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マシュマロ   作者: 里兎
10/23

~優里の視点~


「最悪だ。」

つい言葉が漏れてしまったのは、ましろの部屋で他の人に殺させないでと頼んだ次の日の朝の事でした。

心に残っていたのはましろの涙。

虚無の目。

必死に死にたいと願っている。

ましろに声はまだ届かない。

昨日は自分が必死になりすぎてあの子の表情を見れる余裕が無かった。

順番に自分の気持ちを整理していたら、目覚ましが大きな音をたてて鳴りました。

その音は自分の世界を動かす始まりの音。

優里はそんな風に思ってゆっくりとベットで半分だけ起きていた体を動かし、キッチンへと向かいました。

朝のお弁当は毎日優里が作っていました。

始めはましろに少しでも美味しいものを量食べて欲しいという気持ちから始まったものでしたが、今はもう日課みたいになっていました。

そして優里にはもう1つの日課がありました。

作り終わったお弁当を冷ましてる間に階段を登りましろを起こす事でした。

昨日の今日で少しましろの部屋に入りづらい気持ちは多少ある。

でもましろの感情はまだ不完全。

きっといつも通り。

と思い、呼吸を整えて扉を開きました。

そこにはいつものベットの上で亀状態になっているましろがいました。

「ましろ?起きて?朝御飯食べよう?」

優里がそういうと布団の隙間からましろがちょこっと顔をだし、虚ろな表情のまま頷きました。

良かった。

いつも通り。

少しホッとした優里は、頭を撫でてましろが布団から出るのを待ちました。


「…………………。」


「………………………。」


「………???。」


いつもならゆっくりでも体を動かしベットから出てくる筈のましろが優里の手を見つめたままぼうっと動こうとしませんでした。

「…………えっと?ましろ?」

優里のその声にやっと頭が動いたのかはっとしてゆっくりと体を起こしベットの外へと出てきました。

その後の朝食の時も何処かギコチなく見えました。

家を出て学校に向かうとやっぱり繋いだ手を見つめたままのましろがそこにいました。

無言はいつもの事。

どうしたんだろう。

「……………………あのさっ。」

ましろに問い掛けようとした時。

不意に後ろから大きな走る音がしました。

それはひなたとまひるのものでした。

ひなた達が2人の元へ駆け寄るとキラキラとした笑顔で。

ましろを1人にしない。

新たな決意を聞き。


「うん……わかったよ。」


精一杯の笑顔。

今まで興味を持てなかったひなたとまひる。

何故まだ出会ったばかりのましろに、親身になってくれているかよく分かりませんでした。

それからひなたとまひるは何故ましろを連れていったのかと話していました。


「ひなた……それ本気?だいたい想像つくでしょ?」


何で?

分からない。

今まで他人に興味を持てなかった。

あの子らは誰だ?

どうしてましろを?


