~テストの結果~
白い答案用紙。
教壇に立っている先生は単純作業のようにして生徒の名前を1人1人呼びながら返していく。
幾度となくそれを繰り返して。
沢山の紙切れがましろの元に集まりました。
「マシュマロちゃん!聞いてー!皆で勉強したおかげで補講免れたー!」
ひなたは顔面一杯の笑顔で昼休みのいつもの時間に2人の机に走ってきました。
「これで私の冬休みは安泰だよー!」
キラキラと何かを願うような仕草をしてから、至福そうな顔をしました。
「全部ギリギリの癖に何言ってんの?進級出来るって喜んだ方が良いんじゃない?」
ひなたの後ろから鋭いツッコミ。
あらわれたのは呆れた顔したまひるでした。
「でも本当にテストの点上がったよ!橘君の教えかた上手かったもんね!」
「……2人が頑張ったからだよ?」
優しく微笑み返すとひなたは、少し考える様にしてから聞きました。
「で、マシュマロちゃんはどうだった?」
「…………。」
ましろは俯いたままぎゅっと沢山の用紙を握っていました。
「マシュマロちゃん?」
今度はまひるが聞きましたが何も変わらず。そのままでした。
疑問に思った優里は強く握られたましろの指を1つ1つ広げて、くしゃくしゃになった答案の束を取りました。
それを見るなり。
刹那。
優里の表情が一瞬にして曇りました。
「何々?とそこにいた2人も後ろから覗き込むようにその白い紙の束を見ました。」
「「あっ…………」」
2人の声が重なり同じ様に顔が真っ青になりました。
1つ1つの答えに赤く跳ね上げられた印。
シンプルにそれが白い紙を埋め尽くしていました。
「……………揃えれた。」
「「……違うでしょ!?」」
双子の言葉が重なりました。
ひなたとまひるが取り敢えず一旦席に着いて、腕組をしました。
「……でもまぁ最初にしては頑張ったよね?」
優里が丁寧に2人分の答案用紙をファイルに仕舞っていると
「……いやぁ橘君。甘いよ?甘々だよ?だってこれじゃあ補講処か留年だよ?」
芝居がかった仕草をしているまひるを余所にひなたはましろの両手を包みました。
「大丈夫だよー?キチンと補講に出て同じ内容のテストを受ければ留年なんかしないからねー?」
「…………橘君もマシュマロちゃんと一緒に補講受けるの?」
腕を組み直し少し疑問になった言葉をまひるは口にしました。
「あー!駄目だよー?補講は部外者は受けられないんだよねー」
ひなたが大袈裟に手を振ると
「………学校迄一緒に来て講義終わるの別の教室で待ってるつもり。」
ニッコリと笑顔で2人に答えました。
「……実質参加みたいなものだね…」
少し呆れたように頬杖をついたまひるは続けました。
「でもオレも予定が無かったら、マシュマロちゃんと一緒に居たいのになぁー」
「…………なんで…?」
ましろがよくわからないと言う顔で問いかけました。
「それは勿論ーー……」
「桜木君?ご飯食べないと時間無くなってしまうよ?」
優里はニッコリと笑った表情でまひるの言葉を遮りました。
「……………そうだね?食べないと!」
ニッコリと笑う反面裏がある表情をしたまひるは急いでお弁当箱を開いて食べ始めました。
ましろもひなたもよくわからないという風に首を傾げて2人を見ました。
そして、まひるは何かを思い付いた様に話題を変えました。
「………そういえば橘君噂になってるよ?キレると恐いって?そうなの?」
「あー!私も聞いたー!橘君を怒らせたら地獄行きだって!」
「……何それ?」
身に覚えが無いという優里に対して双子の2人はそれにも驚きました。
「えっ…結構噂になってるけど…聞いたことなかった?」
「私でも知ってるのにー驚きだねー?」
ましろは交互に2人を見てから優里を控え目に見ました。
「うーん。噂とか興味ないんだ。」
黙々とお弁当を口に運びながらどうでもいい風に言うと。
「…………まぁ確かにあくまで噂だしね?」
まひるは少し苦笑いしてからご飯を食べることにしました。
「うーん確かにそうかもー」
ひなたもうんうんと大袈裟に頷いてお弁当の続きを手にしました。
「………優里…恐いの?」
ましろは気になったように目を泳がせながら聞きくと、ハァーっとため息を付く様に箸を置きました。
「………えーっと。本人の意思とは関係無く、他人が目的もなく只話しを盛って楽しんでるだけだよ?」
「…………関係ない……?」
ましろは首を傾げたまま止まっていました。
「そう。だから恐いとかも全部作り話し。」
「………そう。」
少し安心したようにましろは半分食べたお弁当を包みました。
「………作り話ねぇ…。」
誰にも聞こえないような小さな声でそれを聞いたまひるが頬杖をついて少し笑いました。
――放課後
乱雑に沢山の紙で埋まっている机。
広い部屋の中にポツンポツンといる大人の人。
職員室。
呼ばれたましろは1人の中年で小太りの人の前に目を合わさず立っていました。
「おまえなぁ転校そうそう補講とか…」
ネチネチと話すその人は1番初めに教室で紹介したその人でした。
吹き出る汗を拭いながら。
「いいかぁ?このプリントに補講内容と日程表が書いてあるからそれをみるんだぞ?今回はお前を含めて2人しかいないんだ。1度で受かれよ?」
そんなことを言いながら額に滲む大粒の汗を拭い、もういいと言う風に手を払いました。
それを見てましろが職員室から出るとその前では優里が壁にもたれ掛かって 待っていました。
「おかえり?大丈夫だった?」
ニッコリ笑うその笑顔に少しほっとし駆け寄りました。
そのままお揃いのブレスレットが付いている方の袖口をぎゅっと握り
「………うん。」
と頷きました。
「何人か補講の人いたの?」
「……私を…含めた…2人…」
下を向いたまま優里の疑問に答えると
そう。っと言って繋いで無い方の温かい手がポンポンと頭を撫でました。
それに余計気が抜けたのかましろは何だか一気に眠気が襲って来ました。
「………?あれ?もしかして眠い?」
それに気づいた優里が顔を覗き込もうとするとそのままポスっと優里の制服に顔を埋めました。
「!?ましろ!?まだ寝ちゃだめだよ?テストで疲れてるのはわかるけど……ほら!もう帰るからちゃんと歩いて?」
優里の必死の訴えはむなしく埋まったそこから規則正しい寝息が聞こえてきました。
「…………お疲れ様…なのかな?」
何か諦めた様にそのまま方向を変えて背中に背負いしました。
「荷物2人分持てるかな……」
そして、一抹の疑問に頭を悩ませながら教室に向かったのでした。