~朱く染まる頬~
――――――ガチャ。
扉を開けると下で寝ていたのか、優里が赤い顔をしたまま部屋から、飛び出して来ました。
「ましろ!?」
ましろはその姿にビックリして目を見開くと。
「大丈夫だった?ちゃんと学校行けた?変な人には会わなかった?」
「………あっ」
何かを喋り出そうとしても優里はそれを許さないかのように続けました。
「こういう時に携帯電話って必要なんだね……今まで必要性を全く感じなかったけど……今度買いに行こうか」
人に必要とされない。
筈なのに……。
でもこの人の話しを聞いていると。
それすら勘違いに思えてくる。
どうして?
聞いてみる?
………でも。
その前に……。
「………寝て。」
キッと赤い顔をした優里を睨みました。
「………えっ?」
「早く寝て!」
そのまま靴を脱ぎ捨てぐいぐいと優里の背中を押し階段を登って部屋のベットに押し込みました。
バサッ!
そうして何重にも毛布と布団を掛けそのまま部屋を出ようとすると。
服の裾が引っ張られる感覚が有りました。
「ましろ……手…貸して…?」
「……………?」
意図が分からず手を、優里に差し出すと嬉しそうにその手を掴みました。
「ましろの手は……冷たい……。」
消え入るような声でそれだけ言うと直ぐに寝息が聞こえてきました。
それを確認して部屋を出ようとすると、優里が手を握ったまま離してくれず、どうしようも出来なくなってしまいました。
諦めたように優里の側に座り込み寝顔をまじまじと見て。
ふとあることに気が付くきました。
人の目が怖くてあまり見ることの無かった顔を向き合って、ちゃんと見るのは初めての事。
離してくれないこの手。
今迄は気にしたことも無かったけど今は、すごく熱い。
ねぇ?
どうして離してくれないの?
……このままじゃ。
私が必要だと勘違いしてしまいそうになる。
……心が重く、苦しくなってしまう。
私は……生きててはいけない存在なのに……。
「……こんなこと……」
ましろは無意識に何かを呟き汗で滲んだ優里の額にソッと手を乗せるのでした。
―――――鳥の囀ずり。
カーテンから漏れる光。
それに反射的に目を覚ましゆっくりとまだ重い頭を持ち上げようとしました。
そして片手に柔らかい何か違和感を感じ。
その行方を辿ると。
そこにはましろが突っ伏して制服のまま寝ていました。
「………………。」
熱のせいなのか寝起きのせいなのか、ぼうっとした頭ではその状況がうまく呑み込めず。
なんと気なしに、もう片方の手でましろの髪の毛を掬い上げました。
サラサラと手から落ちる真っ黒な髪の毛。
それがなんだかとても心地よくて何度か繰り返していると
「………う…ん?」
むくりと眠そうに目を擦りながらましろは体を起こしました。
「……おはよう?ましろ。」
「……………。」
「…………………。」
「……………………!?」
暫くぼうっとしていたましろが優里の優しい笑顔がものすごく至近距離にあることに驚いて反射的に後ろに後ずさろうとすると
グイッ!
繋いでる手が離れるのを許さないかのようにましろを引っ張りました。
「!?」
何がなんだかわからないましろとは反面。
優里は寝ぼけたままなのかやけに落ち着いていて。
「昨日あれからずっと側にいてくれたんだ?嬉しい…今日もずっといて……ずっとオレだけの側に…」
すがってくる表情と甘い言葉。
それに胸が跳ね上がり頬が熱くなる気がしました。
その気持ちに焦るように。
両手で優里を振りほどき
「がっ…がっこういく!」
その場から逃げるように優里の部屋を後にしました。
バタン!
そしてそのまま優里の部屋の扉を背にしてずるずるとその場に座り込みました。
心臓が。
音が。
うるさい。
驚いたせいなのか。
何故自分がこんな気持ちになっているのか分からず。取り敢えずその場で深呼吸し、なんとか自分を落ち着かせ学校に行く準備を始めたのでした。