学校の玄関に着くと優里は、まひるに持っていた心の疑問を聞いてみました。

「えっと?橘君本当に気付いて無かったの?」

「ごめんね?」

「……あーーっと。そっか。だよね。別に謝ることじゃないんだ。」

まひるは少しバツが悪そうに靴を履き替えながら、話し始めました。

「……橘君は気付いて無かったかも知れないけど。君。人気があってさ、その女の子達が嫉妬してマシュマロちゃんを連れていったんだと思う。」


下らない。


心にはそれしか浮かびませんでした。

「……そう………ありがとう。」

顔は覚えているそしてあの不適な声も。

そして…何をすべきかは分かっている。

「えっと……橘君?」

靴を履き替えたまひるは少し遠慮がちに声を掛けました。

まひるには今の優里が冷たく怖く感じたから。

優里はまひるの声かけに笑顔だけで答えて、ましろとひなたが待っている方に歩き出し教室に向かいました。


――昼休み――


「ごめんね?ちょっと用事があるから先食べてて?」

優里はそう言って自分の席を後にしました。

目的の女の子達のりぼんの色が同学年のものだったので1つ1つ同じ階の教室を覗いていきました。

そして1つの教室を見たとき


「……いた。」


女の子達が輪になってお弁当を広げている最中でした。

優里はニッコリと笑顔を作って教室のドアにもたれ掛かりながら友達と話している男の子に声を掛けました。

「ねぇ?あそこにいる子呼んでくれない?」

「えっ?誰……あぁ佐伯かな?いいよ!」

男の子は女子の群れから直ぐに1人の女の子の名前を出して佐伯と言う子に声を掛けにいきました。

女の子は優里を見るなり顔を青ざめさせてしどろもどろし始めました。

中々来ない女の子に痺れを切らし優里は教室に入り、佐伯と言う子に笑顔作って

「すぐ終わるから。少しいいかな?別にここで話しても良いんだけど。」

「えっ…あっ…いっ…行きます。」

佐伯と言う子は思わず敬語になり、優里に従って後を付いていきました。

そして少し歩いて、とある人気のない教室の裏側で優里は足を止めました。

「……あのさ。もうオレとましろに関わらないでくれる?」

「えっ?」

笑顔を辞めた優里の表情は冷たく怖いものになっていて。

「オレ。君達を好きになること無いから。」

「…………そっそんなっ!」

「………オレを本気で好きでも無いくせに?」

「えっ!?私は…本気で……!」

「………次は無いと思って?」

「あっ………」

佐伯と言う子の背筋はヒヤリしてその場に、座り込んでしまいました。

そうしてそのまま青白い顔の女の子の隣りを平然と通り過ぎて教室に戻りました。

教室に戻るとまひるとましろが話しているように見えました。

まひるは楽しそうに笑っていて。

少し目を伏せて、1つ呼吸をしてから2人のもとに行きました。

「ごめんね?お待たせ。」

見るところましろはお弁当も食べずにまひると話していたようでした。


「オレを待ってた?」


………そんなわけない。

食欲がまだ無いだけだ…。


いくつかのやり取りをするとましろと目が合いました。

そこにあったのは寂しい顔。

初めて見た表情。

ましろはすぐにまたぎこちなく目をそらしました。

朝と同じ感じ。

少しの違和感。

それからひなたが合流して、4人でもうすぐで終わる昼休みを気にしながらご飯を食べました。


―――放課後。


「橘君ちょっといいかな?」

今日はまひるも交えて4人で教室の掃除をしていた時の事。

「どうしたの?」

箒を片手にまひるは優里の側に行きました。

「何かあった?」

「えっ?」

唐突の質問に優里が困惑していると

「いやっ……昨日とは違うっていうか…今日はマシュマロちゃん、橘君といる時気まずそうだからさ」

「…………気まず……い?」

「うん………?ってもしかして気付いて無かったの?」

まひるは少し呆れた様に頬を掻きました。

「えーっと……まぁ取りあえず何かあったら相談乗るからさ?」

バツが悪そうにそう言うとまひるは箒を持ち直し教室を掃除し始めました。

朝からだった。

ましろの様子がおかしかった。

ずっと気まずかった?

あのましろが?

死ぬこと以外に興味を持たない女の子が?

優里は駆け巡るその言葉達で頭がいっぱいになりました。


―――帰り道。


いつものように手を繋ぐ。

ましろの手は冷たい。

………聞いてみよう。

優里は足を止めてましろに向き合いました。

「…………あのさ…気まずかったりする?」

そうするとましろはハッとするように困惑しながら優里から視線を外しました。


……本当だった。

ましろは気まずいのか。

何も興味を持たない彼女が。

………そうか。

嬉しさが込み上げる半面優里の心は少し寂しくもありました。

嬉しい筈なのに

どうして?

ちゃんと笑えない自分がいるんだろう?

どうして?


「………寂しいの…?」

突然のましろの言葉に優里の時間は一瞬止まった様に感じました。

1人は慣れている。

そんな感情必要ない。

そんな……気持ち……。

暗く染まった闇のモヤが心を埋め尽くす様でした。

それでもましろには何とか笑顔を作って


「大丈夫。今はましろがいるから寂しくないよ?」


そう答えるのが精一杯でした。

今は……今は…。

昔は?

これからは?

なんとも言い様のない感情を膨らませながら2人は帰り道を歩きました。

ただただましろとお揃いのブレスレットが優里の手首で揺れているだけでした。



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