恐ろしき罠=初めての・・・
参考のためにヤンデレ寝れないCDだか、そんな感じのやつを偶然発見して視聴してみたら・・・・・気分悪くなりましたハイ・・・・・
『――雫雫。一旦深呼吸しようか――』
『――え!? は、はい! はぁ~・・・すぅ~・・・・・ゴホゴホッ!?――』
『――順序逆だってば――』
『――うぅ・・・すみませんすみません・・・地球の酸素を無駄遣いしてすみません・・・これからはご迷惑掛けないように二酸化炭素のみで呼吸する方法を身に付けます・・・――』
間違いない。明らかに電子機器から聞こえてくるのは、今日行われていた俺と雫の会話だ。ただえさえ印象深かった雫との会話だったのだ。忘れるわけも聞き間違えるわけもない。
だからこそ、それを聞いた瞬間にただならぬ悪寒に襲われた。咲夜は確かに大人しく俺の家に帰ったはずなのだ。現に窓ガラス越しに校門玄関からダッシュで家に帰っていく咲夜を確認しておいたのだから。だがこれは一体どういうことなのだろうか?
「お、おい咲夜……? それ……」
「酷いよ白奈。アタシに嘘を付くなんてさ……」
俺の胸に顔を埋めているから表情は分からない。でも、声の質が明らかに変わっている。それは何処か枯れていて……そして冷めているような声だ。
何で……何で俺は少し怯えているんだ?
「嘘って……俺は用事があるって言ったろ?」
「違うよ白奈、全然違う……。これは用事じゃなくて時間の無駄使いって言うんだよ。それに夜遅くまで掛かってないでしょ? 白奈は二つも私に嘘を付いたんだよ」
「じ、時間のことに関しては悪かったよ。でも時間の無駄っつーことに関しては不愉快だぞ」
「不愉快? どうして?」
更に声の質が冷たくなったような気がした。でも俺は動揺の色を見せず、咲夜の頭を撫でながら話を続ける。
「雫と話をする時間は無駄なんかじゃない。むしろ俺にとって有意義な時間なんだよ。それを無駄だと言われるのは不愉快だ」
「…………ねぇ白奈」
「なんだ?」
「アタシとあのクソ女、どっちといる時が白奈が幸せと感じられているのかなァ?」
咲夜は俺の胸から少し顔を離して俺を見上げた。そして俺は、はっきりと見てしまう。正気を失っているように、光が失われている暗闇のような咲夜の瞳を。
その瞳を浮かべながら笑う咲夜は、俺が初めて咲夜のことが怖いと思わせるものだった。
「ねぇどっちなのかなァ? いや言わなくても分かるけどね。アタシ、だよね? そうだよね当たり前だよね。アタシはずっと白奈と一緒にいたんだもん。それなのに私よりも居心地良く話せるクソ女なんているはずないよね? そうだよね? 白奈?」
「そ、それは……」
言うか。それとも言わないか。どうしてしまったのだろうか咲夜は。今までにもこういう嫉妬を抱くことはあったが、こんなに恐ろしいと思わせる表情を浮かべることなんて一度だって無かった。いつもの咲夜なら、ふてくされて頬をぷくっと膨らまして怒るのだ。だが、今の咲夜にはそんな姿は微塵にも感じられない。悍ましい姿しか見えていない。
「休日の日に二人きりでお出掛けなんてしないよね? だって、白奈は今、アタシと、ずっと、一緒に、いてくれるって言ったもんね? 勿論これも嘘だなんて言わないよね? だって白奈はアタシのことが大好きだもんね?」
俺の両頬に両手をそっと添えて微笑む。しかし見た目は変わらず悍ましい笑み。思わず離れようとしたが、咄嗟の判断で踏み止まった。今の咲夜を刺激するようなことをしたら、何かが起きかねないと思ったからだ。
……何か? 何かってなんだ? 俺は今、何を考えている?
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「いや~おめでとう結城白奈君。何と君はこのゲームの参加資格を得て参戦することになりました~」
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っ!? 何でこんな時に意味の分からない夢のことを思い出すんだ!? あれはただの夢だろう!?
