~双子と出会い~
「えー今日から転校生が入ることになりました、立石ましろさんです。分からないことは教えてあげて下さい。………以上!立石さんは橘の後ろね。もう行っていいから。静かにー!」
中年太りをした男性教諭は興味無さそうにましろを紹介し、すぐ座るように促しました。
運良く優里の後ろで一番後ろの席。
まだ沢山の人には慣れないから丁度良い。
そして私が死ぬためにもきっと良い場所。
ましろはそんな事を思いながら席に着きました。
ひとまず、1度鐘が鳴って皆がザワつき始めました。優里は席に座ったまま後ろを向き、ましろに笑いかけました。
「授業の間毎にこういう空き時間があるんだ。この時間で、教室移動したりするんだよ」
「………そう。」
ましろは控え目に優里を見ました。
「………後、あの先生はオレらの担任で成績にしか興味無いから、誰でもあんな態度だから気にしなくていいからね?」
「…………うん。」
ましろと話していると、突然1人の女の子が2人に話し掛けてきました。
「おはよー?転校生だったんだねぇー?」
「えっ?」
突然の、のんびりとした口調の女の子の言葉に優里は少しびっくりしたようにましろを見ました。しかしましろは、興味なさそうにうつむいたままでした。
「………えっと………?」
「あぁそうだよねー?自己紹介がまだだったよねぇ?
私は桜木ひなたって言うのー」
ましろが、相変わらずひなたから目をそらす様に下を向いていると、ひなたはそれをあまり気にしていないのか、楽しそうに話を続けました。
「えっとねぇ?昨日の放課後、ましろちゃんと偶然会ったんだよー?だからーこれも何かの縁だしぃ、もし良かったら学校案内してあげるからいつでも言ってねー?」
ひなたがニッコリ笑うと、後ろから又1人の男の子が近づいてきました。
「オレもそれ、行くなら行って良いかな?」
「………はっ?」
「立石さんっていうんだね?オレも昨日教室で立石さんに会ってさ……オレはひなたの双子の弟で桜木まひるって言うんだ。よろしくね。」
「えーーーっと…………?」
優里が訳がわからない様にもう1度ましろを見ると、袖口をぎゅっと強く握ったまま下を向いていました。
「………ごめんね昨日オレが学校案内先にしたんだよね。でも分からないことは沢山あると思うから、ましろに教えてあげて?」
並んだ2人は少し残念そうな目をして
「そっかーわかったー。でも分からない事があったら本当に言ってねー?」
ひなたがそれでも笑顔を作ってましろに言いました。
そして、何故か何かを言いづらそうにその横でまひるが言葉を続けました。
「………オレにも何でも聞いて良いからね?
………えっと……マシュマロ…ちゃん……」
「……………へっ?」
まひるが少し恥ずかしそうに最後迄言葉を紡ぐと優里は困惑したように、まひるの顔を見ました。
「………えっ?……えーっと?ましゅ?」
「…………!!」
するとひなたが何かに気が付くように手をポンっと叩きました。
「ましろでマシュマロ?えーかわいい!まひる!たまにセンスの良いこというんだねー!」
「かわいい名前だなぁと思っていたら思い付いてさ、……ねぇ?本当に最初から馴れ馴れしいかも知れないけど、マシュマロちゃんって呼んでも良い?」
「あっ!私も私もーーー!」
ひなたとまひるで話しがどんどん進んでいって優里はもう、ついていけない状態でした。
その中キラキラとした目で2人に見つめ続けられたましろは、とりあえず早くこの2人に何処か行って欲しいと思い、必死に頷きました。
それに嬉しそうに2人が喜んでいると突然
『キーンコーンカーンコーン!』
ザワついた教室内にベルが鳴り響きました。
「わっ!座らないと!とにかくよろしくね!マシュマロちゃん!」
「私もー!仲良くしてねー?マシュマロちゃん!」
まひるとひなたはその言葉を残して急いで自分の席に戻りました。ましろは一気にどっと疲れたように机に頭をつけました。
………これが学校。
しかもまだ始まったばかり、気が重い。
疲れる。
気持ち悪い。
そんな事を思いながら授業は、黒板をノートに写すのがやっとで、休み時間にも写し終えなかったところを優里にノートを借りて写して時間が過ぎました。
―――放課後。
「起立!礼!」
その言葉を皮切りに教室内がザワつき始めました。
「ましろ帰ろうか?」
優里が後ろを振り向くとましろは、ぺしゃんこになるように机に覆い被さっていました。
「…………ましろー?」
優里が頭を撫でていると、突然斜め後ろから、
「マシュマロちゃん!掃除しようー?」
そこにいたのはキラキラと目を輝かせていたひなたが、ホウキを2本持って立っていました。
ビクッとその声に驚いたましろは、急いで優里の背中に隠れました。
「………あーまだ初日だし掃除は………ってあれ?今日の掃除当番桜木さんの班なの?」
気が付くと教室には人がいるにも関わらず誰も掃除をしようとしていませんでした。
「えーっと?毎日私が掃除しているのーたまにまひるが手伝ってくれるんだけどぉ………そっかぁ橘君は終わったら直ぐ帰っちゃうもんねー?」
今更ながら、優里は自分が掃除をこれ迄した事無かったことに気が付きました。そして、どれだけ自分の毎日に興味が無かったことも思いしらされました。
「……何で桜木さん1人で?」
「何でってー?……私が1番このクラスで頭悪いからだよー?先生がクラスの平均を下げてる私への罰らしいよー?」
ニコニコと他人事の様に笑いながらひなたが話しました。
「クラスでラインのグループがあってぇ、先生が掃除のこと言ってー皆が賛成したから私が掃除しているのー」
おっとりとした口調からは考えられないほどあまりにも酷い事が紡がれました。
「それでぇ掃除番の私が教室の掃除を教えてあげてー仲良くなろうと思ってー。でも確かに初日だし、疲れていたら見ているだけでも良いからねー?」
ひなたはそう言って1つホウキを壁に立て掛けて、掃除を始めました。
「………………。」
すると、今までずっと黙っていたましろは優里の隠れていた背中から1歩出て、立て掛けてあったホウキを両手で持ち立っていたその場をちょこちょこと掃き始めました。
優里はそれを見ると
「ましろ?そこだけ掃いても綺麗にならないよ?オレも手伝うね?」
ニッコリ笑って優里も掃除を手伝い始めました。
そして、教室に残っていた生徒がそれを見るとバツが悪そうにそそくさと教室を出ていきました。
―――掃除が終わった3人の帰り道。
途中家の方向が違うひなたと別れて優里と女の子は手を繋いで歩いていました。
「…………何でましろは掃除手伝ったの?」
優里は心にあったことを聞いてみました。
「…………分からない………あの子はまだ慣れない……でも………」
「…………でも?」
「あのままにしておくのは…もっと気持ちが悪かった………の……」
優里は一生懸命言葉を紡いだましろを見て、そしてそれから暗くなった空を見上げ目を細めました。
「うん………おんなじ…オレも……ましろとおんなじ…」
自分に言い聞かせる様に優里はそう呟いて、2人は帰り道をゆっくり歩いて行きました。