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マシュマロ   作者: 里兎
18/23

~大きなくま~


――――――――――――。


「……おいっ…おいっ!立石聞いているのか!?」

教室中に響き渡る声。

気が付くとそこにはいつものように教壇の上で暑くもないのに、大粒の汗をハンカチで拭っている先生がこちらを睨んでいました。

その声に反応するように目をさ迷わせながら先生を見ると。

ふんっと鼻を鳴らしながら本題へと戻る。


難しい問題。

難しい文書。

難しい……あの人の言葉……。


そしてその後も幾度と無くぼうっとしたましろは、何度も先生に注意されました。


気が付くと補講は終わりを告げ。

帰る準備をしました。

でも。

何となく。

朝みたいな優里に会うのに躊躇いがあって。

その準備もゆっくりなものになっていました。

それを見かねてか、大輝はましろに近付いて顔を覗き込みました。

「………どうしたんだ?お前?なんだか何時もよりぼうっとしてるし、昨日迄あんなに早く帰る準備してたのに…」


「………!?」

思わずその行動が朝のことと被り反射的に後退りました。

その行動にびっくりしたのか一瞬沈黙が流れそれから少し笑い

「……お前みたいなちんちくりん誰も取って食おうなんて思っちゃいねぇから……で?どうしたんだ?」

その言葉に何も答える事が出来なくて無意識に優里のブレスレットを胸でぎゅっと握りながら目を泳がせました。

「はっ!お前分かりやすいのか分かりにくいのかどっちかにしろよ?」

「………!?」

デジャブなのか。

前にもそんな事を言われた気がしてなりませんでした。

「………そうだ、今日暇だし。帰りたく無さそうなお前にスッキリ出来る良い所に連れてってやるよ。」

その話しに再度驚き。

ましろは懸命に首を横に振りました。

「………帰りたくないんじゃないの?」

「………えっ…と…」

何か言わなくちゃと思っても的確に自分の気持ちを当てられてしまうと何を言えば良いのか分かりませんでした。

それを見た大輝はニッコリと笑い

「まぁ昨日の今日で遠慮する気持ちは分かるけど、あんま気しなくて良いから」

「えっ…えっ…?」

そしてそのまま、ましろの腕を引っ張るようにして教室を後にしました。



そこは広く、四方八方網に囲まれていて。

白いボールが幾つも下に転がっていました。


カキーン!


沢山の音の中で一番響く音。

ましろにとってそこには珍しくキョロキョロと辺りを見回しました。

「……ここ……?」

ポツリと出た質問に大輝は少し笑って

「なんかあった時はここが1番!バッティングセンターで球と一緒にもやもやした気持ちも打ち飛ばしてやれ!」

そう言っておもむろに、ましろの頭にヘルメットを被せ、適当に刺してあったバットを取りましろに持たせました。

そしてなにやら小さな機械の箱に何かを入力して

「よし!行ってこい!」

と背中を押され網の扉の向こうに押し込まれました。

「????」

周りを見回してなんとか理解しようにもましろには中々難しくて

そしてその瞬間。

「来るぞ!」

という大輝の声と一緒に白いボールがとても速い速度で風を切りながらこちらに飛んできました。


ボスっ!!


気が付くとそのボールはましろの横を通り過ぎて後ろの網にキャッチされていました。

「本当どんくせーのな。まぁ初めてっぽいからこんなもんなのかな?」

物事の早さに圧倒されてましろがぼうっと立っていると、それを見かねて大輝が網の扉からこちら側に入ってきました。

「……!?」

驚くましろを余所に、平然として後ろから体を操るようにして耳元に息が掛かるような距離で説明し始めました

「足は肩幅に広げて。バットはこう持つんだよ」

誰かにこんなに近くにいるのは優里以外初めてで、突き飛ばそうとしましたがその前に大輝は離れて

「……よしっ!そのまま前を見ろ!球が来たら目を離さずバットでぶっ飛ばせ!」

どうしてこんなことになっているのか。

必死で考えようにも答えが見付かりませんでした。

そんな心と裏腹に

「来るぞ!」

という声と一緒に又迷い無くボールが飛んで来ました。

何で。

どうして?

「…………。」


カキーン!!


「………!?」

「…………まじかよ!?」



――――「にしてもお前どんくさい割に凄かったなぁ2球目でホームランとか普通無いだろ。」

帰り道。

辺りは既に闇に包まれていて。

月明かりと街灯だけが道を照らしていました。

そして、手には抱えきるのが困難な程の大きな熊のぬいぐるみ。

大輝の後を少し距離を取りながら歩いていました。

「………まぁその後は全然ダメだっあけどな」

ニコッと笑いながらましろの方に振り向くとそこには熊がいてましろの表情を伺う事は出来ませんでした。

「………あーだから持ってやるって言ってるのに…」

「……いい。」

何故か頑なとしてましろはそれを譲ろうとしませんでした。

「……まぁ無理にはとは言わねぇけど……それより送り先本当に学校で良いのかよ?」

こくん。

ましろは頷いたつもりなのに大きな熊に遮られて大輝には熊が頷いているようにしか見えず不思議な感じでした。

「お前が良いなら良いんだけど、家迄の夜道怖くねぇのか?」

「………何で?」

「えっ?いやっ…だって…」

「……暗いの…慣れてる…怖いとか無い……」

その言葉に大輝はフゥっと短く息を付き

「……ほら。学校に着いたぞ。」

気が付くと横にはいつもの校門の前。

「……じゃあ…」

そのまま大輝の横を通りすぎようとすると突然大きなに手を捕まれました。

「……またな。って言うんだよ。こーいうときは」

「………?」

「ほら?言ってみ?」

どうしてそんなこと言うのかましろには理解出来ませんでした。

「……ま…たな……?」

疑問を持ちつつも取り合えず言う通りに言ってみると、大輝がくしゃっと頭を撫でながら

「良くできました。そういえばお前聞いてなかったかもだけど、先生がなんか用事で明日休みだとよ……だからまた明後日な!」

笑顔でその場を後にして行く大輝の背中を大きな熊の背中から覗くようにして暫く見つめていました。

気が付くと。

朝からあった変な気持ちが薄らいでいるようでした。

そしてそのまま、ましろもその場に背を向けていつもの帰り道を歩きました。


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