~叶えたい初詣~
クリスマスが終わり。
優里が世話しなく家の片付けをし始めた。
なにもしなくて良いと言われたましろは、それをボーッと見つめる数日間を過ごす。
―――――――――。
そしてボーッとテレビを見ていると。
雪が舞い降る中。
それは突然だった。
「ましろ!初詣行こう!」
と優里は1つ提案をする。
するとすぐに、ましろの有無を聞かずにコートとマフラーでぐるぐる巻きにされ、手を引かれて神社に連れていかれた。
目的地に着くとすぐに人だかりに圧倒され、優里の背中に頭を預けてぎゅっと目を瞑る。
「………甘えてる?」
そんな言葉とは反対に優里の方が少し甘えたような声で聞き。
「………違う…」
そのままの体制で答えると
「………そっか」
と嬉しそうな声が返ってきた。
長い列に並んで、優里に習った様にお詣りをする。
願い事は勿論。
『優里に好きになってもらえます様に』
こんな事で願いが叶うなら苦労しない。
どうしてこんな事する為に人が集まるのか。
というかなんで優里は此処に来ようなんて言い出したのか。
そう思いつつ、その場から横に避けようと歩き出すといきなり、多くの人が2人の間に押し寄せた。
「!?」
ましろは気が緩んでいたのか、握っていたあたたかな手をふと離してしまう。
刹那。
それと同時に心臓が痛くなるような気持ちになって、うまく息が出来なくなった。
「…ゆ…り……?」
周りを見渡しても見慣れてる姿は何処にもなく。
沢山の人の声。
沢山の人の目。
1人取り残されたその場所は大勢の人がいる筈なのに、ましろは1人取り残された世界にいってしまった様で。
取り敢えずその場から動こうにも体が震え、足がもつれ、うまく歩けない。
兎に角ここから離れようと。
何とか前を見ると。
いつのまにか。
暗闇に1人。
小さな女の子がいた。
それはどこかで見たことのある女の子。
女の子は1人。
深い深い暗闇の中で泣いている。
知っている。
私はこの子を知っている。
女の子は暗闇の中で泣きながらふと顔をあげる。
顔は周りの暗さなのか黒く塗りつぶされたように影が覆っていた。
『どうして?』
「………えっ…」
『あなたの居場所はそこじゃない』
心臓がうるさい程激しく音をたてる。
私の居場所?
そもそもそんなものあったのだろうか。
いや。ない。
私に居場所なんか。
足元が揺らぐ。
そうだ。居場所のない私は。。。
「ましろ!」
突如。
聞き慣れた声が背中の方から聞こえあたたかい体温が背中に広がる。
すると途端に、先程迄見えていた暗闇と女の子が消え又大勢の人に景色が変った。
後ろからぎゅうっと抱き締めたままの優里は、大きな息づかいのまま頭をましろの肩に預ける。
そこからじんわりと優里を感じる。
「ごめん…!手を離しちゃって…不安にさせて…ごめん!」
「……ゆ……うり…」
優里の体温が声がその温かさがさっき迄の突き刺すような胸の苦しさと震えを止めてくれた。
ドン!
沢山の人が2人を邪魔そうにすれ違いざまぶつかっていくと。
「……ここじゃ邪魔になるね…取り敢えず人の少ないところに行こう?」
そういうとすぐに抱き締めていた腕をほどき、ましろとそのまま腕を組んでさっきよりも固く手を繋いだ。
―――少し道を外れると。
人の多さもまばらになり、その分明かりもまばらに灯っていた。
そして、ベンチにつもっていた雪をある程度払い、座る。
やっと人が少ない所で、息をつき優里の隣に座ると。
そのまま優里はましろを抱き締めた。
「……怖かった…」
その声は白い息と共に儚く少し震えたように聞こえる。
「ましろと手が離れて、会えなくなると思ったらすごく怖かった…」
「……なんで…」
「えっ?」
優里の心配が。
先程の女の子がこのままの自分を責めているようで。
ましろの心の中の言葉が溢れる。
「どうして?私の居場所はここじゃない…いちゃいけない存在なの!なんであなたはそんなこと言うの!?なんであなたは私の為に色々しようとするの!?分からない!分からない!」
わからない。
自分の気持ちが。
あなたがなにしたいのか。
早く私を消してほしいのに。
わからない。
ましろは勢いに任せて気持ちが爆発したように、ベンチから立ち上がり、はく息が大きく乱れたように目の前に白いもやがかかっていた。
「……いちゃいけないなんて嘘だ…」
「…なっ…なにいって…」
優しい目がましろを見つめ優里の赤い手が重なる。
「ましろがいなかったら!オレはずっとあの家で1人で!通学路で手を繋ぐことも!双子と出会うことも!クリスマスをやることもなかった!」
優里の言葉が心に突き刺さる、そんなことっと言いたくても言えなくて、どうしようも無くただ俯いていると
「…居場所が無いなんて嘘だよ…ただ君がそう思ってるだけ…居場所を作るのが怖いだけ。誰かの思い出になるのが辛いだけ。ゆっくりで良いから。認めてあげて?君のいる場所を。君のいる意味を。……それと」
「………?」
優里の言葉の続きを聞くために少し顔を上げると。優しいままの瞳でましろをにっこりと見上げていました。
「オレ、ましろの事家族だと思ってるから…居場所が無いなら…オレが最初のましろの居場所になる…」
「…か……ぞ……く…?」
意外な言葉。
この人は何を言っているのだろう。
森の中で殺してくれと言った私を。
まだ数ヶ月しか一緒にいない私を。
絶望しか持たない私を。
この人は笑って家族と言う。
「たった1人の大切な家族だよ?ましろは。だから。……いちゃいけないなんて言わないで…」
呆れるほど優しくて。
その優しさが心に刺さるようで。
言い返せる言葉が見付からなくて。
ましろはすぐに下を向く。
はらはらと。
そんなましろの気持ちを無視するように雪は降り続けた。
「……寒くなってきたし、帰ろうか?」
フーッと白い息を吐きながら、優里はましろの手を繋ぎ直してベンチから立ち上がる。
「そういえばさっ。オレ早くもさっきお願いした願い叶っちゃった」
「………。」
未だに何も言い出せる言葉がなく、黙って俯いていると。
「ましろに名前初めて呼んで貰えた」
「……………。」
そう言うと、にこにこしながら優里はましろの手を引き歩き始めた。
「……………!?………ちがっ!!」
遅くも、優里の言葉をやっと理解したましろは何だか身体中が熱くなるようで、必死に否定すると。
優里はにこにこしたまま歩いていく。
いつまでも温かくならないましろの冷たい手をぎゅっと繋ぎ、白い雪の上を音をたてながら。
優里がましろの存在を確かめるように。
帰り道は先程の重い空気なんか無くて、少し賑やかな帰り道になった。




