?」
「………どっちでも………」
「茶色は?」
「…………別にそれでも…」
「緑は?」
「……………何でもいい。」
なんだかましろよりも優里の方が真剣に服を選んでいました。ましろがどうでもよさそうに顔を背けると。
『世界の星屑』
するとましろの目にその張り紙の文字がパッと目に入りました。その張り紙のすぐ下には2重の革製のベルトの真ん中に半球の飾りが付いているブレスレットが何個か飾られていました。
なんとなく半球の中を除いてみると紺色の水の中にキラキラしたいくつもの星の形をしたビーズが漂っていました。
「…………それ欲しいの?」
ブレスレットに夢中だったましろは隣の優里に気が付きませんでした。
なんだかそれが凄く恥ずかしくなって
「あっ………あなたに…合うと思って………」
目をそらしながらそして声もだんだん小さくなっていく始末。ましろは嘘をつくのが物凄く下手でしたが、その様子を見た優里は少し笑って
「……ありがとう。それじゃあ折角だし買おうかな?オレの分とましろの分も」
にっこり笑いながらいくつかの服とブレスレットを2つ持ってレジへと向かいました。
そして、ましろの元に帰ってきた優里は早速といった感じで大きな袋から小さな袋を取り出し、ブレスレットをましろの手首に付けました。続いてもう1つの袋に入っていたブレスレットは自分の手首につけると優里はそのまま手を繋ぎました。
「選んでくれてありがとう。」
ましろに笑いかけるとお店から歩き出しました。
ましろと優里の繋いだ手の手首でゆらゆら星がたゆって、太陽の光でキラキラと光っていました。
それはなんだかましろの心がむず痒くなるような、そんな気がしたのでした。