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「えーと、そこでルールの説明ね。まずクリア条件は、本命の恋人を一人決めて作って一週間生き延びることができたらクリア。でももし――」
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止めろ……あんなものこそ嘘だ。ただのくだらない幻覚だ。そうだ、最近疲れてるからあんな変な夢を見たんだ。絶対にそうだ。
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「誰かに殺されるか、事故死しちゃった場合は失敗」
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違う違う違う。ありえる筈がない。そんな筈がない。あれは仮想でのゲームだ。現実じゃない。俺には何も関係ない!
「ねぇ白奈、答えてよ? アタシとずっといてくれるんだよね? あのクソ女の約束なんて知らない話だよね? 関係ないよね?」
何を臆する必要があるのか。今までだって俺は正直に言いたいことを言って打ち明けてただろ。今日だってそれでいい。それでいつもみたいにうやむやになって、次の日にでもなれば忘れてくれるだろ。
「あのな咲夜……どっちが楽だとか、どっちが幸せだとか、そういう問題じゃねぇんだよ。俺は咲夜と一緒にいる時も、雫と一緒にいる時も幸せだと感じてる。いちいち比べる必要なんてねぇんだよ。それと俺はずっと一緒に居てやるとは言ってねぇ。咲夜が一人立ちするまで見ててやるって言ったんだ。雫との約束がある休日には行く。俺も雫も楽しみにしてることなんだからな」
「…………そっか。分かったよ」
ほらな、聞き分け良く聞いてくれた。正直に話せば咲夜もちゃんと分かってくれ――
「また白奈はアタシに嘘を付くんだね」
ドスッ
「…………え?」
突如、鈍い音が聞こえた。それは聞き覚えのある音。確か、前のギャルゲーじゃないギャルゲーで聞いた。これは――刃物が突き刺さった時になる音だ。
なら何処に? 何処に突き刺さった? というか、その刃物自体何処に……あれ? 胸の辺りが妙に熱くなって来てるような……? それもポタポタ水滴が落ちてるような感じもして……
「おかしいなぁ……おかしいよねぇ……何時から白奈はアタシに平気で嘘を付くような人になっちゃったのかなァ!?」
ズシュァッ!!
「っ!? がっ……ァアァァアァッ!?」
胸の辺りの熱みが突如、今まで感じたことのない比べ物にならないほどの激痛に襲われて、声にならない悲鳴が出た。
刃物だ。一本の包丁が俺の胸に突き刺さって、そして今抜かれたのだ。抜かれた瞬間、俺の胸から真っ赤な液体が宙を舞い、咲夜の顔に返り血が掛かる。
返り血を浴びた咲夜の表情は、完全に狂気に呑み込まれていた。瞳に返り血が付いて侵食してしまったかのように、咲夜の瞳の色が血色に染まる。
「おかしいおかしいおかしいおかしい!! 白奈は何よりもアタシを大切にしてくれる人だったのに!! 何よりもアタシを見てくれている人だったのに!! あいつらのせいで……あのクソ女共のせいで白奈は汚れちゃったよォぉ!!」
咲夜は何度も俺の身体に包丁を突き刺す。我を忘れてしまったかのように暴走を起こして、胸、腹、腕、足、あらゆる身体の部分に血色に染まった包丁が突き刺されていく。
「や……め……さく…………」
「待ってね白奈!! 今悪い細菌を取り除いてあげるからね!! アタシのことしか見ていなかった白奈に戻れるようにアタシが悪い細菌を取り除いてあげるから!! そしたらね!? そしたらねェ!?」
身体中が冷えきっていくのを感じながら、俺はおぼろげに映る咲夜の姿と包丁を見つめる。
もう動かない。何もできない。何も考えられない。ただ薄っすらとした視界に映るものを見ることしかできない。
「今度こそ……アタシとずっと一緒にいようね?」
そして最後に、俺の額に包丁が突き刺される瞬間を見て――俺は痛みを感じる前に暗闇に意識を奪われていった。
「ふふふっ。さぁ、ここからがゲームの始まりだね。やっと楽しくなってきたよぉ。頑張ってね、白奈君」