~テスト前~
「もうそろそろ冬休みだねー!すごく楽しみ!」
昼休み。
ざわつく教室の中で。
特にひなたはワクワクさせているのか、声が弾んでいました。
「お年玉もらってー?雪だるま作ってー?初詣行ってー?マシュマロちゃんと遊ぶー?」
お箸を片手に指を折りながらにこにこと話していると。
「ひなた。その前に1年生最後の期末テストがあるから。」
まひるはつっこむ様にその言葉に水を指しました。
「もう!まひる!嫌な事思い出させないでよー!」
「……でもこのテスト頑張れば掃除しなくて済むんじゃない?」
優里がお弁当の箸を止めて、ひなたに笑いかけ。
それを聞いたひなたは顔を歪めて苦しそうに3人から顔をそらしてから大袈裟に胸を掴みました。
「………うっ!痛いところ突いてくるー!でもそれが出来れば今まで苦労してないよー」
はぁっとそれを見たまひるは息をつき
箸でひなたを指すと。
「ひなたはそれほど苦労してないでしょ?テスト前いつも何故か大量の漫画買って読んでるだけじゃん。」
「えっ?えへへへ?」
少し照れてから、いきなり泣きそうな顔になってポソポソとご飯を無言で食べていたましろの腕を掴み。
「マシュマロちゃーん!どーしよー!?今回は追試を受ける訳にいかないのー!冬休みを満喫したーい!」
ひなたが泣きついて来てもましろはあまり動じることなくお弁当を食べ続けました。
「当たり前だけど!遂にひなたもマシュマロちゃんに呆れられてしまったね!」
可笑しそうにまひるが笑ってから何かを思い付いた様に優里を見ました。
「そうだ!オレ達には学年トップの橘君がいるじゃん!今日から掃除が終わり次第放課後教室で勉強しない?」
「…………えっ?」
優里がまひるの提案に固まっていると、まひるは更に耳元で内緒話をするように
「ほらほら?オレが見るところによるとマシュマロちゃんノートを書くだけで精一杯そうだし。今迄のマシュマロちゃんの勉強能力を見るチャンスじゃない?」
イタズラっぽく耳打ちするまひるに優里は長い息を吐きました。
「ねぇねぇ?なに?なにー?なんの内緒話し?」
それに興味津々なまひるをを他所に何処か疲れた様に
「……分かったよ。人に教えたこと無いけど勉強会してみようか?」
「やったー!」
と盛り上がる2人。
その反対にましろはやっぱりどうでもよさそうにお弁当の蓋を閉めて片付けていました。
――――放課後。
まひるは今迄よりもテキパキ動きすごい早さで教室を掃除し、終わるとすぐに机を2つ反転させて勉強会の準備をしました。
4人は席に座ると、先ず始めに優里が2人に聞きました。
「えっと?2人は苦手な科目は何?」
「オレは英語かな?」
「私は特に酷いのが数学と物理ー!」
「……そう。じゃあそれら範囲内の教科書の頁数から問題解いてみて?」
「りょうかーい!」
2人は鞄から教科書とノートを取り出して黙々と問題を解き始めました。
「ましろも数学からやってみようか?」
ましろも教科書を開いてノートと一緒に読み比べてみるも全く鉛筆が進みませんでした。
「…………ましろ?」
「………………。」
「えっと?」
「………………。」
優里がましろの顔を覗くとそこには心底困惑して目をぐるぐる回している姿がありました。
「………くっ!」
優里はすぐさま顔を反らして笑いを堪えると勉強していた2人が顔を上げて疑問の表情を浮かべました。
「どうしたの?」
まひるが聞くと
「あっえっと何でもないよ?ごめんね?2人は問題に集中して?」
疑問は残るも2人はまた問題に集中することにしました。
優里はましろの頭をポンとなで耳元でこっそりと
「ましろは基本的な事からやろうね?」
と囁きました。
――帰り道。
その日の下校時間ギリギリ迄4人は勉強して、外に出るとまひるとひなたはおもいっきり伸びをして見せました。
「あー疲れた!こんなに勉強したの。受験の時以来だよー!」
「……ひなた。だからそれじゃ駄目なんだって!……いやぁそれにしても橘君教え方上手いね!流石トップ!」
まひるはイタズラっぽく笑いました。
「……ありがとう。」
ニッコリと平然に笑う優里とは対照的にまだまだ目をぐるぐるさせている子が1人。
「そしてマシュマロちゃんは思った以上に勉強苦手だったね!ひなたが教えてたの見てびっくりしたよ!」
「あっ!それどういう意味よー!」
今にもホッペを膨らましそうなひなたがまひるを睨みました。
「あっ!じゃあオレ達はこっちだから。また明日もよろしくね!」
「またね橘君!マシュマロちゃん!」
賑やかな2人が大きく手を振ってそのまま帰り道を歩いて行きました。
2人がいなくなり、いつもの静かな帰り道。
ふぅと優里が一気に気の抜けた息を吐き出しました。
「………改めてお疲れ様。」
その言葉に少し顔を上にあげるとそこには何だか楽しそうな優里の姿がありました。
「………勉強嫌い。」
優里がその言葉に気が付くと少し笑いました。
「オレも嫌い。只の作業にしか思えないからね。でもましろにとってはこれから必要な事になるよ。」
「………必要ないもん。…やりたくない。」
駄々をこねる子みたいな表情で顔をそっぽに向けると
「だーめ。オレが許しません。ということでましろには帰っても特別授業ね?」
「えっ!?」
本気で嫌なんだなと取れる声を聞いて優里の顔は自然と笑顔になっていました。
「今日の夕食ココアはオレが作るから?ね?一緒に頑張ろう?」
「うーーーっ。」
ましろの唸り声にまた笑い、この日の帰り道は少し賑やかなものになりました。